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おっさんと賑やかなお茶会。その八

まあ、そうだろうとは思ってけどな。このオッサンが持ってるのは人望と筋肉くらいだし。


あれ? でも待てよ……


「そういえば、あの秘書の子はまだ長期休暇を取らせて旅行中じゃなかったっけか? 確か、社長命令で」


それを聞いたオッサンが空気が抜けた風船のように萎んでいく。さっきまで胸を張って笑っていたのが嘘のように猫背になる。


あれ、俺そんなまずい事言ったのか?


「アイツの事は……今はいいだろ。せっかく居ないんだから忘れさせてくれ」


「なんだ、いつも仲良さそうにしてたのに、喧嘩か?」


いつもオッサンの横でニコニコしてる綺麗な子だった気がするけど、俺の気の所為だったかな。


まあ、俺がオッサンが話してると威殺すほどの怨念じみた目で、こっちを睨んでる事は数え切れないほどあったけど。


「二十四時間監視されて、栄養がどうだの洗濯をするから早く風呂に入れだの、頼んでもない手料理を持ってきては『美味い』と答えるまで顔を覗き込んでくるんだぞ……恐ろしいだけだろあんな秘書」


「オッサン……それはいくら秘書の子相手でもパワハラだろ……」


少し見損ないそうになった俺の言葉を聞いて、盾石のオッサンがわなわなと震える。


「俺が頼んでるんじゃねぇ!! アイツが『これも秘書の仕事』だとか言って勝手にやってくるんだアホ! 何が悲しくて自分の半分しか生きてない女に、そんなことさせなくちゃならんのだ、オラァまだ介護なんていらんわ!」


机を握りこぶしで叩きながらのオッサンの悲痛な叫びに、同情の苦笑いを返す。


「一つ、怖い話を聞かせてやろうか?」


怒り顔から面をすり替えた様に、突然真顔になったオッサンが俺の顔をじっと見てくる。


「もう十分聞いたよ。たった今」


だから、あの子は俺にあんな目を向けていたのか。


「いいから聞け……これはオレがサプライズで秘書の為に個人の部屋を会社に作ろうとした時の事だ」


了承してもいないのに、オッサンの怖い話は勝手に幕を開けた。


「さっきからお前も言ってる通りアイツは、ほとんどいつもオレの隣に立っているだろ?」


「まあ、俺があの子を見る限りはそうだな」


「だが、それだと改築の業者と連絡が取れんだろ?」


「確かに、サプライズなら困るな」


「そこでオレは、秘書に事あるごとに用事を頼んだんだ。社交会に持っていく手土産を買ってきてくれとかそういう少し時間を要する用事を」


「ふーん」


まあ、今のところは普通にサプライズに奮闘するオッサンの気持ちの悪い話だ。


「それで完成当日。この日も秘書にお使いを頼んでいるうちに、部屋の下見を済ませて、オレは秘書の帰りを社長室で今か今かと待っていたんだよ」


「ああ」


強面の身体のでかいオッサンが秘書をドキドキしながら社長室で待っているのを思い浮かべて、思わず吹き出しそうになる。


耐えろ、俺になら出来るはずだ!


気付かれないように太ももをつねって笑いを堪える。


「そして、夜になって秘書が帰って来てな。さぞ喜んでくれるだろうと部屋の前まで行くと――


「どうせ、怒られたんだろ?」


大方、一緒に居たい秘書が逆上して、それから機嫌をとるのに苦労したとかそんな話だろう。


そんな見え見えにオチを、話に飽きていた俺が先回りして種明かしした。


すると、盾石のオッサンはゆっくりと首をよこに振って否定する。


「そこには……広い壁が広がっているだけで、部屋なんて無かったんだ」


「は?」


いやだって、下見をしたって……


その瞬間、部屋の温度が寒気が走るほど一気に凍りつく。


「そして、秘書はオレに言ったんだ。『何もないですね? このまま廊下に立っているのも変ですし社長、部屋に戻りますよ?』とな」


それはオッサンの事なのか、それとも……




「だが、そうか」


恐ろしい話も終わり一息ついたところで、俺が担いできた男を社長室の来客用の椅子に置くと、背後で盾石のオッサンが不意に呟いた。


「どうしたんだよ、オッサン」


「なるほどな。ついにオレと同じくお前に目をつけた奴が現れたのかと思ってな」


「同じじゃねえだろ」


「いや、正義の為とはいえお前を利用しているオレは、ソイツとやってる事は変わらんよ」


そんなふうに、らしくもなく自虐的に言う。


「同じじゃねえよ。俺はオッサンに頼まれた事を面倒だと思ってもやりたくねえと思った事なんて一度もねえんだからよ」


オッサンの、そして自分の心に届くように強く強く、その言葉を唱える。


「ふっ、そうかよ。だったらお前の頼みにも全力で応えるしかねえな」


そう言って盾石のオッサンが差し出してきた手を叩いて、俺は会社を後にする。


今日の長い夜の締めは、美味い酒が飲めそうだった。

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