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賢者と吸血鬼の因縁。その二

中に入ると、そこはこれまでと同じ半円形の天井の高い体育館のような場所。


「さあ、ここなら心置きなく戦える。君の弓も打ち放題だろう」


あの時、(つるぎ)に抑えられて咄嗟に隠れたが、やはり存在は気づかれていたようだ。


「変わった自室をお持ちですね。あなたは走り回っていないと落ち着かないんですか?」


「ここは僕のプライベートルームだが、生活空間ではないよ。戦闘をするならと、ここに呼んだだけで」


「呼んだ? 私たちは真っすぐ進んでいたらここに着いたのですが」


「実に、愚かだね。君たちがここに入ってから刺客の待ち伏せに会い続けてまだ何も疑わないのかい?」


疑問を呈したアシュリーにまたもや、ゴルドールは頭に手を当てて首を振る。


「それはオイラたちが来ること知ってたってことだろ? でも、オイラたちはソイツら全員倒して自分の足でここまで来たんだぞ!」


「言うより見せたほうが、早いのかな」


ローブの袖から滑らせ、ゴルドールは何かのリモコンのようなものを取り出す。


それを押すと、部屋の周囲が重苦しい音を立てて、壁が回転し始める。


「なるほど。すんなり行き過ぎていると思っていました」


「アシュリーさん! オイラたちが来た道が塞がっちゃうよ!?」


音が止み、壁の回転が止まった。


さっきまであった入り口は塞がり、代わりに新たな道がこの部屋から続いている。


「最初からここに来た時点で君たちが進む道は僕が決めていたんだよ。そして、帰る道もね」


ゴルドールのうっすら浮かべた笑みが、アシュリーにとっての開戦の合図だった。


「ウォロフくん、私の後ろに隠れてください」


「う、うん」


言われて、ウォロフは申し訳なさそうにアシュリーの背後にまわった。


「さあ、始めようか。元々大規模な吸血鬼集団の長だった男の娘だ、少しは期待しているよ」


立っているのがやっとのアシュリーを見ても、ゴルドールは油断もせずに掌を向けて構える。


「<ブラッド・拘束リストレイント>!」


ボロボロの身体を血結晶で無理矢理固めたアシュリーが、真っすぐ固定した手に弓を生成する。


ブラッド・呪文スペル! <ブラッド・ボウ>」


「一矢で決めてあげますよ。今度はそよ風でそらせるようなひ弱な物ではなく、その命を穿つ一撃を」


いつもは一瞬で創り出す矢に、倍以上の時間と血と集中力を注ぎ込み。


アシュリーは先端から螺旋状に溝が出来ている禍々しい真紅の槍を生み出す。


「さっきの魔法程度で防げるものなら防いでみなさい!」


打ち出す瞬間。言い放ったアシュリーの言葉に、ゴルドール・リーマンは首を傾げた。


「魔法? 僕はまだそんなものは使っていないが……奇跡を見るのはここからだよ」


ゴルドールは唱えるこの世界で、人々を最も救い。


最も恐怖させた、魔法という人類の奇跡を。


「穿ち疾り抜ける風よ、目の前の脅威を滅ぼせ」


ゴルドールの構えた掌から、翠色に輝くの魔法陣が浮かび上がる。


それは大気を震わせ、空気中の魔素が魔力へと変換されていく。


「ウィンドマジック・ブリーズ」


言葉と共に発生した風が、アシュリーが放った槍を一瞬で粉々にした!


そして、全く衰えていない猛威を奮い向かってくる。


(ブラッド・)呪文(スペル)(ブラッド・)(バットアンブレラ)>!」


風の魔法を防ぐため、アシュリーは目の前に五角形の山なりに湾曲した十枚の盾を出現させる。


ああ、私はここまでなんだ。


容易く割れていく血結晶の盾を見て、アシュリーの瞳に溢れる涙が光る。


ごめんなさい、お父さん。


私はあなたが無抵抗で守り抜いた日に、求めた生き方はきっと出来ていませんよね?


でも、私に後悔はありません。


だって、あなたが教えてれた誇り。それだけは、最後まで守り抜くことが出来たから。


誰かの為に力を使えというあなたの誇りを、全う出来たから。


もしも、死後(そちら)で会えるなら、叱られてしまうかも知れませんがいっぱい抱きしめさせてくださいね?


……伝えたいこと、いっぱいあるんですから。


「<(ブラッド・)(ウォール)>!」


唱えたアシュリーは頭だけで振り返り、後ろのウォロフへと振り向く。


「ウォロフくん! 思い切り雄叫びを上げてください!」


「え、雄叫び?」


「お願いします! 早く!」


「わ、わかった!」


ヲオォォォォォン!


理解も追いつかぬままウォロフは咄嗟に吠えた。


その瞬間、地上にまで漏れ出そうな大きな雄叫びが、部屋中に反響していく。


「ありがとうございます」


最後に、アシュリーは優しい笑顔を向け、暴風から我が身を守っている壁に両手をついて祈るように目を閉じる。


やがて、せめぎ合っていた血の壁は血結晶で固定していた自分の身体ごと、吹き抜ける暴風によって砕かれた。


「最後の最後で色々と足掻いたね。だけど君達の……ん?」


抵抗も出来ず躊躇なく前から倒れ込むアシュリーを眺めていたゴルドールは、そこで言いかけた言葉を切る。


その瞳に、目の前で倒れた仲間を泣きそうな顔で見つめる無傷の人狼の姿が映ったから。


「なるほど……君の、負けだね」


「アシュリーさん、オイラなにもできなかった……最後まで、守ってもらってばっかりだった……」


何もできず、恐怖に支配されて守られるだけだった自分に絶望したウォロフが、悲しみと無力感で膝から崩れ落ちた。


打ちひしがれたウォロフの背後、壁で塞がれた入り口が轟音と共に唐突に開通した!


そして、現れた。


砕けた壁から、ここに居る全ての者が待ちわびた男が。


「ツルギ!!」

登場人物紹介その九


ゴルドール・リーマン

小惑星衝突から世界を救った五人の魔法使いの一人。賢者の位を持つもの。

年齢八十歳。誕生日11月3日。

容姿、年齢に不釣り合いなほど若々しい天然パーマの青年。風を象徴とした魔法陣の模様が描かれたローブを着ている。

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