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不滅の怪物。その四



側を流れる水路を駆け巡る激しい水流の音を耳にしながら、何処に続いているのか定かではない地下を歩く。


ただ、間違いないのはこの先に俺が討伐するべき奴がいるってことだ。


一生歩き続けるかと思い始めた矢先に俺たちが辿り着いた場所は、真ん中と左右に三つの出入り口が存在する広間。

中央の入り口前で立ち止まった俺の視界の先に、広間のすぐ横を走る激流と人影が見える。


「ええ、至急お願いします。かなりの人数が居ますから」


集めたボロボロのガラクタが並べられた小汚い秘密基地には、一人の男が立っていた。

男が電話越しに誰かと話す声と流れる水の音だけが広い空間に響く。

そこで俺は男の服装に見覚えがあることに気がついた。


「おまえは、あの時の……?」


「剣の知ってる人?」


「知ってるというか、一回だけ道ですれ違った程の関係だ」


「ってことは、ほとんど知らない人なんだね……」


清々しく答える俺に、呆れ顔で言う紗世。


「やあ、また会ったね。と言っても、偶然ではないんだが」


ちょうど通話を終えた男が帽子を目深に被った頭を俺たちの方に向けると、同時にもう一つの謎も解けた。

最近ことあるごとに見られていた嫌な視線を、先ほど居酒屋の入り口ですれ違った目の前の黒スーツの男から感じたことによって。


つまり、こいつが複種合人間キメラの集団をまとめる凶悪犯の尾上おがみだったのか。


外見はそこまで凶悪そうには見えないが、あの時と違い。

尾上は覗く口元を歪め、得体の知れない不気味な雰囲気を纏う。


「なら分かってて、こんな時に何かの注文か?」


会話の内容から推察した呑気な行動を問いただすと、尾上は余裕のある笑みで答える。


「安心してくれ。この戦いが終わる頃に熱々のヤツが届くようにさ」


「ずいぶんと自信過剰なんだなあ」


「……どうかな?」


尾上の挑発的な視線を睨み返し、戦闘開始の気配が近づく。

俺が背負った大刀の柄を握り、尾上が携帯端末を胸ポケットにしまう。


「あの」


その空気に割り込んだのは、後ろに立つ顔の隣に手を上げた紗世の声。


「?」


ん? 戦いの前に、紗世も敵へどうしても言いたいことでもあったのだろうか。


「ここってたぶん住所とかないですよね。それだと外で待ってないと配達員さんが困っちゃいませんか?」


「……」


「……紗世、少しだけ静かに」


「あ、はい」


注意を受け、少し罰が悪そうにうつむく紗世から尾上へと視線を戻して仕切り直す。


「俺はお前らになんで命を狙われてたのか知らねえが、お前はここで終わりだ」


「ハッ! 何を今さら」


「?」


「四年程前、灯京の陰で生きる者達の半分以上の勢力を壊滅させた男が裏の者()達にとって邪魔以外の何者でもないからに決まっているだろう」


「俺は人探しで聞き込みしてただけなんだけどなぁ」


賢者のことを聞いて回っている内に襲いかかってくる奴らをぶっ飛ばしていたら、いつの間にか組織ごと相手にすることになったりならなかったりしただけで。


「だから複種合人間キメラを導く者として、俺はアンタを破壊しなくちゃならないんだ」


「なるほど。けどお互いにやり合う理由があって助かるわ」


一方的な目的だけで終わらせるのは、少し寝覚めの悪さが残るからな。

……それもまあ今さらなんだが。


「紗世」


「ん?」


「ここから先は、目を閉じていてくれ……」


今日の仕事を始める前に、彼女へ一つの願いを口にする。

化け物とはいえ、命の終わるところなんてのはもう見せたくはない。


「うん。剣がそうしてほしいなら、そうするね」


「ありがとな」


俺の望みを聞いて紗世は、そっと瞳を閉じてくれた。


「女との別れの言葉を済んだのかな」


「待たせてわるかったな。んじゃ、そろそろさよならだ!」


退屈そうな声に返事するとともに地を蹴り、駆け出しながら背負った大刀を抜刀。

渾身の力で上段から振り下ろす。

化け物すら断罪する一撃を、尾上は交差した二つの黒腕で真っ向から受け止めた。


「なっ!?」


「カッ! 攻撃を防がれるのは初めてかい?」


こいつ、両腕が変化してんのかっ!?


驚くべきは変化した鱗の生えた両腕。

経験則から複種合人間キメラは片手片足のどちらかが黒く変化している奴らだと思っていた俺は、黒く変化した両腕に内心で驚きを隠せなかった。


切断できない硬質な鱗から火花が散り、衝撃で尾上の足がコンクリートの床に沈む。

反撃のため、尾上は防御に使用している腕を勢いよく開く。

黒腕は大刀をはね退け、拳を繰り出そうと引き絞られる。


「はっ! 斬が駄目なら蹴りを喰らわせてやればいいじゃない!」


敵の一撃が火を噴くよりも早く、俺は右手を振り乱した不安定な姿勢のままで最速のつま先を、がら空きの脇腹に叩き込んだ。

爆発的な衝撃を受け、尾上が広間の中心地から真横に向かって吹っ飛ぶ。


「切れなくても、ブッ飛ばすくらいならお茶の子さいさいよぉ!」

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