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守りたい人の本音は、支え合いたい。

駅構内の喧騒の中で告げられた紗世の願いに、俺は顔を強張らせることしかできなかった。


「お、おい、なに言ってんだよ。これは俺達にとって大事な闘いなんだぞ?」


もちろん、こんな所で投げ出すわけにはいかない。


「そんなこと言われたってわかんないよ。わたしまだなにも聞いてないんだよ? 剣がなにと闘ってるかも知らないんだよ?」


「だから、それは時期が来たら話すって言っただろ」


「その時期っていつ? 明日? それとも一か月後?」


そんなことは俺のにも分からない。ただ、これがそんな短い戦いでないこと分かる。


「分からないけど、必ずその時は来るって約束するよ」


「じゃあ、わたしは剣がその人を倒すまでずっとあの村で待ってるの? どんな姿をしているかもひどい傷を負っているかもしれない剣の帰りをジッと家に籠ったままで?」


「わかった。だったら俺だってこれからはたまに帰るようにするから、それなら元気な姿を見れるだろ?」


最強の肉体に生まれて感じることがほとんどないが、そういう所を紗世は昔から普通の人間と変わりなく扱ってくる。


「剣、違うよそうじゃないの。わたしは剣の隣に居れない自分が許せないの、自分の弱さが許せないの」


俺と自分を比べて、紗世は自分を弱いという。


だけども、俺は紗世のその言葉に頷くことができない。……だってお前は、弱くなんてないだろ。


初めて出会ったあの日から、こんな当たり前のように俺に接して、人間にしてくれたじゃねえか。


なのに、そんなお前がそんな悲しそうな顔で自分のこと弱いなんて言うなよ……!


「そんな悲しいこと言うなよ。俺は紗世だけにはずっと笑っていてほしいんだよ……!」


「うん、ごめんね。でも、やっぱりわたしは剣を待ってるだけの自分では居たくない……だから――っ!?」


これ以上そんな紗世を見ていられなくて、俺は紗世の言葉を紡いでいく唇を強引に自分の口で塞いだ。


突然のことに驚いた紗世が徐々に落ち着きを取り戻し、それからさらにお互いの熱を重ね合う。


顔を離すと、紗世は熱っぽい瞳に俺を映して不思議そうな顔で眺めている。


「……紗世の気持ちは分かったよ」


「え、えっと、わたしはまだ状況が少しわかってないかも?」


「でも、今は話し合いをしていられる時間がないんだ。ごめん」


「う、うん。それで?」


俺は、本当は紗世に五年ぶりに再会したあの日、言うべきだった言葉を口にする。


「この戦いが終わったら一旦俺も、紗世と一緒に呪幸村に帰るよ。だから、そこで二人のこれからを話そう」


もう自分だけが助けられてるなんて、誤解は解かなければいけない。


「わかった……約束だよ」


この状況から、上目遣いで俺の理性に追い打ちをかける紗世を強く抱きしめる。


「ああ、約束だ。紗世……愛してる」


「ふふ、こんな人混みの中なのに剣さっきから大胆だね。……わたしも大好きだよ、剣のこと」


紗世が俺の背に回した手に力を込めて、離れるのをささやかな抵抗をしている。


流石に、少しは恥ずかしいってのはどうやらお見通しのようだ。


「五年振りだからな、あとちょっとだけこうしとくか?」


「剣がそうしたいの? ふふ、じゃあ仕方ないなぁ。あと三分……いや、五分だけだよ」


駅構内の人が行きかう通路で抱き合いながら時が進むのを憎らしく思う。


それから俺達は、次に離れる時まで互いの温もりを分け合った。




「よう、お二人さん。待たせてわるかったな」


紗世と別れてヴィント行きの車両内に乗り込んだ俺は、先に座っていたウォロフとアシュリーに声をかける。


「剣さんなら、間に合ってくれただけましだと思いますよ」


「ツルギ遅いからさっきの弁当食べちゃったぞ?」


と、空の容器を見せてきたウォロフを無視して俺は向かいの席に腰を下ろす。


「流石にここまで来て、お前らだけで行かそうってほど人でなしじゃねえよ」


こうして眺めると、列車内の木造の壁に赤を基調とした内装のデザインは不思議と懐かしい気持ちにさせられて、落ち着くもんだな。


「たまには走るんじゃなくて、何かに乗ってゆったり移動する旅もわるくねえな」


この見た目じゃ、俺が走った方が速そうだからなぁ。


「魔導列車がゆったりですか。面白い冗談ですね?」


「うん? まあ、着くのは明日の朝とかだろうし戦いに備えて寝るとしようぜ」


「いいえ、魔導列車ではそんなにかかりませんよ。なんといっても魔力で走る列車ですからね」


「え、そうなの。なら、どれくらいで向こうに付くんだ?」


ウォロフが不思議そうにアシュリーに訊ねる。


「ルーマニアのヴィントまで、ノンストップでおよそ七時間です」


「マジかよ、そりゃあ早えな。でも、やっぱり寝るにはちょうどいい時間じゃねえか」


「その前に、私からリーマンとの決戦前にどうしても剣さんに聞きたいことがあるんです」


腕を組み、背もたれに体重を預けた俺にアシュリーはまだ話は終わっていないと話を続ける。


「なんだよ、改まって。俺に答えられることだったら好物から好きなタバコの銘柄までなんでも答えるぜ?」


「それが広いのかどうか分からないんですが。剣さん、そろそろ、あなたが賢者を消したい理由を聞かせてくれませんか?」


「ああ、それか。確かに目的とは言っていたが、なんでゴルドールをぶっ飛ばしたいのか言ってなかったな」


二人が俺の答えを待って、じっと握り締めた拳を眺める俺を見つめる。


「さっきの紗世って居るだろ」


「はい」


「うん」


「あいつは昔から無邪気で優しい娘だったんだよ」


「まあ、今の彼女を見る限りはそうでしょうね」


アシュリーが今のところ意外性のない予想通りの話に拍子抜けしている。


「ああ、でもな。アイツの身体は普通の人間とはちょっと違うんだよ。紗世が普通に過ごしてる分には問題ねえんだけど……」


「普通じゃないと問題がある。ですか?」


「ああ、詳しい話は置いとくが賢者や悪人が紗世の力を利用しようとする日がいつか必ず来る。俺は紗世にそんな不安や恐怖の中で生きてほしくはない。だから、決めたんだ……」


俺は握りしめていた拳にさらに力を込め、周りに聞こえないよう声は潜める。


「賢者を全員ぶっ飛ばして、紗世が当たり前に生きることを喜べる世界を手に入れて見せるってな。それが十年前からの俺の存在意義であり人生の意味なんだ」


「そうですか。それはとてつもなく無謀な計画で、同時にとても素敵な野望だと思いますよ」


「そうだな、サヨは良い奴だしオイラもそれいいと思うぞ!」


これを話して、こんな前向きな返事を聞いたのは初めてだ。


まあ、聞いたのはまだ四人だけだが。


「ああ、ありがとな。だから俺、この戦いが終わったら結婚しようと思ってんだ……」


この計画を人に話すのは、紗世の両親以外では初めてなので少し気恥ずかしい。


すべて言い終わり感傷に浸っている俺の目の前で、アシュリーが不愉快そうに顔を曇らせる。


「ちょっと最悪じゃないですか!? なに特大の死亡フラグ立ててるんですか剣さん!」


「なにそれ!? でも、ツルギ最悪だ!」


二人のリアクションを見ながら俺は静かに目を閉じ、微笑みながらたった一つ間違いない事実に気付いていた。


ああ、言うやつ間違えたなって。

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