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パトロールと吸血鬼。その四

空高く跳び上がった俺は手頃なビルの屋上に着地する。


「なんだったんだあのガキ、えらい目にあったぞ」


次警察の世話になったら殺すと、盾石のオッサンに言われているからな。


つい先日格好つけて別れた手前、ここで警官なんかと揉めたらオッサンに何時間、いや、何十時間の説教をされるか分かったもんじゃない。


念のため、そこから数棟離れたビルから視界の悪そうな裏路地に降りる。


「やべ、こんな事してる場合じゃねえ」


路地を出て、空を見上げると太陽の姿はすでに空から見えなくなってしまい夜空に満月が顔を出していた。


煙草が吸えて、腹が膨れていたらこの光景に少しは感動を思えたかも知れない。


しかし、今の俺では空に見えるのが白く輝く月見団子に見えてきてしまう。


「あー腹が減って死にそうだ」


なにか起きるなら、さっさと起きやがれ。


今日に限ってはやる気に満ち溢れた俺が、瞬く間に解決してやるというのに。


「キャァァー!」


噂をすれば何とやら。女性の悲鳴が響く街を駆け抜け、俺は声のする現場へと早急に向かった。




「おい、大丈夫か?」


声の元である街の外れのジメジメした薄気味悪いトンネルへと駆けつけた俺は、叫び声を上げたであろう女性の後ろ姿に声をかけた。


「あ、あ、あそこ」


と、女性が振り向きもせず天井を指差す。


そこには、金色の長髪をぴっちりと後ろの流したオールバックに、タキシードを着た男が天井に逆さまの状態で立っている。


「おいおい、マジかよ」


「人の食事を邪魔する無礼な男よ。今なら下品な味のしそうなお前の血は見逃してやらんでもないぞ? 立ち去るがよい」


男の真紅の瞳が俺の姿を捉えて、邪魔をするなと睨みつけている。


「そうしたいのは、山々なんだけどな。わかんだろ?」


俺は言いながらも両手を広げ、お手上げのポーズをして足元に視線を送る。


そこには──


「見捨てないで、見捨てないで、見捨てないで、見捨てないで」


言いながら俺の足を死んでも離してくれ無さそうな眼鏡をかけた女性が、肩から垂らしている結んだ髪と、首をぶんぶんと横に振って嫌々をしている。


彼女がしがみ付く事で、俺の足に幸せな二つの感触を感じるが、今は緊急事態なので仕方ないな。うん。


「うむ、そうだな。ならばその腕を切り取ってやろう」


金髪の男、もとい吸血鬼が女性目掛けて天井から落っこちてくる。


足の感触になごり惜しさを覚えつつ自分の眼前に落ちてきた吸血鬼を下から突き上げた拳で殴り飛ばす。


落ちてきたときの倍の速度で、立っていた場所へと追い返す。


さっきと違うのは吸血鬼の足をが地上に向いて、天井に頭から肩までが突き刺さっている事くらいだ。


「お嬢さん、立てるか? 今のうちに逃げていいぞ」


「これ、夢?……あ、じゃなかった。はい。ありがとうございます」


彼女は急に感情の抜けたような表情をすると足早でトンネルの出口へと走って行った。


「おーい、お前もう死んだか?」


もちろん、死んではいないだろう。


思い切り殴ったとはいえ、不死身の吸血鬼がこれくらいで死ぬとは思えない。


あれ? 違うか。元々、こいつら死んでんだっけ?


俺の問いかけに、吸血鬼は口の代わりに突き刺さった天井を破壊して生存を知らせる。


「今日は報酬の為に化け物は大歓迎だったんでな、お前を倒して美味い酒を飲ませて貰うぜ!!」


俺の言葉に地面へと降り立った吸血鬼が、怒り狂い牙を剥き出しする。


「人間如きが、まぐれ当たりで図に乗るな! 貴様の泥の同然の血液になぞ興味はない!」


吸血鬼は乱れたオールバックを整えながら、続けて叫ぶ。


「細切れにして、鼠の餌にしてくれるわ!!」


そうして、お互いが上げた開戦の声は二人だけのトンネル内に反響していく。

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