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まさかの邂逅。ブラックパージ社の社長、賢者・ゴルドール・リーマン。

翌日、太陽が昇り日差しが鬱陶しい朝の八時。


俺たちはブラックパージの職員に見られないよう、道路を挟んだ向かいのビルに非常階段から入って最上階を目指して階段を上がっていく。


「ふぁぁ、お偉いさんは何時ごろ到着するんだろうな」


夜中に帰ってから少し寝たところで紗世さよに起こされた俺は、あくびをしながらアシュリーに挨拶程度の話題を振る。


「作戦当日の朝にあくびとは、あなたは本当に緊張感がない人ですね。やる気はあるんですか?」


吸血鬼にとっては最悪な空の陽気に、ご機嫌斜めなアシュリーが呆れた様子で振り向きもせず素っ気なく答える。


「あるに決まってるだろ、任せとけって。それより俺が心配なのは目の下にびっしりクマのできた犬っころの方だよ」


階段を上りながら横の狼少年に目を向けると、昨日の作戦に参加が決定した時とは別人のようにテンションが落ちている。


「だから狼だって、言ってるだろ……」


「よく分からないんですが、昨日はよく眠れなかったみたいですよ。私は隣でぐっすり眠れましたが」


「そうか、それは気の毒だったな」


「え、なにがですか?」


よく分かるぜ。思春期の男子が女の家に二人きりで寝泊まりなんて緊張しないわけがないからな。


ウォロフが理性と必死で闘いながら布団を被ってた、光景が目に浮かぶようだ。


「オイラの事、置いて行ったくせに……」


しかし、横を歩くウォロフは俺からの慰めの言葉を受け取らず、床に吐き捨てる。


「わるかったって。俺の家ペット禁止なんだよ」


「ふっ、それはお気の毒に」


「気の毒とか以前にオイラはペットじゃねえ!!」


勝ち誇って胸を張っていたアシュリーの言葉にかぶせる様にウォロフが叫んだ。


それを聞いたアシュリーは一瞬、真面目に『え、』という疑問を浮かべた顔をしていたのを俺は見逃さなかった。冗談で言った俺ではなく真犯人は別に居たようだ。




最上階の部屋に着くと先頭のアシュリーが鉄扉をゆっくり開けて、忍び足で中へと入る。


忍び込んだ殺風景なその部屋は、おそらく以前はオフィスなどに使われていたのだろう。今は何も置かれていおらず部屋の窓にテナント募集と書かれた大きな用紙が貼られている。


「そんじゃあ……とりあえずブラックパージのお偉いさん達が来るまで暇だし、誰か一人が見張りながら交代で寝るか?」


「私は大丈夫ですが、ウォロフくんは寝てください」


「オイラ別に大丈夫だぞ、このくらい」


「いえ、いざという時に眠気で動けないなんて事のないようにしたいので」


確かに、アシュリーの言う通り。寝不足なんかで作戦に支障をきたす訳にはいかないからな。


「じゃあ俺とウォロフが先に寝るからアシュリーが監視してくれるか?」


「誰がつるぎさんも寝ていいと言ったのですか、バカですか? 子供じゃないんですから無理矢理でも起きていてください」


「扱いの差がエグイなぁ。元々そのつもりだったから別にいいけどよ」


「おじさん、そろそろ無駄口は慎んでください。ウォロフくんが寝れません」


アシュリーが人差し指を唇の前に立てて、シーと厳しい言葉とともにジェスチャーを加えて伝えてくる。


「いや、だからオイラは……」


「まあ、今のうちに寝とけって。悪いのはアシュリーなんだし眠気眼で見切れるような動きなんて、俺はしねえぞ」


「うーん、じゃあちょっとだけ寝るな。二人の邪魔にはなりたくないし」


「おう」


「はい、おやすみなさい」




しばらくウォロフのたてる寝息を聞きながら窓の外を眺めて待っていると、黒塗りの自動車が三台ブラックパージの会社の前で止まった。


どうやらやっとお出ましのようだな。


あとはコイツらが数時間後、護衛と一緒に出てて来るのを待って、手薄になった所で情報を貰いに行くだけだな。


「おい、起きろウォロフ」


「んっ? どうした? もう朝か」


「いや、もう昼だ。というか寝ぼけてる場合じゃねえぞ、おい」


ウォロフの肩を揺らして、無理矢理にでも寝ぼけた脳を覚醒させる。


「もう起きたからやめてくれ……クラクラしそうだ」


「じゃあ早速だが、ここからお前の鼻で奴らの匂いを嗅ぎ分けることってできるか?」


俺は窓の外、次々と車から降りている男達を指差す。


「窓を開けてくれれば出来るけど、オイラには誰が誰とかは分からないぞ」


「答え合わせは後でするとして、匂いを覚えておいてくれりゃいいんだ。なあ? アシュリー……」


しかし、窓を開けながら同意を得ようと問いかけた俺の声は届かなかった。


アシュリーは窓の外で車から次々と降りてきた黒スーツの男達と、最後にスーツの男にドアを開けさせて降りている頭の上まで覆ったローブ姿の男を見つめて固まっている。


その口元は微かに笑っているようにも見えた。


「……見つけました。あのローブの背にある風の流れているような紋様、忘れもしません。父の顔を最後に見た次の瞬間に視界に入った物と全く同じです」


「は? ってことは、今降りてきた男がゴルドール・リーマンか!?」


「……ええ、間違いありません」


「どうだウォロフ、匂いは覚えたか?」


人間の姿から人狼に変化して、鼻を鳴らすウォロフに目を向ける。


「覚えたけど、アイツ誰なんだ?」


「アイツが今回の俺達の探し人、アシュリー父親の仇にして俺が倒すべき賢者の一人だ」


俺がウォロフに作戦の目的を話している隣で、床に手をついたアシュリーがブラッド・呪文スペルを発動して魔法陣から弓を生成した。


「おい、アシュリー何してんだ?」


「何をしてるですって? 復讐に決まっているでしょう。私はこの五年間この時だけを待ち望んでいたんですからっ!」


愚問だと言いたげなアシュリーがゴルドールに向かって弓を構える。


そして、開いた窓から打たれた真紅の矢がゴルドールの後頭部に必殺の威力を以て飛んでいく。


が、ゴルドールに届く直前。放たれた矢が不自然な軌道を描いてするりと宙を流れるように横に立っていた黒スーツの頭に直撃する。


「アシュリー伏せろ!」


二発目を引こうとしていたアシュリーの身体を抑え、外から見えない壁の陰に隠す。


その時、俺は騒いでいる黒スーツ達の中、一人だけ落ち着き払ってこちらを見上げるゴルドールと、仮面越しに視線が繫がった気がした。


しかし、その後。


ゴルドールは何事もなかったように、足元に倒れた男にも見向きもせずブラックパージ社の入り口に向かって歩き出した。

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