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面会、からの挽回。その三

「そいえば、紗世さよには戦闘服ってないのか?」


全ての装備の着衣が終わり。体の怠さから解放され普段着に戻った俺は、ふと頭をよぎった疑問を口にしていた。

問いかけに、紗世は脱いだ黒衣一式を丁寧に折りたたみながら頷く。


「あるよ。お母さんが着てた紫色の装束と一緒の」


「そっか。やっぱりあるよな」


彼女の返答に俺は、内心でホッとする。

例え自衛の手段を魔道で得たとしても、いざという時の装備はやはり不可欠。

当然だが、紗世の体は俺とは違い。不意の弾丸に晒されて石を投げられたのかと勘違いしたりするような強度ではないだから。


お義母さんのことだからそういう用意は既に為されていると思っていたが、流石だな。


「うん。あるにはあるね、着ないけど」


「なんでっ!?」


しかし、黒衣を箱に入れ直して立ち上がった紗世が当然のことのようにおかしなことを言う。

つられて、俺はたまらず声を上げてしまった。


灯京とうきょうに来た以上、これから紗世にもどんな危険が待ち受けているのか分からない。

もちろん俺は全てから彼女を守り通す覚悟だが、それでも最悪を想定して万全を期しておくに越したことはないはずなんだが……


「あれって一人で着るのちょっと大変なんだよ? 歩きにくいし」


微妙に嫌そうな顔で紗世は俺の疑問に言葉を返す。


まあ確かに和服だし慣れていない人にはそうなのかもしないが、今はそういうことを聞きたい訳ではなかった。


「でも、危ないんだし……着ろよ」


だから、俺はそんな当たり前の言葉を口にするとこしかできない。というか、それ以外言うことがなかった。


「うぅ~ん」


紗世はずいぶんと長い返事で首を縦に揺らして、細かく頷く。

その視線は俺ではなく明後日の方を向いている。


「その返事。さては絶対着ないな?」


「……だって、あの服あんまり可愛くないだもんっ」


「???」


向けられた疑いの視線に彼女はあっさりと白状する。そして理由を聞かされた俺は余計に訳が分からなくなった。


動きやすいとか頑丈とかなら分かるが、戦いで着る服に可愛いとか綺麗とかそんなもの何の関係があるのだろうか。

いや、己の戦闘意欲モチベーションに関わることなら一概にどうでもいいとも切り捨てられないのか?


頭の中で思考を巡らせ混乱している俺に、紗世が助け舟を出そうと先ほどの発言に言葉を重ねる。


「ほら、せっかくつるぎと一緒なんだから戦ってる時だって身だしなみは大事でしょ?」


「えー」


それを聞いて理解した。

彼女の訳は、俺には理解のできる領域を超えていたのだと。


「なにその声? もうっほんとに乙女心がわかってないんだから」


「まあ分からん。それに三十手前にして、女の子とか乙女心って適用されるもんなのかというのも分からないけどな」


ついでに言えば、なぜ俺が至らぬ点を怒られているみたいになってるのかも全く分からなかった。


「剣、うるさいよ? わたし、女の子には優しくしないとだめっていつも言ってるよね?」


「いや、だから――」


「また、朝ごはん無しがいいかな?」


俺の言葉を遮り、割り込んだ紗世に穏やかな微笑みで強制的に答えを聞かれた。


「……はい、黙ります」


その笑顔に俺は白旗を掲げるしかない。これ以上は俺の主義にも反する。

にしても、紗世はあのよるのこと未だに根に持ってるみたいだなぁ。……やれやれ。

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