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最強の男の最悪な目覚め。その二

反射的に見下ろした俺の目に飛び込んできたのは黒い布で覆われた女性と、それを無理矢理車に押し込もうとする黒スーツでサングラスかけた、怪しげな五人組の男達。

声を上げる女性はドアにしがみつき、車に押し込まれぬように必死の抵抗を続ける。

だが、相手は男でしかも五人。

抵抗は残念ながら一分と保たずに、車の後部座席へと押しやられてしまう。


なんだあれ? 昼間から物騒だな。


正直、俺は正義のヒーローなどではない。

街中で喧嘩を見かけても止めに入ったりなんてしないし、暇を持て余してない限りキョロキョロしている見知らぬ他人を見て見ぬフリするなんてのは珍しくもない。


『女の子には優しくしないとダメだよ!』


そんな厄介事を傍観していた優しくない俺の脳裏に、懐かしい声が少し怒ったように注意する。


まあ今回は仕方がないか……。


「それに、さすがに寝覚めが悪いよな」


拉致現場なんて見ちまった以上、俺の精神衛生助けるしかない。

ここは個人的な事情もないわけでもないし、起き抜けの運動と洒落込むか。


決めたなら、やる事は一つ。

決意と共にベランダの手すりを乗り超え、下の道へと飛び降りた。

五階から飛び降りて着地した()へ、黒服たちからの視線が集まる。

目の前の光景に、黒服の男たちはその場に棒立ちになって固まり。

目を白黒とさせながら、口をポカーンと開けたまま呆けて空から降ってきた俺を見ている。


「あのさ、よかったらその女性を諦めて手ぶらで帰ってくれねえか?」


俺の問いかけで我に返ったのか、男たちはすぐに敵意を剥き出しにして睨みつけている。

先頭の一人が、俺の質問に対して口を開く。


「そんな事はできないしするつもりも無い。この女は我々にとって需要な目的であり、案内人だからな」


「まあ、そりゃそうなっちまうよな」


ここまでして「分かりました」で引き下がってくれる悪人に、残念ながら俺はまだ会ったことがなかった。


「邪魔をするなら、お前も駆除するぞ?」


「いや、邪魔って言うかっ」


俺は言い終わる前に地を蹴る。

一番近くに立っていた男へと距離を詰めて、構える隙も与えず横っ面に蹴りを叩き込む。


「提案してるだけなんだけどな。怪我する前に帰れって」


吹っ飛んだ仲間を見て、黒服たちが一斉に戦闘態勢に入る。


「お前っ!? 我々の邪魔をしてタダで済むと思うなよ!」


男たちは、どうやら俺の提案を聞く気は無いようで、徐ろに危険な輝きをチラつかせながらハンドガンを抜き出す。


あーあ、出来れば話し合いで解決したかったのにー。


銃口をこちらに向けて構えると「手を挙げろ」とか警告もなく、不親切にもいきなり引き金を引く。

閑静な街路に発砲音が響き。迫る銃弾を、俺は後ろに上半身を倒して躱かわす。


「街中でいきなり撃つなよ。危ねえだろ」


「「お前、いきなり蹴ってきただろ!!」」


こちらの注意に、黒服たちは声を揃えてツッコむ。


仲良いな、おい。


そんな言いがかりを無視して、俺は距離を詰めた黒服の顎を蹴り上げた。

意識を手放した仲間の仇を討つため、黒服二人がこちらに銃口を向ける。

その鉄の塊が火を噴くよりも早く、腕を広げたまま突っ込み黒服たちの首にラリアットを喰らわす。


「なんだよこの化け物!? こんな奴が居るなんて聞いてないぞ!」


一回転してぶっ倒れた仲間見て、残った一人がこちらに向けて何か放り投げる。

その投げられた缶のような物を俺は片手でキャッチ。すると、男は慌てて運転席に向かって走り出す。


「おい、待て──」


一瞬後。手の中で眩い閃光が耳障りな音を立てて炸裂した。

キィィィィンという、耳鳴りで聴覚が機能せず、目の前は一面の光源で埋め尽くされる。

白の景色から視界が開放されると、眼前に広がるのは周りで四人の男が身体をおさえて低く唸っているという、先程と同じ光景だった。


「くっそ、頭に響くだろうが」


そう吐き捨てた俺の言葉に返事どころか反応する者も居ない。


「……?」


遅れてさっきと同じ風景の中で、一つだけ違うものがあった。

それは、耳鳴りでエンジン音がかき消され閃光の間に走り去っていたもの。

すぐそこに止まっていた、女性が乗せられていた黒塗りの車が忽然と姿を消していた。


「あ」


見つけた黒い自動車は、すでに遥か前方へと逃げ出していた。

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