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パトロールと吸血鬼。その六

「宣言通り、次こそお前を細切れにしてくれよう」


吸血鬼・ダイナーの、天井まで届きそうなレイピアの剣先が、前方に立つ俺を捉えて怪しく光る。


「はっ!」


ダイナーが気合を入れて繰り出した突きは、明後日の方向飛んでいき、俺のすぐ後ろの天井を貫いた。


「どこ狙ってんだよ、下手くそ」


格好つけて宣言した後なので、余計にダサく見える。


「久しぶりだった故、少し手元が狂ったようだな。安心しろ次は外さん」


気を取り直して、ダイナーはもう一度突きの構えをとる。


静かに集中して打ち出した赤い光線のような鋭い突きを、俺は身体に当たる寸前でかわす。


早いな。どうやら、さっきの言い訳もあながち嘘でもなさそうだ。


今まで俺の相手で、ここまで磨き上げられた技で戦う化け物が居なかった為、見えていても反応が少し遅れてしまったぞ。


「ふん、避けたか。だが、今のが続けて繰り出されても避けきれる自信はあるか? その粗悪そうなわらの草履で」


「いや、これ結構動きやすいぞ? 走ると一発でダメになるけど」


ダイナーは俺の無駄口を聞く気などないらしく、すでに構えていたレイピアで次々と突きを繰り出す。


壮絶なスピードで襲いかかってくる剣先を、俺はふざける暇もなくして避け続ける。


流石にこのスピードの中で、ふざけてしまうと刃が(かす)るくらいはしてしまう。


「ハッハ! さっきまで飄々としていた態度が見る影もない! どうやらそんな余裕も無くなってきたようだな!」


畜生、図に乗りやがって。こちとらこれ以上無駄に衣服を失うわけにはいかねえんだよ。


「そんなに斬りたきゃこれでも切っとけよ!」


俺は地面に手を突っ込んで、そのまま強引にちゃぶ台を返すように持ち上げた路面を壁にして、ダイナーの視線を遮る。


「お前、底抜けの馬鹿だな」


壁の向こうから声が聞こえた瞬間、壁を容易く貫いた突きが俺の顔へと飛び込んできた。


その突きを、俺はギリギリの所でかわす――


いや、完全にはかわせていなかった。頬に感じた違和感に触れると、そこには薄らと赤い滴が流れていた。


「血……だと?」


俺は驚きを隠せずに、自分の血を拭った指先を見つめる。


「どうした(つるぎ)、自分の血がそんなに珍しいかのか? まあ、驚くのも無理はない。今お前を切ったのは鋼で出来た単なる(けん)などではなく、魔法の(けん)なのだからな」


「なるほど。今まで盾石のオッサンの頼みで色んな怪物に引っ掻かれたり噛みつかれたり殴られたりしてきたけど、魔法で斬られたのはそういえば初めてかも知れねえな」


俺の中で、目の前の吸血鬼への評価が変わる。


負ける程かはともかく、真剣に相手をするに値する相手だと認識を改めないとな。


でないと、今回は軽い怪我では済みそうない。


「まあ、不意をつけたとはいえ、これ以上やってもお前にこの突きはもう当たらんだろう」


「なんだよ。せっかく俺がやる気になったのに降参でもする気か?」


その場合でも、持ち運ぶのが面倒なので気絶させる為にぶん殴る事にはなるけど。


「そんな訳がなかろう。自分の背後を見てみるがいい」


言われて、自分の後ろを振り返る。


そこには、トンネルの入り口は見当たらず、天井まで積み上がって道を塞ぐ一面の土砂が見えた。


「なるほどな」


最初にダイナーが盛大に外した突きは、この為のものだったらしい。


目の前の攻撃に集中していて気づかなかった。


「吸血鬼の私に二度も正面からカウンターを当ててくるお前が、あの突きで倒れないのは想定内だったのでな」


ダイナーが俺へと向けていたレイピアの剣先を再び天に向けて構える。そして、目の前でくるくると回し始めた。


手に持ったレイピアの回転の速度を徐々に増しながらダイナーが一歩一歩、距離を詰めてくる。


このままここに立っていれば、ダイナーの宣言通りこの巨大なミキサーと化したトンネルで、ミンチにされてしまう。


ここで一番簡単なのは後ろの土砂を吹き飛ばして外に出る事だ。


簡単でしかも安全、そして広い場所に出られればダイナーの直線的な攻撃も楽に避けられそうだ。


しかし、それは却下だ。


何故なら、さっきから俺は相手の攻撃を避けてばかりで、その結果敵に勝てるかもしれないなんて思考を持たせてしまっている。


その勘違いを打ち砕くには、俺が真っ向から全力を叩き潰さなければならない。


それが、今までもこれからも俺の戦い方なのだから。


「かかってこい! クソ吸血鬼! 勝ち誇って伸びに伸びきったその鼻っ柱をへし折ってやるからよぉ!」


「ハッハ! まさか自分から死を選ぶとはとは予想外だ! ならば望み通りねずみの餌になれぇぇ!」


目の前に迫った剣の回転によって生まれた風で暴れる髪を、鬱陶しく思いながら腰を低くして構える。


「オォォォォ!」


雄叫びと共に打ち出した拳で、俺は高速で回転する剣の刃だけを正確に殴り続けていく。


激しい衝突音がトンネル内に響き渡る! お互いに足を止め、自分の攻撃の継続に全神経を使ってぶつけ合う。


幾重にも繰り出す俺の拳がダイナーの剣を叩き続けて、次第に俺の浅く切れた拳から血が飛びて散っていく。


それでも俺は拳の速度を落とさない。むしろ速度を上げいく。


剣と拳がぶつかるたびに自分の闘志に火がついていくような感覚に、不思議と痛みなど感じなくなっている気がした。


「本当に何なんだお前は!? 何故、拳如きで私の剣と渡り合っている!」


血まみれの拳でも衰えない俺の連打にダイナーが、純粋な驚きと疑問を叫んでいる。


俺にその言葉に返事をする余裕はない。代わりに拳の繰り出す速度をさらに上げて応える。


「ぐっ、こんな人間風情に(ブラッド・)呪文(スペル)まで発動して押されているというのか!?」


ダイナーの剣の回転は全く劣れていないが、それでも俺が一歩進むたびに少しずつ後退していく。


しかし、俺も日常のぬるま湯に浸かって衰えた肺活量が悲鳴を上げつつある。


こちらも限界を迎える前に決着をつけないと流石にマズい。


「中級吸血鬼さんよぉ。その程度で終わりか? これだったらあの時に戦った吸血鬼の方がまだ

骨があったぜ」


ロイという吸血鬼の時は千を超える拳を叩き込んだからな。死なないように手加減はしていたが嘘ではない。


「ふざけるな! 俺が下級吸血鬼なんぞに劣る所など、一つたりとも存在などせんわっ!」


俺の言葉を聞いて怒り狂ったダイナーが剣の回転を止める。それから剣の柄を両手に持ち替え、上段からレイピアを振り下ろす。


俺はその瞬間を逃さない。


ダイナーのふところへと踏み込み、振り下ろしたレイピアの柄を肩で受ける。


そして生まれた一瞬の隙。俺は、真下から渾身の一撃を顔面に繰り出して打ち上げた。


「まだだ!」


宙を舞うダイナーを追って、俺も地を蹴って跳びあがって、今度はダイナーを地面に向けて叩きつける!


同時に、俺も天井を蹴って地上に戻る。


「まだ、終わってねえぞォォォォォォ!」


落ちてきたダイナーに向けて、俺は足を滑らせ回転の勢いをのせた必殺の蹴りを放つ!


「っ!? クソがぁぁぁぁ!」


やっと反応が追いついたダイナ─が、身を守る為に構えたレイピアを砕き。トンネル内に赤い星々を生み出しながら、俺の蹴りがダイナーの胴体を捉えた!


食らったダイナーは身体をくの字にして、トンネルの外まで吹き飛んでいく。


その後、勢いを失い。地上に倒れたその姿は、月明かりに照らされぐったりとしていた。


起き上がる様子はない。それを確認して俺もひと息ついて、腰を下ろす。


「はあ、はあ。ほんと、久しぶりに動いたぞ」


つい、いつもの癖でジーパンのポケットを探ってしまい煙草が尽きている事実にため息が出た。


今日はパトロールの結果、一日の終了間際に吸血鬼を退治出来たし、盾石のオッサンからの報酬も期待できるだろう。


それに、アイツが使っていた”魔法“あれが賢者の誰かに繋がっているなら聞き出さなければならない。


それから、ボスの事も聞かなければ。


そんな横になっている重要参考鬼に視線を向けると──


トンネルの外でよろよろ立ち上がったダイナーが市街地の方へと羽を生やして飛び立っていくのが見えた。


「クソッ、まだ立てんのかアイツ? はぁ、はぁ、はっ!」


久しぶりに疲れた肺に喝を入れ、まだ明かりが眩しいビル街の方へと一直線に跳んで向かう。

登場人物紹介その四。


ダイナー・レイフォード

中級吸血鬼。魔法陣に血液を捧げることで発動する〈(ブラッド)呪文(スペル)〉の使い手。

容姿、金髪のオールバック。細身でタキシードを着ている。

身長は約180㎝

血鬼四夜(ヴァンパイア・フォースナイト)の名付け人。

好きなもの、女の生き血。

嫌いなもの、汗臭い男の血液。

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