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仕組まれた罠。血鬼四夜、最後の吸血鬼。その二

「よう、時間内に来たぜ。オッサン」


社長室の窓から現れた俺を見て、盾石のオッサンが腕時計で時刻を確認する。


渋山(しぶさん)からここに来るのに三分か。今後の為に覚えておこう」


あの町、そんな名前だったのか。


盾石のオッサンが不穏な事を言いながら、机の上に封筒を無造作に投げる。


「それが今回の報酬だ。俺から頼んだ訳じゃないが良くやったな」


盾石のオッサンはさして嬉しくもなさそうに、ニコリともせず真顔で賛辞を述べる。


「これだけか? 実は吸血鬼退治って簡単な仕事だったりするのか」


ダイナーのミイラをその辺に立てかけて、俺は封筒から取り出した十枚の一万円札をパタパタと仰いぎながら尋ねる。


「まあ、そう言うな。俺の会社が小さいと言うのもあるが、お前の戦闘後にうちの現場調査や清掃を行ってくれている者達から聞いた状況を元に、決めた額なんだからよ」


言いながら、オッサンがニッコリと笑う。


何度見ても、ゴリラの様な身体の強面のオッサンにニッコリ笑われると背中に悪寒が走る。


「お、おう。そうだな、今回は何の被害も出さずに勝てたんだから、それで良いよな」


盾石のオッサンの言葉に俺は愛想笑いをしながら答える。


「何の被害も出ていない……だと?」


「……アレ?」


笑顔だった盾石のオッサンの表情が曇る。


「トンネルが陥没して、街の中心にある交差点にバカデカい穴が空いてんだろ! このクソガキがっ!」


オッサンは額にはちきれそうな血管を浮かべながら机に拳を叩きつける。


このオッサン、結局キレたよ。


「分かったから、落ち着けって。ったく、アンタどんだけ短気なんだよ……」


「テメエこそ場所を考えて戦いやがれ! 化け物もテメエも一生だだっ広い野山で生活しろ。このタコ野郎が!」


タコなら海に行った方がいいだろと思ったが、心底どっちでもいいので黙っておく。


そんな事より────


「おい、オッサン。そろそろ本題に入ってくれねえか? 俺も暇ってわけじゃないんだよ」


「そのセリフは百倍にして返してやりたい所だが、そうだな。……この前お前が担いできた男は起きた時には正気に戻って、何も覚えていなかったぞ。だが────


「その男は、魅了されていたんだろ。今回戦った吸血鬼が言っていたぜ」


俺は余計な情報交換を省くため知っている事は先に言っておく。


「そうか、知っていたか。男曰く、夜道でフードを被った小柄な人間の赤い眼を見てから、記憶が曖昧になり、そこからはあまり覚えていないと言っていた」


「そうか、ならこの街に残る吸血鬼を倒せば、優子ちゃんの平穏は守れそうだな」


「待て、剣」


やるべき事も決まり、話を終えて帰ろうとする俺を、盾石のオッサンの声が引き止める。


「なんだよ、まだなんかあんのか?」


「その子の件とは別に分かった事がある」


振り向いた俺に、オッサンが唐突に新聞を投げた。


俺は受け取ったはいいが新聞を一目見て、盾石のオッサンに尋ねる。


「これ何処のだよ?」


新聞の見出しには、俺には読めない字ばかりが並んでいる。おそらくこの町のものではないだろう。


「そこには五年前、外国のとある田舎町で吸血鬼が退治された事が書いてある」


「は? そんな所に退治なんて出来る奴が居るのか」


俺が最初に戦ったロイって吸血鬼でもただの人間が太刀打ち出来るもんではなかったと思うのだが。


しかし、盾石のオッサンは首を縦に振った。


「たまたま旅行に来ていたんだとさ。賢者の一人、ゴルドール・リーマン氏が」


「なっ!?」


まさかの名前に驚いている俺を無視して、オッサンは話を続ける。


「吸血鬼の家には一緒に妻と少女が住んで居たらしい」


いざという時に血を吸う為に父親を殺して、偽装家族として一緒に暮らしていたのかもしれない。


「おそらく魅了で操られていたと書かれている母娘をリーマン氏が屋外に避難させ、一人で家へと入った。その後数回の話し声が聞こえた後、リーマン氏によって吸血鬼は退治されたらしい」


まあ、さすがに民家に隠れている様な吸血鬼に賢者が負けるとは思えないしな。


「それで、この事件の事と今戦ってる吸血鬼になんの関係があるんだよ?」


「お前が吸血鬼のツガイの捕獲を邪魔した。オレが協力関係を結ぼうとした組織があっただろ」


あの黒服の奴らか。


相手が吸血鬼とはいえ真っ昼間から女を無理矢理車に乗せてるところを、助けちまってあの時もオッサンにキレられたな。


「あの組織、ブラックパージのトップがゴルドール・リーマン氏だ」


「は!? じゃあこの国の賢者ってゴルドール・リーマンなのか!」


俺は思わぬ収穫に思わず、声を上げる。


「そんな訳ないだろ。剣、お前そんなことも知らんのか。この国の賢者は三条兜さんじょうかぶと氏だよ」


「あーそうなのか。田舎から出てきたもんで賢者の名前が出てきて、テンション上がっちまったぜ」


「全くそれくらい国民の常識だろうが。まあとにかく、そのブラックパージからは表向きは手広く怪物退治をしているが、毎度吸血鬼だけは生け捕りにしているという噂が流れている」


生け捕り。何か退治とは違う狙いがあるのは間違いないだろうな。


「だとしたら、あの吸血鬼達の狙いは仲間の救出か?」


「それか、復讐だろうな……」


俺と盾石のオッサンが思案顔で黙り込む。


すると、静寂の中にここに向かって来る足音が聞こえてた。


「社長、大変です! 地下に捕らえていた吸血鬼が脱走しました!」


ドタドタと音を鳴らしてやって来たモンスターバスター社の戦闘服を着た男は、俺達に最悪の知らせを届けた。

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