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作戦開始!

黒スーツの男達の喧騒も止み、なんとかブラックパージの奴らには俺達の姿を見られずに済んだ。


ただ一つ気がかりなのはゴルドールは確実に俺達に気づいていたはずなのに、何もせずに見逃したことだ。


「アシュリー、落ち着けよ。ここでのゴルドールとの戦闘は避けるべきだ」


「なぜですか? この作戦はゴルドール・リーマンの居場所を突き止める為のものです。その目的の男が目の前に現れたんですよ? 戦わない理由が分かりません」


「アシュリーを死角に隠した瞬間……あいつは俺達に気付いてた。だけど、気づいただけで何もせずに社内へ向かって行ったんだ」


「……それがなにか?」


俺の言葉を聞いて、アシュリーは睨みつけてくる。


「これは罠の可能性のがある。もしゴルドールの待ち伏せを喰らったら、俺はお前たち二人のお守をしてやれる約束はできない」


「私はこの日の為にこの五年間、同胞を集め、ただの人間のふりをして生きてきたんです! それなのに、目の前に居る仇を見逃せと言うんですか!?」


「そうじゃねえ、この状況での戦闘は避けるべきだと言ってるだけだ。それに市街地じゃあ物が壊れるのはいいにして、賢者相手だと、恐らくそれ以上の犠牲者が出ることになるぞ?」


「町が? そんなわけ……」


「……真実だよ。魔力の供給ができなくても、賢者やつらなら、それくらいはできる。それでもここでやるっていうなら俺も付き合うけどな」


「私は……」


アシュリーが拳を強く握りしめ言葉を切る。


その一瞬で、どれほどの葛藤をしたのか俺には分からない。


拳からしたたる血液を床にぽたぽたと落として、再びその口を開く。


「これ以上あの男の犠牲者は見たくはありません。なので、全力を以て殺せる期を……今は待ちます」


いつも通りとは言えないが、澄まし顔に戻ったアシュリーはゆっくりとその場に腰を下ろして窓の外に視線を向けた。


「あのさ、二人がなんの話をしてるのかオイラにはわかんないけど、バレちゃったならここから逃げなくていいの? あの男が戻ってきたらヤバイんじゃないのか?」


俺達の話し合いを黙って聞いていたウォロフが、遠慮がちに言った。


「あーそれは大丈夫だと思うぞ」


確証はないが、ゴルドールはここで戦う気はないだろう。


争いは無くなったといってもここは別の賢者の国だ。好き放題暴れればお互い一生懸命守ってきたイメージが台無しになる。


それにそのつもりなら俺達が迷う余地もなく、今頃この辺一帯が戦場になっているはずだ。


「なんでだよ! 会社の中の奴らを呼びに行ったのかもしれないだろ!?」


「そうですね。一応場所は変えましょうか、敵に居場所が知られているという不安要素を残しておく理由などありませんから」


アシュリーもウォロフの意見に頷いて、俺の言葉を待つように二人でこちらに視線を集める。


「まあ、多数決で負けたなら善良なおじさんとしては従うけどよ」


「剣さんは善良なふりをしているおじさんでしょう?」


「こらこら、そこら辺は暴かないのがマナーってもんだろ。というか、それ思いきり自分への言葉にもなってるぞ」


「私のどこが女装熟練者の、本物と見間違う程のおじさんなんですか?」


「いや、善良なふりって方だよ……誰がお前のことをおじさんと見間違えるんだよ」


もし本当におじさんだったら俺の中の何かが目覚めそうだから冗談でもやめてほしい。


「そんなんいいから、二人ともさっさと場所を変えようよ」


三十と二十の大人二名は十五歳の少年に注意され、口を閉じて歩きはじめる。


その後、雑居ビルの屋上に出てから見えた三棟先に建っている各階に複数の店舗が見えるショッピングセンターの屋上駐車場に移動することにした。




大勢の護衛を引き連れて出てきたゴルドール・リーマンとその部下たちが次々と車に乗り込んでいく光景を眺めながら、アシュリーの事前情報の通りに物事が進んでいることに安心感と言いようのない不安感を抱いていた。


結局、ゴルドールは部下たちに俺達の事を報告もせずに、社内で会議やらをして帰ったのか?


そんなことの為にこんな所まで出向いたというのなら俺が聞かされてた賢者の性格とはえらい違いだな。


もっともあいつらが自分の主観でめちゃくちゃに言ってた可能性もあるが、ガキだった俺は疑うことも知らなかった。


「お前らが持っている情報を隅の隅まで暴いてやるから、今のうちに首洗って待ってろよ」


走り去ったヘッドライトが離れていくのを見送って、俺はこれから始まる作戦への決意表明を闇が幕を下ろした空へと言い放つ。


「アシュリーさん、ツルギは一人でなに喋ってるんだ?」


「ウォロフくん、あれはブラックパージの人達に言ってるんですよ。今から行くぞって」


「え、建物の中に居る人に言ってるのか? そんなの絶対聞こえてないじゃん」


「いいんですよ、聞こえなくて。あれはそういうのがかっこいいという価値観でやるもので特に意味とかはないので」


「そうなのか、ツルギって不思議なヤツだなぁ」


うるさいガキどもだなぁ。コイツら空気を楽しむって事を知らねえのか?


背後でひそひそと、ギリギリ聞こえている声で話している協力者二人を残して、今からでも単独行動に切り替えようかと迷う。


「おい、お前ら無駄話はいいからそろそろ行くぞ? こんなとこで足踏みしててもしょうがねえし」


「では、ここからは二手に分かれましょう。剣さんは一階から潜入、私達は屋上から潜入しましょう」


俺の心を読んだのか、アシュリーが願ってもない提案をしてくる。


「え? ツルギ一人で大丈夫なの」


「大丈夫だろ。戦闘員もしないらしいし、俺の答えはYESだぜ」


「それでは、一階の資料室は任せましたよ」


「了解だ。そんじゃ俺は一足先に向かってるから最後に屋上で合流ってことでなっ!」


それだけ言って、俺は屋上から飛び降りる。


そして、見下ろしていたブラックパージ社の入り口の目の前に、地面にひびを入れながら着地する。


「この会社の奴らには色々と迷惑をかけられたしなぁ。やっぱ挨拶は肝心だよな」


俺は決意と共に勢いをつけて飛び上がる。


両開きの扉を轟音とともにまとめて蹴り飛ばし、その破壊音にも劣らない社内中に聞こえる大声で叫ぶ。


「おい、お前らの客が来たぞ! 手厚い歓迎をしてくれよ!!」


響き渡った声が無人のロビーに反響する。しかし、何秒経っても返事どころか俺の元に向かってくる足音すら聞こえて来なかった。


「……あれ?」

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