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そして鳴り響く着信音。今宵も訪れる仕事の時間。

「よし! じゃあ最初に買い物行こっか」


時刻は午後三時。


ここにやって来たのが昼過ぎだったので、家の前で紗世さよに出会ってから二、三時間が経っていた。


「どうした急に? 腹でも減ったのか」


急に立ち上がった紗世に驚きつつ、心配して声をかける。


「もう違うよ! この部屋なにもないでしょ? せめて最低限の食器とかお布団がないと困ると思ったの。だからこれから日常品の買い出しに出発です!」


よく分からないテンションになった紗世がおかしな口調で、拳を突き上げて宣言する。


「いや、それくらいだったら俺が一人で行けるから紗世は不用意に外に出なくていいぞ」


とゆうか、俺的には日用品なんて買ってこなくてもコンビニ弁当とかあれば十分だ。寝るのは床でもなんでもいいし。


「え~いいじゃん、ちょっとくらいお出かけしたって」


「やっぱ本音はそっちなんじゃねえかよ……」


「だって、久しぶりに会えたんだからデートとかしたいかなって」


「お前なあ、そんなもんいつでもできんだから何もこんな町でしなくてもいいだろ」


それこそ道中で、化け物が現れたらムードもへったくれもねえ。


「こんな町って、わたしたちの村じゃ緑を眺めながら散歩してばっかりだったじゃん。どこか連れて行ってって頼んでも剣は『危ないから駄目』ばっかりだし」


「当たり前だバカ。前に無責任に紗世のわがままに付き合ったら、お義母さんに引くほど怒られたじゃねえか」


あの時は、どうしても電車に乗りたいと言われて駅まで向かわされたなぁ。


「だって、電車からの眺めって一度見てみたかっただもん……」


「そういうのは普通は窓越しに見るもんで、屋根の上から見るもんじゃないんだけどな……」


あの時の紗世を抱えたまま流れる風に打たれ続けた感覚が甦る。


そんな思い出すだけで疲れてきそうな思い出に浸っていると、俺のポケットのケータイから着信音が鳴り出す。


「電話? お義母さんが伝え忘れたことでもあったのかな」


「いや、お義母さんじゃないしましてやお義父さんでもないな」


こんな変なタイミングで電話がかかってきたとき、受話器の向こうに居るのはいつだってあの強面のマッスルゴリラである俺の雇い主。


盾石たていしとおるに決まっている。


「もしもし、どうした盾石のオッサン?」


「おう。そろそろ引っ越しも終わった頃合いだと思ってな。コンロも置いておいたし電気水道もガスも今日から通っているから住むのに不便はないと思うが、どうだ気に入ったか?」


「ああ、注文通りとはいかないがそこそこ広いし、それに人間が住む家だったってのが気に入ったよ」


「ガッハッハ! そうだな! だがなんなら壁さえ無けりゃお前でも走り回るくらいは出来るんじゃねえか?」


電話口で、高笑いをする迷惑なオッサンの声から少し耳を遠ざける。


「流石に走るのは無理だろ。それをやると足すべらせただけで壁に穴開けて出かけちまいそうだ」


「まあそうだわな。で、とりあえず次の拠点も確保できたことだし、早速仕事の依頼だ」


「ああ、盾石のオッサンが善意でこれをやってたら気持ちわりいと思ってたんで、少し安心したぜ」


「報酬まで出すっていうのに随分な言い草だな、クソガキ」


「で、今回はどこに何が出たんだよ?」


これ以上、不毛な罵り合いなどしても時間の無駄なので、俺は広い心でオッサンの罵倒を無視して要件を端的に聞く。


「場所は遠くはない、そこから北にしばらく行った所にある廃ビルだ。うちの戦闘員が入っていくのを見かけたらしいが、敵の数が多く今の空いてる隊員では手に余る」


狭い室内に化け物が集まっているとすれば、外から破壊するか中に潜入するかだ。


そして後者の場合、警戒と十分な準備をしなければ奇襲で全滅なんてのは全く珍しくもない話だ。


「相手はお前もよく知っている奴らだ。ここ一ヶ月で目撃情報と退治依頼が急増しているウェアウルフ・人狼だ」


「この前、山に退散させたばっかりなのにまた住処から出てきたのかよ」


前に退治したときは町中に潜んでいて見つけるのに苦労したな。


「言っておくが、相手は狼と言っても知能を持った二足歩行の化け物だ。前回の吸血鬼のように下位種上位種が居ないとも限らない。絶対に油断だけはするなよ」


「大丈夫だと思うが、確かにこの前のイレギュラーもあるからな一応警戒はしておくよ」


ケータイのボタンを押して通話を終了した俺の顔を、紗世が下から覗き込んでくる。


「今の電話、誰だったの? 剣すごい態度がわるくなってたけど」


「ああ、今この町で俺に化け物退治の仕事を依頼してくれてるモンスターバスターって会社の社長だよ」


「そうなんだ、すごい分かりやすい名前の会社だね」


会社の名前聞いた紗世があまりのダサさに苦笑を浮かべている。


まあ、それは偽れない事実なのでしょうがないだろう。


「ああ、本人も子供でも助けを求められるように何をする会社かひと目で分かるよう名前にしたらしい」


「そうなんだ。良い人そうだし、今度挨拶しにいかないとね」


「いらねえよ、そんなの。とりあえず仕事を頼まれちまったからちょっくら行ってくるな」


「え!? だめだよ! まだ包帯を換えたばかりで傷だって治ってないのに!」


そそくさと、玄関へと向かう俺の手を掴んだまま一緒に動いている紗世が必死に止めようとする。


「大丈夫だってすぐ帰ってくるからさ。それより紗世こそ誰か来ても出るなよ?」


紗世はとんでもないお人好しなので言い聞かせておかないと、見るからに怪しい奴でも扉を開きかねない。


「さっきから剣の言ってることずるいよ! わたしばっかり気をつけなきゃいけないのに、なんで剣はそんな大怪我のままで化け物退治に行っちゃうの」


紗世の言い分はごもっともだ。


だけど、紗世が居るこの町に化け物が居るなんて状況放っておくことはできない。


ずるいと言われて、心がずしりと重くなる感覚を覚える。が、俺はさらにずるい手を使う。


「紗世、頼む。俺を行かせてくれ、これはお前のためにすることでもあるんだ」


「でも……」


紗世が言い淀んで目を逸らすのを見て、俺は言葉をたたみかける。


「約束だ。必ず無事に帰ってくる、だからこの手を放してくれ。俺が約束を破ったことがあるか?」


俺は紗世の瞳を見つめて、視線で語りかける。


「うぅ、ずるいよ。わたしが剣のお願い断れないの知ってて、そうやって言ってるでしょ」


「ああ、ごめん。でも約束を守るっていう言葉に偽りはない」


「うん、知ってるよ。だから……」


その後の言葉は声を出さずに言っていたので耳には届かなかったけれど、心の方にはしっかりと届いていた。


「そんな顔すんなよ、すぐ帰ってくるからよ!」


俺は不満そうな紗世の頭に手を置いてから外に出る。


そして、約束を胸に深呼吸をしてから北の廃ビルへと向かった。

登場人物紹介その七


斉藤さいとう紗世さよ

剣の恋人。十五来の付き合い(恋人としては十年)。

年齢二十九歳。誕生日8月8日。

容姿、明るい色のロングヘア。体形は平均的で山でもなく壁でもない。

身長は約158㎝。

好きなもの、剣。家族。笑顔。親切にすること、されること。

嫌いなもの、孤独。山の上の田舎暮らし。


斉藤さいとう可与かよ

紗世の母。まじない師。

年齢五十五歳。誕生日12月25日。

容姿、常に薄紫色の呪符された装束に身を包んでおり、長い髪を一つに結んで肩から垂らしている。

身長は約160㎝。

好きなもの、人助け。家族。平穏。

嫌いなもの、無責任な人間。

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