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相も変わらず化け物退治、踏み込んだのは餓狼たちの寝ぐら。

枯れた草原に取り残された廃ビルを前に、俺は今日一本も口をつけていなかった煙草に火を点ける。


後方を通る高速道路から聞こえる走行音が、余計に静けさを際立たせていた。


「ここが盾石のオッサンが言ってた廃ビルか? まあ、雰囲気だけなら間違いなくここだろうけど」


俺は煙草を口に咥えたまま入り口に近づいて、両開きのガラス扉から中の様子をうかがう。


覗き込んだ室内は一面の闇に覆われており、月明かりが照らしている窓際以外の場所はほとんど何も見えない。


前情報無しで来ていたら、間違いなく素通りしていただろうな。


「外からぶっ壊してもいいんだけどなぁ」


しかし、残念ながら確認の為に澄ました俺の耳にはビルの中から微かに複数の呼吸音が聞こえてくる。


その中には弱々しいものもある。人間が居た場合、その手段では余計な犠牲者を出しかねないのでやむなく断念せざる負えない。


「やっぱ、入るしかねえか」


一瞬の逡巡の後、扉を少し開ける。


その瞬間、充満していた空気と共に血の臭いが俺の嗅覚へと無理矢理流れ込んでくる。


「これはどうやら、楽しいパーティーをやってるって雰囲気じゃなさそうだな」


事態は俺が思ったより深刻らしい。

この感じだとモンスターバスター社の隊員が、廃ビル見つけた時にはパーティーは始まっていたかもしれない。


中に入り、ぬめりとして淡い月明かりの光を反射する床を歩いて奥へとしばらく進んで行く。


しかし、目当ての人狼らしき影は見当たらない。


見つかったのは、血だまりの原因くらいだ。


人狼は上の階か、それとも今は出払っていて入れ違いになったか。


はあ、全く今日は気分の高低差が激しい一日になっちまった。あとで盾石のオッサンには必ず文句の十個は言っておかないとな。


二階へと続く階段の前で、俺がそんなことを考えていると────


上の階から扉を開け放つ音と共に、悲鳴を上げながら走る人間の声と足音がここまで響いてきた。


「うわああああ、なんでおれ達がこんな目に遭わなくちゃいけないんだよぉぉ!」


そのまま声が移動しながら近づいて来ていると思っていらと、目の前の階段を一段飛ばしで駆け下りる。くすんだ髪色の柄シャツを着ている男の姿が見えた。


「おい、お前生存者か? なら少しでも状況を――」


「誰だあんた!? いや、この際どこの誰でもいい、助けてくれ!」


俺の言葉を無視して胸に飛び込んできた男をひらりとかわす。


そして、行き場を失った男は血で滑りやすくなっている床で盛大に転んだ。


「ぶへっ! なにすんだよ!?」


「いや、俺はなにもしてねえよ。お前が勝手に転んだだけで」


「受け止めろよ!? 普通だったら助け求めて走ってきた奴が居たら受け止めんだろ!」


血を服にべったりとつけた男が理不尽な理由をつけて八つ当たりをしてくる。


ったく、男なんて受け止めて俺になんの得があるってんだよ。


「それより、そんだけ元気ならさっさと状況を説明しろ」


「はあ!? それどころじゃねえよ! 狼人間に襲われたかと思ったら一緒に居たツレとここに連れて来られて、なんの説明もなく部屋から一人ずつ順番に出されて追いかけまわさせてんだよ。こんなん説明してほしいのこっちの方だろ!」


俺は必死に自分たちの置かれている状況を、パニックになりながらも話してくれた座り込んでいる男の目の前に立つ。


そして、目が合って不安そうに俺を見つめるその男に、平手打ちをした。


「っ!? へ??」


自分の叩かれた頬を抑えながら、状況の理解が追いついていないのか、男がキョトンとしたまま俺を見上げて固まっている。


「落ち着け、お前が辛いのは分かるし逃げだすのだって大歓迎だ。でもな……お前が助けてほしいのは、自分だけか?」


さっきの弱々しい呼吸音からして、おそらくその人は走り回れるような元気は残っていない。


それにこの男が言っていた『一人ずつ部屋から出して追い回す』ってのが本当なら、この男が人狼に捕まったら、次はその人に順番が回ってきてしまうということで、逆に言えばこの男が捕まらなければすぐには狙われたりはしない。


「そ、そうだ! ここの二階にもう一人捕まってるおれのダチが、襲われたときにわき腹を引っかかられてて、辛そうになんだよ!」


黙って聞いていた男が、慌てて言い忘れていた最後の情報を早口で喋り出す。


「分かった分かった。そんなに騒がなくてもどっちもここから生きて帰してやるから……お前は鬼に見つからないように隠れといてくれ」


その時、ペタペタと床を歩く数人分の足音がゆっくりとこちらに近づいてくるのが聞こえた。


「あいつらだ!」


俺に続いて足音に気づいた男が、すぐそこの窓から外に出て、窓枠から顔を出してこちらを覗いている。


たぶん、それは隠れてるうちには入らないと思うが相手のことを考えたら、視覚的な見つかりにくさなど意味はないだろう。


「新しいお客さんが来たと思っていたが、あんたがそうか」


俺は階段を降りてくる先頭で首に黄色いスカーフを着けて、全身に毛を生やし頭の上に耳のついた二足歩行で流暢(りゅうちょう)に喋っている狼、人狼の姿を捉える。


「ああ、なんか楽しいそうな気配がしたんで、ふらっと立ち寄ってみたんだよ」


「こちらとしてもお客が増えるのは歓迎なんだが、順番だけは守ってほしいな。そこに居る奴が終わったらあんたの番ってことで、それまで待っててもらっていいか? でないと狩りは楽しくない」


言いながら、よだれを垂らした長い口をニタ~と歪めて人狼が笑う。


「ああ、ごめんごめん。でも奇遇だな、俺も楽しい狩りがしたくて寄ったんだよ」


俺は言いながら、胸糞のわるい笑顔を浮かべている人狼に歩み寄る。


「狩りを? 人間のお前が人間を食うのか」


近づかれて煙草の煙を露骨に嫌がりながら、こちらの言ってることが伝わりきっていない人狼が眉をひそめる。


「いいや、俺が狩るのは人間じゃねえよ。馬鹿面引っさげてまんまと俺の前に現れた犬っころの方だっ!」


咥えていた煙草を真正面の人狼の顔に飛ばし、五人の人狼の上を背面跳びで一気に越えて、三列目二匹の人狼の背後に着地。


そのまま目の前の二匹の後頭部を掴んで、血まみれの床へと顔面を叩きつける!


「さっきまで一対五で狩りをやってたんだろ? だったら今度は五対一にルール変更だ。本気で逃げれば一匹くらいは逃げきれるかもしれないぜ」


一瞬で倒れた二匹を見つめながら、三匹の人狼が唸り声を上げて俺をギロリと睨みつけてくる。

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