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賢者と吸血鬼の因縁。

「いかにも、僕が小惑星衝突から世界を救った五人の賢者が一人。ゴルドール・リーマンだ」


ウォロフは膝の上に乗せたアシュリーを眺めて、早くなった自分の心音に混乱していた。


逃げなきゃ! このままオイラまでやられちゃったらホントにアシュリーさんが死んじゃう!


しかし、心の声とは裏腹に恐怖で動かない足を叩いて無理矢理立たせようとする。


「ふうん。それにしても君は本当に良い子だね? 僕を目の前にしても叫びもしなければ逃げようともしない」


そんなことは、できたらとっくにしていた。


ただ、声を上げようとしても、立ち上がって逃げようと何度心の中で決めてもできないのだ。


先ほど目の前で見えない力と壁に押し潰されたアシュリーの姿を思い返すたび、恐怖で喉は張り付き、足は地に縛り付けられた。


「そうだな。犬は人間の友だと聞いたことがあるし、君は利口で鼻も効く」


ゴルドールは、ウォロフに寒気のするほど気のいい笑顔を向ける。


「君を僕のペットにしてあげよう。どうだい?」


「……」


「では、こうしよう。その女を見逃してあげるから僕のペットにならないかい?」


「……それは」


ウォロフは、答えに詰まった。


アシュリーは良い人だし守りたいという気持ちもある。だけど、ウォロフにはやらなければいけない事がある。


それは、ウォロフの人生に置いてなににも変えられない目的であり使命。


一瞬で、どちらかを選ぶことなど不可能だった。


「手触りも良さそうな綺麗な毛並みだね」


何も言わぬウォロフの頭を撫でようと、ゴルドールが手を伸ばす。


近づく手に怯えながらもウォロフは、そこから逃げることができなかった。しかし。


「やめて下さい。あなたの汚れた手で彼に触るのは」


手が届く瞬間。顔面を鮮血で汚したアシュリーが睨みつけ、ゴルドールの手首を掴んだ。


「おや、まだ動けたのか? ただの女かと思っていたがどうやら君も人間ではないのかな」


ゴルドールが初めて無関心だったアシュリーを視界に収めて、その手を払いのける。


「私はあなたが大好きな吸血鬼の娘ですよ。覚えていませんか? 五年前、あなたが始末した田舎町の吸血鬼の男を」


「ん? ああ、覚えているとも。何せその男は僕が初めて殺してしまう事になった吸血鬼だからね」


わざとらしく声を湿らせるゴルドールを前に、アシュリーは力の入らない半身を無理矢理引きずって立ち上がる。


「まるで、意図していなかったことのように言いますね。あなたの英雄ごっこに巻き込まれた私と母はあの日から死んだように止まった時の中を過ごしていたというのに」


その日以来、アシュリーの母はよく笑うようになった。


父が居た時は微笑む程度だったのに、アシュリーの前になるといつも元気に笑っていた。


しかし、自分が眠った後、広くなった寝室で寂しそうに夜な夜な涙を流してことを、アシュリーは知っていた。


アシュリーはそれを見ているのが辛くて、逃げるように父に教わった戦闘術に打ち込み、書斎の父の記録を盗み見てはブラッド・呪文スペルを磨いていった。


全ては、母と自分から愛する父を奪った。賢者という英雄気取りの命を終わらせるため。


「あの結果に不満があったのは、僕も一緒だよ。あの時、僕は君の父親に取引の交渉を持ちかけたんだよ? だが、君の父親は断った。計画の内容を聞いたにも関わらずだよ!?」


大げさに手で顔を隠したゴルドールは悲しそうな口調とは裏腹に、どんどん調子を上げていく。


「そうしたら……死んでもらうしかないだろう?」


セリフと共に現れた満面の笑みは、アシュリーの辛うじて抑えていた沸点を吹き飛ばした。


「フフフフ、今だけはあなたと意見があったと言わざる負えませんね! 私も同意です! あなたのような腐りきった人間には死んでもらう他に救いようなどありません!」


アシュリーが構え、もう一度血ブラッド・呪文スペルを発動しようとする。


が、それをゴルドールは手で制して、一つの提案をする。


「おっと、待ちたまえ。なら僕達のダンスに相応しい場所へと案内しよう。こんな狭い通路では君も真価を発揮出来ないだろうし」


「随分と余裕ですね? 不意打ちで一発当てたくらいでもう勝ったつもりですか」


「そう思うなら、なおのこともう少し広い場所に行こうじゃないか」


言い残して、無防備に背中を見せたゴルドールが自分の出てきた部屋の中へと再び入る。


「どうするの? アシュリーさん」


罠の可能性が高いこんな誘いを受けるのは危険だとアシュリーは思う。けれど、それと同時に、行かなくては、この男の息の根を止めることができないのだと考えてしまう。


「私は行きます。あの男を終わらせることが私がここに来た理由ですから」


「それなら、オイラも行くよ! アシュリーさんの役に立てるかわからないけど、出来ることがあったら言ってほしいんだ」


「では……私が勝ったら、その時はまたウォロフくんの毛並みを堪能させてもらいますね」


「え……ま、まあそれくらいなら。お手柔らかに」


先に入っていったゴルドールを追って、二人も何が待ち受けるか分からない賢者の部屋へと足を踏み入れる。

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