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迫る賢者の計画と立ちはだかる未知数の吸血鬼。


「誰も居ねえのか?」


ひと足先に潜入して、敵の目でも惹きつけておこうと思ったんだが。


どうにも人が来ない。


入り口を壊して、その上大声まで張り上げたのに誰一人来ない。


「まあ、それならそれで情報を探すのが楽になるから助かんだけどな」


ポケットに入れておいたクシャクシャの見取り図を取り出し資料室の位置を確認する。


意外と近いな。


未だに物音ひとつ聞こえてこない廊下を曲がり角に沿って、右、左、右の順に曲がった先に資料室と書かれた扉を発見した。


「入るぞー?」


誰も居ない部屋の中に入って辺りを見回す。


そこにはこの会社で退治してきた化け物や被害者の名前が載っている資料。


そして、ブラックパージ社の様々な情報が記録されたファイルが並んでいる。


しかし、ゴルドール・リーマンの居場所の手がかりになりそうな物は見当たらない。


「うーん、この部屋にはなんも無さそうだけど、アイツらはなんか見つけてんのかな?」


一応、白見潰しに目を通していくがゴルドール・リーマンの名前どころか賢者の名前すらほとんど何処にも記されていない。


やっぱ居場所が極秘なら行動も内密に行われてるに決まってるか。


「ん? なんだこれ」


俺が手当たり次第に見終わったファイルを床に放り投げていると。


棚の奥に怪しげな突起がある事に気づいた。


「あ〜なるほど。そういう事か」


俺は見つけた突起を眺めながら、見ていた書類から作為的に賢者の名前が消えていた事への合点がいった。


だって、社長の名前が社員名簿にしか載ってないなんてどう考えてもおかしいだろ。


人差し指でボタンを押し込む。


すると、ゴゴゴと棚が物々しい駆動音を立てて動き始めた。


「うわー隠す気あんのかよ。まあ、俺は好きだけど」


そのままゆっくり二つに割れた棚の奥から、鉄の扉が姿を現した。


いかにも大事な物を仕舞ってますと言わんばかりの仕掛けを前に、少しばかり胸が高鳴る。


「んじゃ」


俺は足を肩幅にひらき少し腰を落とす。


ふぅー。


「お邪魔しまーす!」


反時計回りに回転して放った蹴りで扉、を吹き飛ばす!


その衝撃で、鉄の千切れるような甲高い爆音が響き渡る。


今更、こそこそしたところでもう遅いしこのくらいは大丈夫だろ。


蹴り飛ばした扉の先には、資料室の半分程しかない広さの小部屋が広がっていた。


俺は床に倒れた扉を踏んで、中に入る。


「格安のビジネスホテルでももっといい部屋用意するぞ」


部屋の感想言いながら、目に入った資料を手に取って中身を確認した。


「ゴルドール・リーマンとの月例報告会……場所、ホイア・バキュー・フォレスト」


と、謎の地名が書かれている。


「どこだよそれ?」


他にもないかと、ファイルの背表紙を見ていると『灯京視察、兵器実験』と書かれた物を見つけた。


灯京って事は、これ今日のヤツじゃねえのか?


ファイルを手に取り中身に目を通す。


『吸血鬼化に成功した職員による魔法兵器の実用実験。成功の場合、一週間後に計画の始動を前倒しする予定である』


何だこれは……!?


吸血鬼化に成功した隊員だと…… しかも、そいつに魔具を持たせての実験ってのはなんだ?


『なお、この計画は一般職員と隊員には伝える必要はない。その者達は計画開始と共に全員前線に立ってもらう』


前線だの一週間後に前倒しだの。

はっきり言って危険な予感しかしない文字列だ。


俺は持っていたファイルを床に捨てて、計画の詳細を記したファイルを探す。


その答えは四つ目に手に取ったファイルの中にあった。


『今月の月例報告会記録。来たる星権戦(せいけんせん)の為、吸血鬼化に成功。これによりブラックパージ社の全職員の吸血鬼化と、その後ヴィントの全人口吸血鬼化を実験成功次第開始する予定である』


その文章を読み終わった時、俺はそれを床に投げ捨てた。


この計画を遂行させるわけにはいかない。


星権戦というのが何なのか詳しくは分からないが、ろくでもない計画である事は確信できる。


それで十分だ。


それだけ分かればこの計画を成功させてやる訳にはいかないということは分かった。


「こりゃ大漁だな」


賢者の居場所に奴らの目的まで分かった。


これだけ分かれば後は真っ向勝負でブチのめすだけだ。


やっとここまで来たという実感で、思わず高揚と共に笑みが溢れた。


そうと決まれば、早いとこアシュリー達と合流して次の予定を立てねえとな!


早足になって部屋を出ると、一段飛ばしで階段を駆け上がる。


だが、三階にたどり着こうとした時。


俺を、筋肉が膨張したように膨れって服がはち切れた男が見下ろしている。


「お前がここの職員……な訳ないよな」


職員だとしても、ここに残っていたのは非戦闘員の職員ばかりだ。


こんな筋肉を盛りにもっている男が居るわけがない。


というか、こんな姿の人間が居るわけないんだけどな。


「……」


よく見るとこの男、白目を剥いて完全に正気を失っている。


この感じ、この街で初めて吸血鬼と殺り合った時と似ているな。


「どうやら喋るのも無理そうだし、さっさと決着つけようぜ?」


言葉は理解できているのか、吸血鬼はいきなり殴りかかってきた。


その腕を掴む。そして、そのまま背負い投げて踊り場に叩きつける!


「こんなんじゃ終わらねえのは、この前の戦いで痛いほどわかってるぜ!」


叩きつけられても、特にダメージを感じさせない吸血鬼の反撃をかわして、憎たらしい顔面にお返しの拳を叩きつける!


衝撃で階段が崩れ、一階へと逆戻りする。


俺は、一緒に落ちていた瓦礫を避けるためにロビーに転がるように飛び込む。


吸血鬼の方は、今のは流石に少し効いたようで瓦礫の下敷きになってしまった。


「こんなんでも終わるとは思ってねえけどな」


瓦礫から腕が飛び出し、ゆっくりと押しのけながら起き上がる。


「でも、今の所はこの前の吸血鬼達に比べたらいくらかマシだな」


だが、コイツが魔法兵器の実験を兼ねた吸血鬼だとすれば油断は出来ない。


すぐに立ち上がった吸血鬼を前に、俺は夜風を背にして気を引き締める。

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