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仕組まれた罠。血鬼四夜、最後の吸血鬼。その四

アーケード街の入り口に着地した俺は、まだ安否が定かではない彼女の名を呼ぶ。


「おい! アシュリー・ガトレット居るならなら返事しろ!」


俺の大声に反応するように、アーケード街の瓦礫の陰から十数羽のコウモリが遥か上空へと飛び立っていく。


「あなたは馬鹿なんですか? まだ近くに吸血鬼がいるかもしれないのに、のこのこ出てくるわけがないでしょう」


夜空の闇に消えたコウモリを見上げて、アシュリーちゃんは破壊の跡が届いていない建物の路地から姿を現した。


「あと、気安く名前を呼ばないで下さい」


「今は緊急事態なんだから、それはよくないか」


「そうでした。化け物はいなくても、変態は残っていたんでした……」


勝手に助けに来たとはいえ、いつも通りあんまりな言われようだった。


「相変わらず手厳しいね。まあ、その様子だと吸血鬼に襲われたりはしてないみたいで安心したよ」


「ええ、私は……ですが」


アシュリーちゃんの視線の先、数メートル離れた場所で、干からびたミイラのようなものが横たわっている。


そばで見るまでもないが、俺は一応ミイラの所まで近づく。


間違いなく俺がここで殴り合ったロイという吸血鬼だ。さっき倒した吸血鬼と同じく首筋に吸血痕がある。


「私が追いかけていたらアーケード内に入っていった吸血鬼に、突然現れたフードを被った私と同じくらいの背丈の小柄な男性が、襲い掛かって血を吸っていました。そのあとは恐ろしくて身を潜めていたのでわかりませんが……」


「なあ……こいつは何でここに来たんだと思う?」


「なんでって、逃げていたからでしょう?」


確かに、ここまで来たのは逃げるためかもしれない。


だけど、ダイナーの催眠から解放されたコイツには逃げる理由も目的もなかったと思う。


あの日の戦いの後、ロイという吸血鬼は最愛の人を失って、心底この世がどうでもよくなっていたように見えたから。


「それに逃げるにしては、こんな見晴らしのいいとこ選ぶのは馬鹿すぎないか?」


ロイが倒れている周囲は瓦礫の山しかなく、視界を遮るものはほとんどない。


追われていると知っていながらこんなとこを通るのは、敵に見つけてくれって言っているようなもんだろ。


「そう言われてみれば、相手が格上の吸血鬼だからなすすべもなくやられたのかと思いましたが、最初から抵抗の意思なんてなかったのでしょうか?」


……この脱走は仕組まれたもので、吸血鬼たちの親玉がコイツの血を吸って自分を強化するためにここに向かわせたのかもしれないな。


四匹目の吸血鬼がロイとダイナー二匹の吸血鬼の血を吸っているならおそらく相当な強さになっているはずだ。


ダイナーの時みたいに相手の出方を待っていたらちょっと面倒なことになりそうだな。


「とりあえず会社に戻るか。この件を盾石のオッサンにも伝えておきたいしな」


「そうですね。私も勝手に飛び出したことを社長に謝らなければいけません」


「その言葉、助けに来た俺に言ってもいいんだぜ?」


「おじさんに、無茶について言われることが私にあるとでも?」


「はい、すいません」


十歳も年下の子の言葉に、俺は返す言葉がなかった。正面から殴られて、胸が痛い。


そんなうつむく俺のもとに、今日で三回目の着信音が鳴る。


「オッサン、今ちょっと落ち込んでるからよ。後にして」


「剣、ふざけてる場合じゃねえぞ。今すぐ戻ってこい! これは罠だ!」


傷心にひたろうとしていた俺に、電話の奥で盾石のオッサンが叫ぶ。


その言葉が聞こえた直後、電話の向こうから凄まじい破壊音が聞こえて強制的に通話が切れた。


「あの、どうかしたんですか?」


通話が途切れたケータイを眺める俺に、アシュリーちゃんが不安を顔に張り付けて聞いてくる。


「ごめん。俺は会社に向かうからアシュリーちゃん、今日のところは家に帰ってくれ」


そう言って、走り出した俺の背に「社長をお願いします!」と、アシュリーちゃんの心配そうな声が届く。


俺は背中越しに手を振ってから、満月が輝く夜空へと跳び出した。

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