ブラックパージ社の吸血鬼。判明した陰謀と炸裂する賢者の魔法具
「この前みたいに雑魚相手に魔具を使わせる気はねえからな」
目の前に立っている相変わらず無表情の吸血鬼は返事をしない。
「さっさと終わらせてお前らのボスの所に向かわせてもらうぜ!」
言葉とともに飛び出し、一足で五メートルほど距離を一気に詰めて腹、顎、頬の順で三連続の打撃を振るう。
頬に押し付けた横殴りの拳で、引っ張りながら地面に叩きつける!
吸血鬼はひび割れた地面に頭が沈んで動かなくなる。
そんな状態でも、俺の手を掴んで離そうとしない。
「おい、俺は男にベタベタ触られて喜ぶ趣味はねえぞ!」
手を離さない吸血鬼の腹に、思い切りつま先を突き刺し、強引に吹き飛ばした。
その後、残留思念だけで腕に残った吸血鬼の両腕を振り払って、持ち主の吸血鬼を眺める。
すると、元々階段があった場所から音がした。
俺が音の方に顔を向けると、先ほど倒壊させてしまった階段を降りて来たアシュリーとウォロフの姿が目に入った。
「よかった。もう敵と遭遇していたんですね」
いや、良くないだろ。必要なくとも心配する振りくらいしろ。
「オイラ見てなかったのに、もう終わっちゃったの?」
「それは大丈夫だ。雑魚と言っても治癒力は吸血鬼だけあってかなりしぶといからな」
その言葉通りすでに新しい腕が生え揃った吸血鬼が、すぐに立ち上がる。
「ほらな?」
立ち上がった吸血鬼を見ながら二人に言う。
しかし、その吸血鬼を視界に捉えた二人は何も言わずに目を見開いて固まっている。
「剣さん……あの吸血鬼は一人ではないですね」
「オイラもだ。アイツからは違う血が混ざってるような臭いがする」
「ってことは、吸血鬼にされた職員は一人じゃなかったってわけか」
「え、あれは……ここの職員だったんですか?」
「ああ、どうやらそうらしいぜ」
俺はポケットに突っ込んでおいた紙を手渡す。
それに目を通していたアシュリーの顔が、徐々に険しくなって憤りを露わにした。
「剣さん……この計画を許すわけにはいきません」
「ああ、そうだな」
「なので可哀想ですが、この方々の始末を急ぎましょう。早くリーマンの命をこの手で終われせたいので」
「気持ちは分かるが、まずはどうやってあの吸血鬼を殺すかだ」
今は、白木の杭も十字架も聖水もない。
太陽が出るのを待つといっても、夜は始まったばかりだ。
夜明けまで、コイツと遊んでいるのは時間の無駄なので正直避けたいが他に手段が思いつかない。
「簡単ですよ。あの方の血を一滴残らず搾り尽くして差し上げればいいんです」
ああ、そうか。もう一つだけ方法があった。
吸血鬼が同族の血を吸血すれば力も、その肉体すらも枯れてミイラのような姿になってしまう。
「その手があったな。……でも、大丈夫か?」
「なにがですか?」
俺は知っている。
アシュリーは目的の為とはいえ、魅了にかけた者に申し訳なさを感じる優しい奴だと。
「アイツはさっきまで人間だったんだぜ? それをお前は吸血できるのか」
「言ったでしょう。私はゴルドール・リーマンへの復讐を邪魔するような方が居るなら誰であろうと容赦する気はありません」
その顔には、あの時と同じいつもの澄まし顔に怒気をはらんだ決意が見えた。
「そうだったな。だったらここは任せるぜ」
「ええ、剣さんは今回役に立たないので下がっていて下さい」
「どうしてだよ! みんなで戦った方がいいんじゃないのか?」
話を終えた俺達を見て、ウォロフが疑問の声を上げる。
「いえ、この闘いは私がやるべき事なんです。賢者に協力するような不届き者を始末するのも私の役目なんですよ」
アシュリーが背を向け、詠唱を唱えて魔法陣から血結晶の弓を創り出す。
それを見ていた吸血鬼は、ジッとアシュリーを眺めている。
「なにかされる前に終わらせます」
視線から嫌な予感を感じたのか、すぐに構えた弓で血の矢を引き、アシュリーが矢を射る。
が、突き刺さった矢を気にもせず、吸血鬼は雄たけびを上げて突っ込んで来ている。
「あなたも何処かのおじさんと同じですか……私もなめられたものですね」
無数の矢を生成したアシュリーが吸血鬼と自分の間に、矢を降らせて足元に敷き詰めた。
「血の戻り」
血結晶の矢が流れる血液に変化し床を濡らす。
同時に吸血鬼も血で身体を染めながらも距離を詰めている。
何もなくなった血のレッドカーペットは吸血鬼にとっては走りやすく好都合だろう。
一瞬でアシュリーの目の前までたどり着いた吸血鬼が手を握り合った両手のハンマー振り上げる。
「おい、ツルギ! 不味いんじゃないのか? このままじゃアシュリーさんがやられちまうよ!?」
「いや、一回喰らって知ってるだろ。あれはもうアシュリー勝ちだよ」
「あ、そっか。そうだったね……」
ウォロフは思い出したくないことを思い出してしまったのか目を失せる。
「<血の拘束>」
足元から血結晶で固まった吸血鬼の振り下ろそうとした両手が微動だにしない。
残念ながら、涼しい顔をしたアシュリーの目の前で棒立ちになる。
「自分から食べられに来てくれてありがとう。私、素直ないい子は好きですよ?」
その言葉に何故か俺の隣でウォロフが身を震わせた。
アシュリーの食事が始まろうとした時、奇妙な音が聞こえてくる。
カチ、カチ、カチ、カチ、カチカチカチカチカチ。
「そういう事かよっ! アシュリー!! そいつから離れろ!」
「え?」
おかしいとは思っていたんだよ!
この土壇場になっても魔具を使おうともせずに接近戦を挑んで来るなんてよ!!
俺は飛び出した一歩で、アシュリーとおかしな音を立てている吸血鬼の間に入る。
ダァン!!
踏み込んだ勢いで地面に亀裂を生まれた。
突き刺さる勢いで踏み込んだ足とは逆の足で、吸血鬼の顎を蹴り上げる。
怒涛の勢いで重力に逆らって打ちあがっていく吸血鬼。
天井すらも突き破り、さらに二階、三階と速度を落とすどころか加速して空へと飛んでいく。
灯京の上空、吸血鬼の身体が爆散するのと同時に暴風が吹き荒れて肉片の雨をまき散らした。
「危なかったな。あとちょっとでアシュリーも爆散してたとこだった」
アシュリーは戸惑った表情で、俺の顔を眺めている。




