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おっさんと賑やかなお茶会。その七

社長室に入ると、こちらを睨んでいる盾石のオッサンと目が合った。


肩幅に子供が座れそうな筋骨隆々の五十代オッサンに睨まれたら普通は怖いのかもしれない。


しかし、俺からしたら一撃で死にかねないオッサンなので、慈悲の心すら生まれてくるくらいだ。


「おい、つるぎ。人の顔見て何をニヤついてんだ気持ち悪りぃぞ。それと社長室に入る時はノックくらいしろ、アホが」


「アシュリーちゃんから、俺が来たって聞いてなかったのか? ああ、耳が遠くて聞こえてなかったのか、歳だしな」


受付で、俺が来た事を事前に伝えてもらえるように頼んだので、プライバシーを守るくらいの時間の猶予はあったと思うのだが。


「そういう問題じゃねえんだよ。マナーの話をしてんだ、オレは」


「あーはいはい、分かったからオヤジくさい話はその辺にしようぜ? じゃないと帰る頃には白髪まみれで腰が曲がっちまいそうだ」


盾石のオッサンの説教が始まりそうな空気を感じとった俺は、自分の腰が折れる前に話の腰を折って、オッサンの口に並んでいた言葉の行列を追い返す。


「本当にうるせえガキだな、お前は。で、話ってのはお前が担いでる男と関係があるんだろ」


「関係無かったら俺が男なんて担ぐわけねえだろ」


「女性でも担ぐのはどうかと思うがな。というか、そんな話はどうでもいいからさっさと本題を話せ」


それから俺は喫茶店で男達に出くわしてから人気のない住宅街で闘うことになり。“あの方”という人物の情報源である男を連れてきた事を、オッサンに話した。


「そうか、その子を巻き込まなかったことはお前にしてはよくやったな」


それが話を聞き終わった盾石のオッサンの感想らしい。


「だろ? それでオッサンに頼みがあんだけどよ」


「多分、ろくな事じゃねえと思うが、とりあえず聞いてやる。言ってみろ」


「実はこの前高校生の女の子を助けた時……おい待て、クソオヤジ。その受話器を起きやがれ」


俺は、徐ろに机の上の電話から受話器を手に取ったオッサンが、三桁のダイヤルを押しきる前に止める。


「まさか、お前がそこまでのクズだとは知らなかったよ。あとは警察で好きなだけ話すといい」


「違うんだよ。外見では大人の女だと思ったんだよ!」


まあ、女子高生でも助けはしたけどさ。お礼はさすがに遠慮したと思う。


「はっ、結局あわよくばで、女性の前で格好つけようと思ってる時点でクズだがな」


「はあ? 女の前でカッコつけなかったら何処で格好つけんだよ」


「今日も清々しいクズだな、お前は」


「男からの妬みは褒め言葉として受けとっておくぜ。てか、そんな話じゃねえよ」


「ああ、わるいわるいクズの話にオレの正義が脊髄反射を起こしちまってな」


「とにかく!  その女の子ににじり寄ってた男もコイツらみたいな様子で、ふらふらした足どりに血走った目でブツブツなんか言ってやがったんだよ」


俺はオッサンの言葉を無視して、話を本題に戻す。


「それはその子も気の毒だったな。そんな奴のせいで日常は簡単に景色を変えてしまうこともあるからな……」


オッサンの言う通り、優子ちゃんはどうやらその日からしばらく学校に行けず、未だにその道はおろか夜道を歩くのも足が竦んでしまうらしい。


「ああ、だから、コイツらのボスを探し出して欲しいんだよ」


「ハッハッハ! あいも変わらず無茶を押し付けてきやがれるじゃねえか! 化け物の仕業かも分からん奴らのことを調べろだと?」


俺の無茶振りをオッサンは笑い飛ばす。


「そうだ、無茶苦茶だっていうのは自分でも分かってるけどよ。頼む」


俺はここだけは誠心誠意頭を下げる。


俺ではボスを見つけ出すとかそういうことは苦手だ。というか、五年間も探してこの国に居る賢者にすら会えていない俺には向いていないだろう。


化け物の仕業かもしれない事で頼れる奴なんて、俺にはこのオッサンくらいしかいない。


「頭を上げろ。勘違いするな、その子の平穏な日々の為ならオレに断る道理など無いわ!」


快活そうに笑った盾石のオッサンが活き活きとした表情で最高の答えを告げてくれる。


やっぱ、アンタは最高だぜ。


「頼んどいてなんだけど、本当に大丈夫か? 現状である手掛かりはこの男だけなんだが」


「任せろ! なんてったってオレには最高の部下達がついてるんだからな」


「人任せじゃねえか!」


さっきまでの雰囲気をぶち壊した盾石のオッサンに、俺は声を張り上げずにはいられなかった。

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