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大人ぶっている時に限って身内はやってくる。

「あなたとその子……あれ、よく見たら君この前のオオカミくんじゃない?」


いや、だから世間話を始めるな。ますます立ち去るのが遅くなるだろ……


「あ! あんたあの時ツルギが庇ってた人間だな、匂いでわかったぞ」


「え、におい……わたしってそんなに臭ってるの?」


紗世が深刻な顔をして自分の腕に鼻を当てる。


「落ち着け、紗世。ウォロフが言ってる匂いっていうのはお前自身の自然な香りとかそういう事で臭いから臭ってるとかではないぞ」


「あっそうなんだ。よかったぁここに来るまで慌ててたから、てっきりわたし汗臭いのかと」


俺のフォローで、紗世は素直に安堵する。


「この人が剣さんの連れと言っていた人ですか……まさか奥さんだったとは」


アシュリーが苦笑いで紗世を眺める。


「あはは、まだ奥さんってわけじゃないんだけどね」


「なるほど、まだ、ですか……」


そこで、アシュリーが意味深に横目で俺を見る。


「紹介するつもりはなかったが、まあそういうことだ」


「否定はしないんですね?」


「ん? 何をだよ」


わざとらしくとぼけた俺の横で、紗世が口に手を当ててこっそり笑っている。


「はじめまして、斉藤さいとう紗世さよです。剣とは恋人関係っていうのなのかな?」


「私に聞かれても分からないんですが……ご丁寧にどうも。私はアシュリー・ガトレットといいます」


「オイラはウォロフだぞ」


「君はウォロフくんって名前だったんだね。ガトレットちゃんも剣がいつも迷惑をかけてると思うけど、よろしくね」


いつも通り紗世が保護者のようなことを言い出す。


だから嫌だったんだよなぁ、この二人と紗世を会すのは。


このままいくと、ますます俺の居心地が悪くなる!


「いや、コイツらどっちも俺よりはるかに年下だぞ? 面倒見るのはむしろこっちだろ」


「はい、剣さんにはいつも面倒に巻き込まれて大変な思いをしています」


「おい、テキトーなこと言ってんじゃねえ! まだ迷惑かけるほど一緒に行動してねえだろ」


「剣。ダメだよ! お世話になってる子たちにそんなこと言っちゃあ」


「いや、でもよぉ」


「二人ともごめんね? 見ての通り剣は素直じゃないけど、優しいところもたくさんあるから仲良くしてあげてくれると嬉しいんだ」


「ふふふ、分かりました紗世さん。私も少し助けてもらっているので出来る限り尽力いたします」


「ありがとね」


だから、わざわざお礼とか言うな。本当にお世話になりっぱなしみたいだろ。


「オイラも強くなるためにツルギにもっと強さを教えてもらわなきゃいけないしな!」


「そっか。ウォロフくんは強くなりたいんだったよね……わたしもその気持ちは分かるよ」


紗世はウォロフを慈しむような優しい瞳で見つめる。


「おい、どうした紗世?」


突然らしくもなくしおらしくなった紗世に、俺は疑問の声をかける。


「わたしも隣で支えたい人が居るから分かる。暴力とか誰かを傷つけるのは嫌だけど、大事な人に全部代わりにやってもらおうなんて割り切れないよね……」


「……」


紗世は頑なに俺の方には振り向かず、その言葉を紡いでいく。


「だから、一緒にがんばろ? ウォロフくんのこと応援してるから、わたし達もっともっと強くなろう!」


「お、おう。オイラもサヨのこと応援してるぞ!」


紗世はそう言って、ウォロフの手を握って熱い握手を交わした。


見ていた俺はかける言葉を探し、目が合ったアシュリーに救援を求めてアイコンタクトを送る。


すると、アシュリーはゆっくりと横に首を振った。


「紗世さん、すいませんがウォロフくんと私は先に行かないといけないので、これで失礼しますね」


「あ、そうなんだ。ごめんね、わたし一人で盛り上がっちゃって……」


「いえ、お気持ちは分かりますよ。私も守りたいものの為、力が欲しくて焦っていた時期がありましたから」


「そうなんだ。じゃあガトレットちゃんは手に入れることができたんだね。大事なものを守れる力」


「そう思いたいです。紗世さんの彼氏さんが現れてから少し不安ですが」


「あはは、何かごめんね。剣が迷惑かけちゃって」


「迷惑なんてとんでもないですよ。それではまた会えることを願ってますね、さっ行きましょうウォロフくん?」


「う、うん。じゃあまたなサヨ!」


「うん、バイバ~イ」


あっさりと立ち去った二人に元気よく手を振る紗世を見ながら、俺は胸を乱す感情を抑えこんで別れの挨拶を言おうと肩を叩く。


「まあ、安心して──


軽い調子で話しかけた俺の言葉は、振り向いた紗世の雫の溢れそうな瞳を見た瞬間、完全に消え去った……


「ごめんね。こんなの変だよね? わたしこれ以上はなにも聞かないって言ったのに、ね」


慌てて、目元を拭う紗世に上手くかける言葉が見つからない。


「いや、そんなんどうでもいいけどよ。お前、なんで泣いてんだよ」


「ううん。これはわたしの問題だから自分で解決するから剣は気にしないで」


強がって笑う紗世の涙で濡れた笑顔が、俺の胸に切り裂くような痛みを与える。


「はい、そうですかって言えるわけないだろ。そんなこと気にすんな、俺にできることなら何でも言ってくれ」


遠慮なんてするなよ。俺達はそんな関係じゃないだろ?


あの日、もう一度お前が俺を救ってくれた日に俺は誓ったんだ。


お前が普通の女の子みたいに自由に外の世界を見て、笑ってどこでも好きなところに出かけられる。


そんな日常を手に入れるためになら、何度だって俺は闘うって。


「言えないよ。こんなわがまま」


目を伏せてらしくないことは事を言う紗世に、俺はあの日の約束の為にもそんな遠慮など払いのける。


「だから気にすんなよ。俺は紗世の笑顔の為ならなんだってやってやるぜ? 知ってるだろ俺に不可能はないんだ」


内心の不安を見せないように笑顔で言ってみせる。


しかし、紗世が俺に言ってきたわがままは、そんな気安い笑顔など叩き割る威力を持つものだった。


「じゃあ、今から剣が行くところにわたしを連れてって? それが無理なら……もういっそ一緒に帰ろうよ」

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