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新生活。五年ぶりのデートは邪魔者はつきもの。

珍しく両手にいっぱいの荷物を持った手で玄関の鍵を開け、数時間ぶりの俺は我が家へと帰還した。


一歩室内に入ると、リビングの奥にあるキッチンの方からする食事の匂いが鼻孔びこうをくすぐった。


そんなことで、この数年間で忘れていた誰かが居る我が家に帰ってきたという安心感がこみ上げてくる。


「あ、つるぎおかえり! 遅かったねぇ、どれどれ……」


玄関で突っ立っている俺に、紗世さよがぺたぺたと足音を鳴らしてやってきて、包帯の巻かれた腹の辺りをさわさわと撫でまわす。


「なんだよ。くすぐりならせめて中入ってからにしてくれ」


むず痒い感覚に俺が笑いをこらえていると紗世は念入りに摩っていた手を止める。


「ちがうよ、剣が怪我を増やしてないかのチェックだよ」


その後、またしばらく俺の身体を撫でまわし始めた紗世は「よしっ!」と言って、最後に俺の腹を思いきり叩いてから手を離した。


「うん、ちゃんと怪我してないね」


いや、なんで追い打ちかけちゃってんだよ、逆に傷口開くだろ。


「紗世だって知ってるだろ、俺は怪我なんてそうそうしねえよ」


「そうだけど、だからこそ心配なの。剣が無理しちゃってないかって」


「はいはい。わかったから俺を中に入れてくれ、荷物を置きたいんだ」


服の裾をいじりながら上目遣いで見つめてくる紗世から視線を逸らして、自分の持っていた荷物を前に持ち上げてアピールする。


「あ、そうだよね。ごめんごめん」


俺は両手に持っていた布団と歯ブラシなどの生活用品を置くと、紗世がきょろきょろと荷物に目をやっている。


「どうした? 必要なものがあったら最悪、今すぐか明日にでも買ってくるぞ」


「ううん、そうじゃなくて……どうしてお布団二枚買ってきたの?」


紗世がキョトンとした顔で俺に聞いてくる。


「なんでって、そんなの二人居るからだろ」


「だって、前まで一緒だったのに急に別々で寝るのって変だよぉ」


紗世の言うことはもっともだ。五年前はいつも同じベットで眠り、目覚めていたのだから。


しかし、六日後に大事な作戦を控えている状況で気を緩めるわけにはいかないし、なにより一週間で再び別々になるのに過度な温もりは今の俺にとってはむしろ毒になる。


「まあまあ、いいじゃねえか。たまにはお互い広い寝床で手足を伸ばし放題で寝るってのも」


「うぅん、なんか納得いかないけどわかった。今日は我慢してあげるね」


「ありがとう、ごめんな」


口を尖らせた紗世を前にぐらつく心を引き締め直し、この会話が明日以降も発生しませんようにと、理性に願って紗世の頭に手を置く。


「ううん、いいよ。それよりお腹すいてるでしょ? ご飯できてるから早く食べよ」


「そうだな、実は家に入って来た時から美味そうな匂いで腹が減ってた……」


俺は今更になって、とんでもない違和感に気づいて思わず言葉を切る。


「えっと……どうかした?」


「おい……紗世。俺、お前が家で腹を空かせてると思って弁当を買ってきたんだけどよぉ、お前どうやって飯を作る為の材料とか鍋を買ってきたんだ?」


俺が半眼になって疑惑の目を向けると、紗世はすかさず横を向いて目をそらす。


「えっとぉ、それは~なんていうか剣が出かけた後に夜ご飯の妖精が運んできたてくれたかぁ」


「か?」


「わたしがこっそり買ってきちゃったかの、どちらかです……」


そんな便利な妖精が居たら、夕飯の買い出しが面倒な人たちの間で瞬く間に話が広まっていると思うが、残念ながら俺はこの五年間で一度たりとも耳にしたことが無かった。


「はあ……なあ紗世、俺が居ない時は危ないから家で待っててくれって言ったよな?」


しかも、ここはのどかな田舎町などではなく時折化け物ともすれ違う異形の町だ。


「だって、そんなの剣だけずるいじゃん」


拗ねたような声を出して、俺の言葉に不満を口にする。


「ずるいって、なんだよ……」


「剣ばっかりやってあげたいこと出来て、わたしだけ剣になにも出来ないなんて不公平だよっ! そんなのずるい!」


俺に勢いよく指を差して紗世は、興奮して目を閉じたまま顔を真っ赤にして叫んだ。


表情は怖くないので、恥ずかしがっている可能性も捨てきれないが状況判断で六割がた怒っているのだと思う。


「そんなことないだろ。俺はお前の笑顔を見れてりゃそれで十分だぞ?」


「それは嬉しいありがと! でもちがうの! それは剣のおかげで笑顔になってるだけなの。わたしも剣が喜ぶことしてあげたいの!」


馬鹿なことを言うなと一蹴したいが、気持ちは分かってしまう為に俺はそれ以上は強く注意ができない。


そもそも、会うのも五年振りだ。紗世にも無意識に積もってしまった責任感もあるかも知れない。


そんなことがあったとすれば、それは間違いなく俺のせいで……俺の罪だ。


お義母さんにも罰だと言われたし、やはり少しくらいのサービスはしとかないとな。俺の全力を使う覚悟で。


「まあ、今回は目をつぶるけど出かけるなら……俺が一緒に居る時にしてくれ。なんかあっても困るし」


「え、それって一緒にどこか行こうってこと?」


「紗世が行きたいところがあればな、俺としては無い方が助かるんだけど」


「わーい! 剣とお出かけだー」


俺の余計な一言は聞こえていないかのように玄関先で飛び跳ねる。


よくそんなことではしゃげるな、この子は。


本当になにも昔と変わらねえな、紗世もその笑顔が見れただけで救われた気持ちになる俺も。


「あ、ごめん。邪魔だよね? ジャケット貸して、わたしが掛けておくから」


「ああ、ありがとな」


もうすっかりよれよれになってしまったジャケットを脱いで、手渡す。


「それにしても剣って物持ち良いね。このジャケットあげたのって十年くらい前じゃない? 他の買わないの?」


「いや、すぐ羽織れれば別になんでもいいんだよ。俺は」


「え~駄目だよ。そんなことばっかり言ってるとだらしない人だと思われちゃうよ」


それだったら、おそらく手遅れだから気にするだけ馬鹿らしくなる。


「あっそうだ! じゃあ明日久しぶりにデートしよ? あたしが剣に似合いそうな服を選んであげるよ」


「わかった。わかったから、とりあえず飯にしようぜ? このまま話し続けると夜中になっちまいそうだ」


俺は草履を脱いで、我が家に上がりリビングの方へと真っ先に向かう。


「ちょっと剣、ご飯は手を洗ってからにしてよ」


「う……はい」


この年で、それを言われると流石に胸にくるものがあるな。

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