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最強の到着。

★ ★ ★


通路の進行方向を塞ぐ行き止まりを破壊した俺の目の前には、絶望する味方と薄気味悪い笑みを浮かべた若い男が立っていた。


「ツルギ!!」


ウォロフの泣き出しそうな顔を見た瞬間、脚は勝手に動いていた。


俺は一瞬で接近した男の顔を殴り、ふらついた男の後頭部に手を回し、引き寄せた顔面に膝をお見舞いする!


だが、当たったはずの拳と膝に直撃の瞬間、形の無い何かがあるような違和感を覚えた。


打撃が駄目ならと、男を持ち上げ前方へと投げつける!


しかし、投げられた男は壁には衝突はせず。


直前で、ふわりと勢いがなくなったかのように止まり、ゆっくりと地に足をつける。


「いきなり痛いじゃないか」


「お前がゴルドール・リーマンだな? 本来なら俺より年上のはずなんだが」


今の一瞬で、目の前の男が賢者である以外の可能性など無に等しい。


この肉体に殴られて「痛い」で済む人類など、この世に五人しか思い当たらないのだから。


「まあ、人は見かけによらないものだからね。そんな先入観は君の過ごしている世界では死に直結する愚考だよ?」


そんなどうでもいいゴルドールの戯言を無視して、俺はウォロフと倒れた血塗れのアシュリーへと歩み寄る。


「遅くなってわるかったな。ここからは俺がやるからよ」


「ツルギ、そんなことよりアシュリーさんが! このままだと死んじゃうよ!?」


「落ち着けって、お前になら聴こえんだろ?」


シー、と口の前で人差し指を立て、俺とウォロフは息を潜めて耳を澄ます。


静寂の中、弱々しくても一定のリズムで脈打つアシュリーの鼓動が聴こえている。


「ウォロフ、俺が戦う前にいい事を教えておいてやる」


ウォロフは強い男になりたいと言っていた。


勝たなければ行けない奴が居ると。


だから、自分より強い俺の事を近くで観察する事で、自分にはない強さを知りたいとこんな所までついて来ている。


だから、俺はそんな少年におっさんとして、この先の人生で役立つとっておきの技を伝授する。


「ウォロフ、目の前の女の子がそんな姿になっていたら上着くらい貸してやるのが男ってもんだ」


衣服すらもズタズタになったアシュリーを見て、脱いだジャケットをウォロフへと投げ渡す。


受け取ったウォロフがアシュリーをジャケットで覆うのを見て、俺はゴルドールに向き直る。


「おっと、なんか言ってたか? わるいけど全部聞いてなかったわ」


「余裕ぶっていても君が殴った僕が、怪我一つしていない事実は消えないよ」


「さっきはお前が賢者って知らなかったから手加減したんだよ。知らねえ奴を殺しちまうわけにはいかねえからな!」


今度こそ、全力で踏み込んだ足で床が割れた。


部屋全体が肌で感じるほど研ぎ澄まされた緊張に支配され、空気が震える。


「会えて嬉しくもなかったけど、久しぶり。じゃあな!」


俺が渾身の一撃を繰り出す瞬間、ゴルドールの目つきと共に俺とゴルドールの周囲の空気が一変した。


先ほどは弱すぎて気付かなかったが、ゴルドールの纏うそよ風が突然、嵐の様な激しさをもって吹き荒れる。


風の抵抗で、立っているのも辛くなる暴風域の中で伸ばした俺の拳は……


ゴルドールが手を添えただけで簡単に止められる。


「人類を守る為にここまで来たようだけど、残念だね。その程度の君には何も守ることなんてできないよ」


「もう勝った気か? そりゃちょっと気が早すぎやしねえか」


「吹き飛ばす風よ、目の前の脅威を消し飛ばせ」


俺にではなく、俺を横切って伸ばした掌から翠色の魔法陣を展開してゴルドールが唱える。


「ウィンドマジック・ガスト」


その手の先に居るのは傷ついて動けないアシュリーと、それを心配そうに見守るウォロフ。


「ウォロフ逃げろ!」


「え?」


アシュリーの容体に気を取られていたウォロフが慌てて、こちらに顔を向ける。


クソッ、逃すのは間に合わねえ!


俺は発生した魔法の風よりも早く駆けて、ウォロフと風の間に割り込む。


「こんな分かりきったクソッタレな策略に! 誰が屈してやるかよっ!」


申し訳程度で目の前に交差した腕が、荒れ狂う風を受けて止める。


「オォォォォォォォォ!」


腕に感覚を失いそうになる衝撃の嵐がぶつかる。


一歩でも間違えば、その瞬間どこかに腕が飛んでいきそうだった。


やがて、目の前で暴れる暴風が勢いを失い霧散して空気に溶け込んで消えた。


「え、ツルギ。それって……」


俺を背後から眺めているウォロフが恐る恐る、その光景を口にする。


今のでTシャツも散り々に弾け飛んだし、そりゃ見られちまっても仕方ねえか。


「ツルギの背中になんで賢者やアシュリーさんが、手のから出すやつがあるんだよ!」


「もうちっと様子見てから使いたかったが、やっぱそんな甘くはねえか」


「僕からすればやっと本気になったのか、と言いたいけどね」


リーマンは退屈そうな顔で俺を見据える。


「ふん。奥の手っていうのは、ここぞって時まで取っておくものだぜ? 隠居ジジイ」


別に、手加減の為に出し惜しみしていたわけじゃねえ。


ただ、これには時間制限があるんでタイミングを窺ってただけだ。


だが、もうそんなことも言ってられない。


次受けたら、腕が動く保証なんてありはしないからな。


「その腕は大地を揺らす剛力」


詠唱と共に俺の背中に刻まれた三連の魔法陣が外側から順に光を放っていく。


「その脚は千里を駆ける雷鳴、その一振りは万を葬る剣撃」


全ての魔法陣が輝き、頭上から俺の全身を囲い眩い光が包み込む。


「剣帝顕現! 武御雷(タケミカズチ)


俺はこの姿が好きじゃない。何故なら……


光から解放された身体は、膨大な魔力によって青白く発光し髪は白く変色している。


この時の俺は、まるで人間じゃない。


「さあ、愚かな賢者よ……敗北の時間だぜ」

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