現れた追跡者は予期せぬ救世主!?
「おい、さっきから俺たちをつけてきてる奴さっさと出て来いよ?」
俺は、トラックに衝突され運転手を気絶させた直後から感じていた背後の視線に向かって声を掛ける。
「気づいてたのか、オイラのこと」
声と共に唐突に気配を現した追跡者が、背後の物陰から姿を見せる。
そこには、全体的にダボっとしてオレンジを基調とした大きめのサイズの服に、キャップを被った中高生程の年齢に見える生意気そうな少年が立っていた。
「え……剣、この子知り合いなの?」
一緒に振り向いていた紗世に聞かれるが、俺にこんな知り合いの心当たりはない。
「いや、知らない奴だ。誰だお前」
見た目は完全に子供だが、こいつの尾行術の足音は常人なら全く聞こえないほど静かだった。
とても一般人が身に着ける技術とは思えない。
警戒してる俺の視線に気づいたのか、紗世がトコトコと真横まで歩いて来て小言を言う。
「ちょっと、小さい子なんだからもう少し優しい言い方で聞いてあげなくちゃダメだよ」
「いや、小さいって言ってもこのくらいのガキにそこまで気使う必要ないだろ」
「ダメだよ。たださえ剣って真面目な顔すると恐いんだから」
「ったく、分かったよ。で、小僧、俺になんか用か?」
紗世の小言を聞き流しながらも、俺は少年に少しばかり大人な対応で訊ねる。
「黙って聞いてたら、言いたいこと言いやがって!」
少年は思っていたより思春期だったのか、ポケットに突っ込んでいた手で俺と紗世を指差す。
「オイラを子ども扱いしてんじゃねえ! こう見えてもオイラは十五歳の一人前の男だ!」
「……お、おう」
そんな年相応な年齢を突き付けられ、かける言葉を必死に探していると、隣の紗世が一歩前に出る。
「そっか、そうだよね。わたしが間違ってたごめんね? 君はもう立派な大人の男の子だよね」
「あ、ああそうだぞ。分かってるならいいけどな」
いや、大人の男の子ってなんだよ? コイツもそれで納得してるし。
「えーっと、それで? 俺たちになんか用があったんじゃないのか」
「あ、そうだ。お前さっきトラックに轢かれてたのに、その場から一歩も動かずに立ってただろ? あれ、オイラにも教えろ!」
「教えろってやり方をか? そんなんその場に突っ立ってればいいだけなんだが……」
「タダで強さの秘訣を教えたりはしてくれるほど、甘くはないよね」
いや、そもそも力の秘訣を教えるも何も生まれつきとしか言いようがないしな。
「だったら、まずはオイラの現状を見せてアンタを納得させるしかないか」
無謀にも挑戦的な視線を向ける少年に、俺は手の平を構えて制止の声を掛ける。
「おいおい、やめとけよ。俺たちはもう帰るところだし、人間には限界だってある。そんなに強くなりたいならジムでも通ったほうが身のためだぞ」
「人間ってオイラが? ああ、そっかこの姿じゃ人間にしか見えないのか」
「お前、なに言って……」
少年は思わせぶりな発言を言い残して、歯を食いしばって全身に力を入れて力みだした。
「ググググゥ」
その姿は次第に、大きさを増し服の外から見える素肌をフサフサの体毛が覆っていく。
「ウォォォォォォォォン!」
町中に響き渡る遠吠えをしながら変化した毛むくじゃらの姿は、二本の足でしっかりと立ち、先ほどより二十センチほど背丈が伸びた輝くような白い毛を纏う人狼のものだった。
「なるほどな。ただの人間じゃないとは思ってたが、そういう事か」
背がでかくなったことで、さっきまで見下ろしていた人狼の顔を見上げ、視線がぶつかる。
この前、倒したばかりだというのにもう仲間が嗅ぎつけてきたのか。流石は犬の嗅覚だな。
「復讐が目的ならお前、レクチャーの相手を間違えてやしねえか?」
「復讐? ああ、アニキ達のことか。二人はアンタがやったんじゃないでしょ。それくらい匂いで分かるよ」
そう言って昨日紗世に預けてから回収し忘れていた、スカーフの人狼が持っていた光の輪を放った魔具を入れたままの俺の元着ていたジャケットが中にある紙袋を指差す。
「復讐の為じゃないなら、何が目的なんだよ?」
「最初から言ってるじゃんか。オイラは強くなりたいんから、その為に自分より強い奴の強さが知りたいんだけだよ」
また面倒な理由で狙われてるなあ、俺。
しかし、町中に現れた人狼を放って帰ったらあとで結局、盾石のオッサンに呼び出されそうだし。
どっちにしろ戦うことは避けらないようだ。
「剣、あの子と闘うの?」
俺の顔と腹を交互に見て、心配そうに訊ねる紗世の不安そうな声が自分の闘志に更なる決意を注ぐ。
「アイツの心配してんのか? 大丈夫だって手加減はするよ」
流石に、今のところ悪い奴かは分からないからな。馬鹿なだけで。
「もうっ、分かってるくせに……」
「どっちにしても大丈夫だって、俺はあんな犬っころにやられたりしねえよ」
「犬じゃない狼だ! このバカ!」
戦う前から吠えている人狼を前に、俺はその場で数回跳ねてスイッチを切り替え、戦闘態勢に入る。
「紗世、一応俺から離れるなよ? 今朝みたいに余裕のない助け方になるのは、もう御免だからな」
「うん。言葉が合ってるか分からないけど、頑張ってね。わたし剣を信じてるから」
おそらく、それは勝利のことではない。この闘いで誰も悲しませない結果にすることを期待されているのだと思う。
俺も最愛の人の目の前で、少年をタコ殴りにしてるところなど出来れば見せたくはないけどな。




