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素晴らしい信頼関係。

★ ★ ★


剣が仲間の窮地を予感して走り出す、少し前。


時間は少し(さかのぼ)り。

アシュリーとウォロフが投げ飛ばされた後こと。


「アシュリーさん、ホントにツルギだけ置いてきて大丈夫なのか!?」


「大丈夫ですよ。あの人一人でも少なくとも私たちよりは安全です」


通路を走るアシュリーは振り返ることなく答えた。


なにしろここは賢者の居所にして、敵の本拠地である。


最初の部屋に居た秘書の様子を見るに、アシュリーたちが来ることはすでに知られていた。


それ故、どこに敵が待ち受けているか定かでないし、どんな罠があるのかも分からない。


なぜか真っすぐ続く通路を走っているこの時も、安全と言い切れる場所など存在しなかった。


「そっか、なら走るしかないか!」


「ええ、それよりウォロフくん。ゴルドール・リーマンの匂いの方はどうですか? さっきからずっと走っていますが近付けてますか?」


もしも、次なる敵が現れたら自分がウォロフを守らなければならない。


そう思って、アシュリーは隣の狼少年の鼻に敵の居場所を尋ねる。


「うん、近づいてるよ。多分この先の部屋に居るんじゃないかな?」


「わかりました。では、この先の部屋についてもウォロフくんは自分だけの心配をして、絶対に私を助けようとは思わないでください」


「いや、でも、その賢者ってのはものスゴく強いんだろ? だったら助け合った方がいいよ」


「それは普通はです。リーマンという男は必ずその感情を見抜いて利用してきます。だから、お互いのため全力で自分を守ることに徹しましょう」


ウォロフも薄々、気づいていた。


自分がツルギやアシュリーと比べて場違いな戦場に居ること。戦いのたびに二人の行動を確認してから、合わせて動いている自身の脆弱な戦闘経験に。


「う、うん。わかった……」


「なにをしょんぼりしているんですか?」


アシュリーは落ち込んで耳の曲がったウォロフに、腕を伸ばして頭をそっと撫でる。


「ウォロフくんのこと、期待してるんですから。よろしくお願いしますよ」


「お、おう、まかせといてくれ! 絶対賢者のビックリした顔見させてやるからさ!」


元気に腕を振り上げたウォロフを見て、アシュリーは満足気に笑った。





「アシュリーさん、あの扉だ! あの扉の向こうに賢者が居るよ!」


部屋の入り口が見えた瞬間、ウォロフが鼻を鳴らしながら声を張り上げて叫ぶ。


「私が先に入ります! ウォロフくんは安全が確認できたら入ってきてください!」


そう言って、アシュリーは血の魔法を発動する。


ブラッド・呪文スペル! <ブラッド・履物ブーツ>」


ふくらはぎまで綺麗に覆う赤いブーツで扉を蹴破ろうとアシュリーの足を振るう。


しかし、扉は内側から開かれ、アシュリーは何もない空を蹴った。


開かれた入り口には、アシュリーが五年前に見た賢者と名乗る初老の老人……ではなく。


アシュリーと同じか少し上程度の年頃に見えるローブを羽織った青年だった。


「おや? もうここまで来たのかい」


「その服装……!? 弟子かご子息か知りませんが退く気がないなら覚悟してください!」


青年に躊躇なく蹴り込もうとするアシュリーに向かって、ウォロフが制止の声を叫ぶ!


「待って、アシュリーさん! ソイツから離れて!」


「弟子? 何のことか僕には理解できないが、その汚らしい足を向けるのは良くないね」


一直線に自分に向かう足を見た青年が眉をしかめる。


そして、鬱陶しい羽虫を払うようにアシュリーに向かって軽く手を振る。


「ソイツの匂いは! 賢者と一緒だ!」


「え────?」


振り向いたアシュリーに手を伸ばしたウォロフは、しかし、考えるよりも早く本能で一歩後ろへと下がった。


次の瞬間。アシュリーが立っていた辺りに突風が吹き荒れ、音とともに凄まじい力が横なぎに通り抜ける!


そして、"それ"はアシュリーを壁に叩きつけ、押し潰すと、どこかへと消えた。


「ア、ア……」


「君は利口だね? 僕が風を起こす直前に仲間の元へ駆けるよりも自分が助かることを選んだのだから」


ローブを着た青年は自分の術の範囲外に下がったウォロフを興味深そうに見つめる。


既に床に倒れて動かなくなった、血だまりで横たわるアシュリーになど見向きもしない。


「アシュリーさん! しっかりしてくれ!」


駆け寄ったウォロフが、取り乱しながらアシュリーを抱える。


「それにしても早いと思ったら一人居ないじゃないか? 一番強いはずの男が遅れるとは不可解だな」


「ツルギはオイラたちを信頼して、先に賢者のところへ行けるように一人で残ったんだ!」


「ツルギ? なるほど、剣か。クハハハハハ!」


青年はなにが可笑しかったのか。

顔を切り替えたかのように、突然高笑いをする。


「おい、なにがおかしいんだよ! 笑うな!」


「いやいや、すまない。君たちの素晴らしい信頼関係を見ていたらつい可笑しくてね」


「???」


「だって、そうだろう。信頼などというくだらない感情があの男の目を腐らせ、このゴルドール・リーマンと君たちで戦いが成立すると思っててしまったのだろう!? これを傑作と言わずになんと言うんだね!!」


「オマエがゴルドール・リーマン……じゃあやっぱり……オマエが二人の言ってた、賢者」


今さら驚愕するウォロフに、賢者ゴルドール・リーマンはゆっくりとお辞儀をして爽やかな笑みを浮かべた。

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