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新生活。五年ぶりのデートは邪魔者はつきもの。その二

久しぶりに我が家で誰かと食べる賑やか夕飯に、俺は思わず目から滴が零れ落ちそうになる。


しかし、紗世の止めどない思い出話のおかげでなんとかそれは回避することができた。


それから風呂に入り、身体を隅々まで洗っていると「背中流してあげる」と言って入ってこようとした紗世の優しさをガラス戸を指で押さえ断固として遠慮する。


俺は残った片手で身体を湯でいつもより多く流して、無事ふてくされた紗世の待っていた脱衣所へと姿を現した。


「まだ、そこに居たのかよ」


「だって剣のあと入るのわたしだし……」


いや、どっか行けよ。素っ裸で出てきちまったじゃねえかよ。


「そうだな、空いたからもう入っていいぞ」


まあ、今さら紗世相手に隠す必要もないのでその場で着替えを済ませて風呂を譲る。


「剣も背中流したかったら入ってきてもいいからね?」


「安心しろ、行かねえから」


俺の言葉に、紗世は期待に満ちたまなざしを曇らせる。


着替えが済んで、いつまでもここに居たら入らないと言った意味がないので、俺はそそくさと、脱衣所の扉を閉めてリビングへと向かう。


この家は広いと言っても部屋と呼べるものはこのリビングくらいしかないので、飯を食うのも布団を敷くのも同じ場所となる。


俺は二人分の布団を並べて敷いてから、煙草を吸うためにと一旦外に出て玄関のすぐそばで火を付けた。


「……疲れた。ほんとに今日も色々あったなぁ」


俺からすれば化け物が出没した報告よりも、紗世が現れたことの方が驚きだった。


まだ夢を見ているみたいにそわそわとした感覚が拭えていない。


何の気なしに空を仰いだ視界に見える星の輝きと緑が少ない街並みでも微かに鈴虫の合唱に耳を澄ます。


すると、風呂場の窓越しに誰かさんの鼻歌が聞こえてくきて思わずふきだした。


「どんだけご機嫌なんだよ、あいつ」


そんな他愛のない時間で、俺は普段通りの落ち着きを取り戻していく。それから、二本ほど灰に変えて、家の中へと入った。



布団に向かうと、なぜだか紗世が俺のTシャツを着て待っていた。そうして揃いの服を身にまとい別々の布団に入って、目を閉じる。


数分すると、紗世が俺の隣まで自分の領地を拡大してきた。だけど、眠気の所為で注意ができず俺はそのまままどろみのなかへと意識を手放した。




「剣起きて、朝だよ! 早く起きて!」


紗世の声と共に体を揺らされ、目を覚ます。


しかし、覚めたというよりこじ開けられたという感じで眠気は依然健在。


「人間はなぜ朝起きなくてはいけないのか? それは果たして正しいのか? 否、起きたくないならば昼に起きればいいのだ……」


俺が寝ぼけた頭で、起きたくない言い訳を並べると紗世は一瞬揺らす手を止めた。


良かった。このまま紗世も二度寝でもするといいだろう。


「おかしなこと言ってないで起きて~! 早くしないと朝ごはん冷めちゃうよ? 布団も畳めないし!」


と、安心しようとした俺をさらに増した勢いで揺らし始めた。


どうやら一旦止まったのはただ力を溜める為の動作に過ぎなかったらしい。


「あ、あと……五分」


「ほんと? じゃあ五分後に起こすからちゃんと起きてよ」


「え? いや、やっぱ起きるわ」


苦し紛れに放った言い訳を驚くほど素直に聞き入れられて、予想外で目が覚めた俺はリビングから廊下を横切って顔を洗いに洗面所に行き、顔を洗って戻ってくる。


「あ、ごはんの準備できてるよ」


白米を茶碗に盛っているTシャツの上からエプロンを着た姿の紗世が俺を迎える。


なんで必要最低限の物しか買ってきていない状況で、自分の肌着よりエプロンを優先してんだよ。


朝食は昨日の作りすぎた豆腐の味噌味と焼き魚だった。


「熱いから気をつけてね」


「ふぁぁ、あい」


俺は欠伸をしながら席に着く。


「「いただきます」」


目の前の紗世が魚の尻尾を箸で起用にめくり取って、骨の大部分を取り除いてから身を小さくつまんで食べていく。


俺はそれをよくイライラしないなと思いながら、そのまま箸を身に入れて適当の大きさをつまんで口に運ぶ。


ホクホクした身を噛むたびに溢れ出る旨味が、口の中で広がる。


もちろん多少の骨はあるが気にせずに白米を口に追加して、噛むたびに増す甘みを堪能してから骨ごと飲み込む。


「もう、剣また骨取らずに食べてるでしょ。ダメだよちゃんと取り除かないと危ないんだから」


「大丈夫だって、こんなん腹に入れば一緒だよ」


「のどに刺さっちゃうのを気にしてるんだよぉ」


そんなことを話している内に朝食は瞬く間に片付いて、紗世が食器を台所に置いて着替え始めた。


着替えると言っても、紗世はTシャツの上から茶色のセーターを一枚着ると淡い桃色ロングスカートを揺らして玄関の方へと行ってしまう。


「まったく、気が早えな」


先に行ってしまった彼女を追って、俺も食器を片付けて玄関へと向かって歩き出す。


「剣、早く行こー。お店閉まっちゃうよー」


既に外に居る紗世が手招きをしている。


「こんな朝っぱらから閉まってる店なんかねえから大丈夫だって」


そう言って、玄関先にかかっているジャケットを羽織って、俺も外に出た。



並んで町を歩いていると、紗世は見るもの全てが珍しそうに瞳を輝かせてはしゃいでいる。


「やっぱりわたしたちの村と違って、シティはすごいねぇ」


「そりゃああんな山奥にある呪幸じゅさち村はこの国でも一、二を争う田舎だしな」


「あー剣そういうこと言うんだーもう今のお母さんに言っちゃうからね」


「そんなことで、怒るわけないだろ。あの人たちは分かってて住んでんだから」


お、怒らないよな……? 自然がいっぱいって良いことことだもんな。


俺が不安に駆られていると、隣の紗世が足を止めた。そこで気づいて俺も赤信号の前で止まる。


「そしたら、まずは洋服屋さん行こうよ。剣の服装を変えてあげたいし……それにその草履は切実にやめてほしい」


最後の言葉を言う紗世は、本気で嫌そうな表情で草履の方を苦い顔で眺めていた。


「そ、そうか? 出かける時とか楽で気に入ってるんだけどな。まあ、しょうがないか」


紗世がそこまで嫌な物を履いているのは、俺としても気が進まない。


これじゃないと無理というこだわりもないし、これを機に買い替えるか。


そうこうしていると立ち止まっていた信号が青になり、道路上に均等に並んだ白線の上に俺が一歩踏み出す。


しかし、赤信号にも関わらず、黒服の運転手が大型トラックで速度を落とさず猛スピードで突っ込んでくる。


俺は避けるよりも先に紗世を歩道側に追い返す!


次の瞬間、俺の視界は突然暗くなり激しい衝撃音と共に紗世の悲鳴が響き渡った。

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