十一匹の吸血鬼。最強の男の本気。
背を向けた軍服の吸血鬼が、すでに小さくなって遠ざかるアシュリーとウォロフをじっと眺めている。
「追いたきゃ追ってみろ──」
俺は一足飛びで声を置き去りして、軍服の吸血鬼に迫る!
そして、握った拳に全力を込める。
「アイツらが見えてるうちに、俺を倒せんならな!」
一瞬で打ち出した拳は、軍服と俺の間に入ってきた黒服の吸血鬼の顔面に直撃した。
拳が黒服の顔面に豆腐のように簡単に沈みこみ、破壊して後方へと吹き飛ばす。
「なあ、その技が使えるってことはお前は中級以上の吸血鬼ってことだよな」
さっき軍服が使っていた血の魔法。
前に闘ったダイナーという吸血鬼の話では、血の魔法は中級吸血鬼以上しか使えないと言っていた。
よって、この軍服はそれ以上の実力を持つ吸血鬼ということになる。
そんで、従ってるだけの黒服達はそれ以下の雑魚だと思って良さそうだ。
「……やれ」
質問には返答せず、軍服の吸血鬼は具体性のない命令を黒服達に告げる。
それを聞いた周りの黒服達が、命令通りなのか考え無しなのか、俺に一斉に襲いかかる。
真紅の輝きを放つ剣先を光らせ、黒服達が次々に血結晶の剣を振り上げた。
さすがの俺も魔法の剣は当たってしまうと痛い。
上下左右から空気を切る音と共に振り回される剣先をすれすれで避け、返し拳を剣の腹に叩きつける。
結果、折角軍服が生成して血結晶の剣を呆気なくもガラス片に変えていく。
本当にお気の毒だな。
使い手がコイツらじゃ、俺にはかすり傷ひとつ付いていない。
「なあ、お前らは賢者の手下で、その計画を阻止しようとしてる俺を邪魔してるってことでいいんだよな?」
俺は鈍い剣筋を危なげなくかわしながら、今でなければ聞けないことを聞いておく。
「……何を言ってる?」
当然、俺の今更な質問に軍服は素直な疑問を口にした。
「いや、個人的にお前らの口から聞いて意思をハッキリさせときたいんだよな」
呑気に話してる間、黒服達が待ってくれるわけもないので、俺としても早めに答えを聞いておきたい。
九本目の剣を粉々にした時、素手になった吸血鬼の横からもう一匹が最後の一本で斬りかかってくる。
「……何の意味があるのか知らないが、当たり前だ。お前達などがあの方のお手を煩わせることが私は心底腹立たしい」
ずっと無表情だった軍服が憎々しげに歯を食いしばって言う。
「そりゃあ、よかった」
俺は、斬りかかってきた吸血鬼の手首に手刀を落とし、へし折れた手から剣を取り上げる。
「今から死ぬ奴には最後くらい本音を語ってほしいからな。これで心置きなく──」
俺が剣を奪ったのを見て、焦った黒服達が周囲から一斉に飛びかかる。
「さよならが言えるってもんだ!」
膝を曲げて地面に当たるギリギリに構えた剣先を、半時計回りに振りながら飛び上がった!
回転する剣で、周りを囲んでいた黒服達を足元から四等分に斬り分ける。
床に転がった自分の部下たちを一瞥して、軍服が詠唱を唱え出す。
「血の呪文──」
見上げながら詠唱を始めた軍服に
「させっかよ!」
俺は剣を回転させて、放り投げる!
勢いよく飛んだ赤いプロペラが軍服の頭と体を切り離し、地面に深く刀身を沈めて回転を止めた。
「わりいな。今回は俺も急いでるからお前らと遊んでる暇なんてねえんだ」
魔法は詠唱が完了しなければ、結果は発生しない。
発生しなければ、魔法陣を出すだけのちょっとした手品みたいなもんだ。
着地した俺が突き刺さった剣を拾う。
すると、吹っ飛んだ首が消滅し、軍服の首元から沸々と血が盛り上がっていく。
どうやら再生しようとしているらしい。
「そんなのは無駄だよ。お前が次に見るのは自分のボスが居なくなった世界だと思うから」
肩に担いでいた剣で、軍服の身体をさらに細かく分解する。
それと同時に、手に持っていた剣も魔法が解けたように音を立てて砕け散った。
使用者が居なくなって、魔法を維持できなくなったのだろう。
俺は、達成感も満足感も無く一人立ち尽くす。
それから煙草を取り出し数日ぶりに、火をつける。
ここのところ紗世やウォロフが居たので、煙草を吸うタイミングがなかった。
こんな状況なので、一本を吸ったらすぐにでも走らなくてはならないが。
だからこそ、俺はこの一本をしっかりと味わう。
広い部屋には、俺と静かな肉片だけが転がっていた。
アシュリーとウォロフは、すでに賢者の元に辿り着いただろうか?
二人で共闘し善戦していたら出番がなくなっちまう。そろそろ憩いの時間ともおさらばだな。
「ふぅ、おし!」
白い煙を吐き。ブーツで煙草を踏みつける。
「行くか!」
一歩踏み出した俺の耳に、聞き覚えのある遠吠えが聞こえる。
その瞬間、凄まじい衝撃がこの地下施設全体を地響きと共に揺らした。
「おい、まさか……!」
アイツらにこんなことを起こす特技は、俺が知ってる限りないッ!
だとしたら、これをやったのは一人しか思い当たる奴がいない。
俺以外で、今この場所で、そこまでの高威力の一撃を行える奴なんて!
「くそっ!」
走りながら、最悪の可能性が脳裏に浮かぶ。
景色の変わらない壁の通路内は焦燥で時間の流れがゆっくりしているようだった。
駆け出した足にさらに力を込め、俺は狭い通路の地を揺らしながら疾走する!




