仕組まれた罠。血鬼四夜、最後の吸血鬼。その三
俺と盾石のオッサンの視線が、ノックもなしに入ってきたモンスターバスタ-社の防護服を着ている男に集まる。
「どういう事だ? 状況を詳しく聞かせろ」
慌てた部下の声に、落ち着いた口調でオッサンが語りかける。
「はい。それが、会社に入ってきた男達が突然走り出したかと思ったら、一直線に地下の吸血鬼の元へ向かいだしたらしいのですが……」
「地下には君を含めた戦闘員の五人で警備させていたはずだが?」
「はい……連絡も無く降りてくるはずのないエレベーターが降りてきて、おかしいと思い身構えてはいたのですが……エレベーターからは三十人ほどの男達が押し寄せて来まして、我々だけでは止めきれずに一人の男に吸血鬼の元に行かれてしまいました。誠に申し訳ございません」
オッサンの部下が綺麗な姿勢で頭を深く下げている。
ここまで聞けば、疑う余地もないだろう。
その様子のおかしい男たちは吸血鬼の魅了にかかった人間で、このタイミングの良さもさっきまで俺がほかの吸血鬼と戦っていたことを考えると偶然とは思えない。
「そうか……そこに居た隊員は全員無事か?」
「はい、奴らは何故か吸血鬼を解放すると、我々には興味を示さず無視して地上へと向かいましたので、それから……もう一つ」
元から狙いは仲間の救出で、もうここには用はなかったってことか? まあ、それにしても……
「おいおい、まだあんのかよ。あんたら今日は何しにここに来たんだ? もしかして社内見学か?」
「なっ!? お前……っ!」
隊員は俺の言葉に文句があるようだが、せっかく捕まえてきた吸血鬼をたやすく逃がされてちゃあ、こっちも文句の一つくらい言いたくなるってもんだ。
ブラックパージとモンスターバスタ―が協力関係になれば、俺の目的にもやっと少し光が見えそうだってのに。
「剣、それ以上はやめておけ。すまないが、君もここは抑えてくれ。今もっとも優先しなくてはいけないのは原因の追求ではない脱走した吸血鬼の捕獲……もしくは退治だ」
オッサンが目的を忘れるなと、いつも鋭い目つきをさらに細くする。
「すいません。社長の前で失礼でした。それで、もう一つの問題なのですがガトレットが会社から逃げる吸血鬼を見て、後を追って行ってしまったらしいんです」
それを聞いて、俺は窓枠を蹴ってビルの外に飛び出す。
「オッサン! アシュリーちゃんと吸血鬼の捕獲は俺に任せろ!」
瀕死の吸血鬼が逃げただけならオッサンたちに任せてもよかったが、アシュリーちゃんの命の危機となれば、時は一刻を争う。
「おう、追加の報酬をくれてやるからウチのバカな社員も吸血鬼も無傷で連れ帰ってこい!」
盾石のオッサンからの仕事の追加依頼を背中で聞きながら、夜空に浮いていた身体が急降下する。
隣のビルの屋上に前転で受け身を取りながら、勢いのまま立ち上がって走り出す。
この前の都会に比べれば少し暗いが、それでも外灯の光で見える街路に目を凝らして、俺はビル群の上を跳び回っていく。
しかし、今のところは見当るのは酔っ払いと路地裏でイチャつくカップルぐらいのもんで、アシュリーちゃんと吸血鬼の行き先の手掛かりはかけらも見当たらない。
「ったく、アシュリーちゃんにも困ったもんだよな。せめて、盾石のオッサンに連絡してから追いかけてほしいもんだ」
真面目なのは良い事だが、正義感が強いっていうのも考えものだ。
これは今回の反省も踏まえてアシュリーちゃんには連絡先を教えてもらっといた方がいいな。
こんな科学が進歩してる世の中で、足で探すなんて非効率が過ぎるっての。
夜風を切ってビル群の上を走りながら、地道な捜索活動をしていると、ポケットの中で携帯の着信音が鳴る。
もちろんこんな状況で女性からかかってくる訳はない。
相手は、さっき別れたばかりの盾石のオッサンだ。
「剣。お前にいい知らせだ」
「もしかして、もう吸血鬼が見つかったのか?」
少しだけ期待を持って、俺はオッサンに問いかける。
「ああ、今しがた吸血鬼が以前お前が廃墟に変えたアーケードの中に入っていくのを確認したとガトレットから報告があった」
「アシュリーちゃんから直接か?」
アシュリーちゃんから報告があったということは彼女はまだ今のところは無事ってことだ。
場所の特定も嬉しいが、それが分かっただけでも盾石のオッサンにしては価値のある情報だ。
「逆方向ではあるが、俺の足なら五分で行けるな」
電話を切り身体をひるがえす。
進行方向を変えた俺は、追い風に乗って加速しながら春の夜空へと飛び込んだ。




