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パトロールと吸血鬼。

俺と盾石(たていし)のオッサンが、優子(ゆうこ)ちゃんの安心できる日常を守るため、おっさん二人で熱く手を叩き合った翌日。


俺はある事を思い出して、六畳一間のワンルームで震えていた。


「金が無え……!」


握られた財布の中には、五百円玉と一円玉が二枚だけ確認できた。


一応、財布のカード入れの隅々まで探ってみたが、ホコリ以外何も出てこなかった。


昨日、女の子たちに調子に乗ってごちそうしたのがまずかったか。いや、二人とも喜んではいたしそれはよしとしよう。


それよりも、問題は今日をどうするかだ。


俺は昨日の失敗の追及など後回しにして、今すべきことを考える。


というか、割と切実にやばいので昨日そんなの事なんて考える暇が無い。


しかし、一番の頼みの綱であるオッサンに借りようにも、少し前にここの家賃を払う為にまとまった金額を借りてしまって、まだ返していないので、その手段は最後まで使わない方が賢明だ。


まいったな。このままでは今日一日の食料の調達も出来ねえし、どうしたもんか。


吸血鬼と闘い、様子のおかしな男達の群れと闘った後に、財布片手に腹を空かせて貧困で悩んでるっていうのは、我ながら化け物退治も楽じゃない。


そんな世知辛い世の中にため息をついて、俺は机の上に置いてある煙草のボックスを手に取った。


こんな時は、とりあえず一服するにかぎる。


ゆらゆらと立ちのぼる煙を眺めている間は頭がクリアになって、考えごとをするにちょうどいいのだ。


俺は煙草のボックスを逆さまにして、何処でも買える安物のライターと煙草を取り出す……ん?


出てこない。いくらボックスを振ってみても、煙草が一本も出てこない。


「……仕方ない。煙草、買いに行くか」


いや、待て待て、冷静になれ俺。


この五百円玉で、煙草を買ってしまったら今日一日は確実に煙草以外なにも口に出来ないぞ。


それは流石にマズいだろ。


俺は、自分の煙草への欲望に少し危機感を抱きつつ真面目に打開策を考える。


「あ、そうだ。同僚の仕事を片っ端からやってやればいいじゃないか!」


我ながらナイスなアイディアであった。


この街の人々を救いながら、それでいて対価として盾石のオッサンから金をいただく事ができる。


まさに、誰も損をしていない平和な方法だ。


「そうと決まれば、化け物共を探しにパトロールにでも行くか」


俺はいつも通り、近所のデパートで定期的に購入しているTシャツとジーパンに着替えて、颯爽とベランダの柵を越える。そして、マンションの隣を通る、公道へと飛び降りる。


スタッ、と綺麗に着地した俺を、近所の奥様方が目を皿にして見つめている。


おそらく、いきなり空からイイ男が降ってきたので驚きで声も出ないといった感じだろう。


「あ、おはようございます。それでは俺は急いでますんで、これで」


近所の方との朝のコミュニケーションもそこそこに、俺は化け物事件が多そうな都心部へひとっ跳びで向かった。




化け物退治以外では都心部には来る機会もないので、人々でごった返した横断歩道や、騒がしい程の自動車の交通量に、目がチカチカしそうな格好の若者。


目に映る全てが新鮮な景色で、そして心底どうでもいい物に見えてくる。


辺りを見渡していると、横断歩道の中程を重そうな荷物を必死に運んでいるお婆さんが辛そうに歩いているのが見えた。


「まあ、ついでだし助けるかな」


俺は、お婆さんの隣に駆け寄って声をかける。


「お婆さん、よかったらお持ちましょうか?」


「ありがとうお兄さん、優しいのねぇ。でも、これくらい大丈夫ですよ」


「でも、その荷物はお婆さんが運ぶには少し重そうですよ」


「ああ、それならあそこのタクシーを使って帰りますから」


お婆さんが指差す方向には、タクシー乗り場があり運転手が今か今かと客が乗車するのを待っている。


「じゃあ、せめて横断歩道を渡りきったあのタクシーの所まで持たせてください」


「う~ん、そこまで言ってくれるなら、お言葉に甘えちゃおうかしらねぇ」


そう言って、荷物を差し出すお婆さんの軽い身体を、俺は両手で抱き上げて歩く。


さっきまでお婆さんなど眼中に無さそうだった周囲の歩行者達が、今更お婆さんに気づいたのか、こちらを向いて騒めき立つ。


お婆さんを抱えて歩く俺を見て、人垣が二つに割れ、自然に道が開いていく。


ふっ、今更親切心ってやつが生まれたのか、愚民共。


ならば、その心を忘れぬよう、しかと目に焼き付けておくんだな。

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