射抜かれるのは、ハートかそれとも心臓か。その六
アシュリーちゃんの小さな手と固い握手を交わした俺は、地べたに座ったままの彼女の手を引いて立ち上がるのを手伝う。
早くここを離れないと。人が集まって来たら色々面倒くさいしな。
先ほどの戦いの傷跡が真新しいタワーマンションを見上げながら、俺がひと息つかうかと思った矢先。
アシュリーちゃんの両腕に穴を空け、音もなく銀の弾丸が走り抜けた。
「なっ!? アシュリーちゃん大丈夫か!」
「っ、うるさいですよ。静かにしてください」
心配する俺に、強がりながらも地に膝をついてしまうアシュリーちゃんの背後に視線を投げる。
そこには、遠くのビルの四階付近。窓辺にスナイパーライフルを構えた黒服の男の姿を確認した。
いや、集中して観察すると、前方に散らばるように複数の建物の窓や屋上から、俺たちを狙っている銃口が四つほど見える。
「どうやら、ずっと見られてたみたいだな」
俺たちの戦いが終わって、消耗しているところを狙ったのだろう。
「ええ、それにやはりブラックパージの方々は私の正体にも気が付いていたようですね」
銀で撃ち抜かれたアシュリーちゃんの腕の傷はすぐには塞がらず、人間と同じように柔肌からは赤い血が流れる。
これ以上、撃たれるのは生死に関わってしまいそうだな。
とりあえず作戦を考えるためにアシュリーちゃんと自分の位置を入れ替え、俺は黒服たちの銃口からアシュリーちゃんの身を隠す。
「なんのつもりですか?」
「いや、あいつら無力化する良い案が思いつくまで時間稼ごうと思ってな」
「違います。あの人たちからはあなたも狙われているんですよ? これではおじさんがただの的になるだけです」
その言葉通り、俺の背中に、今まさに飛んできた銃弾が命中する。
しかし、当たった弾丸は俺の背中でぺしゃんこになり、地にカランカランと音を立てて転がった。
「魔法の剣や弓ならまだしも、こんな銀の弾丸なんて俺には痛くもかゆくもないよ」
吸血鬼にとっては弱点かもしれないが、俺にとってはただの弾丸との違いも分からない。
どっちもただの金属の塊だ。
「今更ですが、なんですかその身体は……」
「まあ、それに関しては生まれつきとしか言いようがないんだけど」
「どう生まれたらそうなるんですか……」
俺の言葉に、アシュリーちゃんが呆れ笑いを浮かべている。
「俺の話なんてどうでもいいから何か良い案はないか? 痛くはなくとも的になり続けるのは御免なんだけど」
脱線しかけた話を戻して、この状況の打開策を考える。
そろそろ背中が違和感で気持ち悪くなってきた。
「私に考えがありますが、その実行におじさんの身体を貸してもらえますか?」
「ああ、お安い御用だ。ただし殺しはなしで頼む」
頷くアシュリーちゃんの提案に、俺は具体的なことを聞く前に返事を済ませた。
「準備はいいですか? おじさん」
背後でもう一度弓を創り出したアシュリーちゃんが、俺に最終確認をしてくる。
「おう、俺は大丈夫だけど、アシュリーちゃんは無理すんなよ?」
なにせ、俺との戦闘で随分と血を失っている。実行するには、ギリギリまで消費してしまうことになるだろう。
「それは、おじさん次第でしょうね」
「そりゃそうだ。じゃあ、いくぜ!」
掛け声と共に地面を殴りつける!
割れた地面から瓦礫が飛び散りながら盛大に砂煙を上げ、ブラックパージの隊員達の視界から一瞬、俺とアシュリーちゃんが消える。
同時に弓を持ったアシュリーちゃんを抱き寄せて、背中に寄り添うように同じ姿勢で並び立つ。
「おじさん……近いんですけど」
その状況にアシュリーちゃんは、心底嫌そうな顔をする。
「君の指示通りの動きなんだけどなぁ」
それから傷を負った手で、弓を構えた彼女の矢を引く手に俺の手を重ねて二人で引き絞る。
「ふっ!」
俺たちが一気に頭上に打ち出した数十本の矢が、放物線を描いて、ブラックパージの隊員達に向かって飛んでいく。
「身体を借ります。私を支えておいてください」
返事を待たずにこちらに体重を預けてくるアシュリーちゃんを、俺は胸で受け止める。
「血の戻り」
降りそそぐ矢の雨が、血の雨に変わり黒服達を赤く染めた瞬間。
決めの詠唱をアシュリーちゃんが口にする。
「<血の拘束>」
黒服達が窓や屋上で全身を一瞬で縛り上げられて、その場に拘束されたままで倒れていく。
「やるな、“アシュリー”。百点満点の決着だ」
アシュリーは魔法を放つと、すぐに俺から離れた。
フラフラと、貧血気味の身体で立っている彼女に俺は拳を差し出す。
「なぜ上から目線なのかわかりませんが、私がこんなことで失敗などするわけがないでしょう? “剣さん”」
戸惑った様子で俺の拳を見つめていたアシュリーが、拳をそっと手の平で包み込みながら言った。
「えっと、これグータッチのつもりで差し出したんだけど……」
「わかってますが? 私の方が上だと示すために、あえて掴んだだけですっ!」
「痛っ!?」
アシュリーは苦しい言い訳で顔を真っ赤にしてから、腹いせに俺の背中を蹴り飛ばした。




