夢の中。あの日の思い出と目覚めた現在。
★ ★ ★
「剣~剣~。あ、こんなところに居たんだ」
夕焼け色に染まった広大な草原で胡坐をかいている俺の背後から、聞きなれた落ち着きのある女の子の声が聞こえた。
もう夕飯の時間を過ぎてしまっていたのだろうか。
「ああ、もう少ししたら行くからちょっと待っててくれ」
俺は手元を隠して首だけで振り返り、風でなびく長い髪と白いワンピースをおさえている紗世に返事をする。
「剣……なにしてるの?」
「べっ、別になんもしてねえよ! いいから部屋に戻ってろって」
露骨に怪しんでこちらを見る紗世の視線が、俺の見えない手元へと向けられる。
「えぇ~絶対嘘だよ。今なんか隠したの見えたもん。なにしてたの? えっちなものでも怒らないから、私に言ってごらん剣くん」
なにか盛大な勘違いをされていた。
ここ見晴らしのいい草原だぞ? 俺はどんだけ生き急いでんだよ。
それでも、俺はこれをまだ見せるわけにはいかなかった。
驚かせてやりたい相手に見せたら意味がなくなってしまうからな。
「たくっ、本当に何でもないからあっち行ってろよ」
「あーそうやってまた。女の子には優しくしてあげないとダメだよって、いつも言ってるでしょ。そんなんじゃ将来モテないよ」
どうして俺は同じ年の十八歳の女の子に説教されてるんだろうか? まあ、こんなのいつものことなんだが……
「ん、ちょっと待てよ。俺が将来モテてもいいのかよ?」
「…………いじわる」
俺の挑発的な視線に紗世はいじけて口をとがらせてしまった。そのせいで生まれた沈黙が、俺に罪悪感を募らせる。
はぁ、やはり紗世には敵わないな。
「あーもうわかったよ。別に見ても面白いもんじゃねぞ? ほら」
振り向いて紗世の頭に、よれよれで今にも形が崩れてしまいそうな下手くそな花冠を置いてやる。
「これ、私に?」
「他の奴にやるもんを、一旦お前の頭に置くわけないだろ……」
「ふふ、だって剣がこんなサプライズしてくれるなんて思わなかったから」
紗世の笑顔が戻って、俺はホッとする。同じ家に帰るのに、あの空気はさすがに耐えられない。
しかも、巻き込んでしまうお義父さんとお義母さんにも申し訳なさすぎる。
「まあ、慣れないことしたのは認めるよ。失敗作みたいなもんだしいらなかったら捨ててくれ」
「うん、ほんとに。これじゃあ被れないよ」
「ああ、まあな」
自分で言ったことだが、素直に返されると意外と傷つくなぁ。
「だからこれは部屋に飾っておくから、また今度二人で作ろ。ね?」
そう言って、上機嫌で跳ねるように前を歩いている紗世のオレンジ色の背中を追いかける。
俺が追いつくと、もうすぐそこに見えている我が家への道をどちらともなくゆっくり歩き出した。
★ ★ ★
懐かしい夢を見ちまった。多分疲れてんだろうな、俺。
夢から覚めてもまだ、まぶたを閉じたまま幸福感と切なさを足して割ったような感傷に浸っている俺の耳に「剣、剣!」と、自分の名前を呼ぶ野太い声が届く。




