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帰還する管理者、その二

「では、本題だ」


先ほどまで笑っていた顔を正した盾石のオッサンは俺を呼び出した訳を話を始める。


「剣、今朝のニュースを見たか?」


「俺がそんなもん見てるわけ……」


一瞬、世間話でも期待されているのかと思い、俺はくだらないと吐き捨てようとして。


次の言葉が喉を出る寸前。

今朝のアシュリーとの会話と、目撃した光景をまだ新しい記憶の中から掘り起こす。


「――ああ。ニュースは見てねぇが、ハロウィンには気が早い仰々しい鎧姿の奴らが行進してるのなら見たぜ」


「国直属の化け物対策部隊の癖に、化け物を確実に殺すことばかりで民間人の避難や安全は二の次ときているからな。あのクソ共は」


そもそも、盾石のオッサンがこの民間の化け物退治の会社を秘書の子と二人で立ち上げたきっかけは。

化け物からの被害に目を背け続ける国にキレたのが始まりらしい。


「盾石のオッサン、あいつら嫌いだよな。まあ、気持ちは分かるけど」


俺も過去の任務中、何度か顔を合わしているが基本的に傲慢で協調性皆無な奴にしか会ったことがない。


「あんな鎧や魔導武器の力に依存してるから、アイツらは駄目なんだ! だから、自惚れちまってガキ相手に取り返しのつかないミスを犯すような愚か者が生まれたりすんだッ!」


沸点の限界を迎えた憤りの矛先は、机の上の高さ約十五センチ程はあろうかという特大のハンバーガーに向かう。

振り降ろされたオッサンの拳槌がハンバーガーを叩き潰し、ちょうど食べやすそうな厚さにギュッと縮まっていた。

そして、オッサンはそれを乱暴に口に放り込む。


え、もしかして怒りじゃなくて食うために潰したのか?

いや、違う違う。そんなことは今どうでもいい問題だ。


「お、おう」


俺はくだらない疑問を自己完結し、興奮気味に鼻息を噴き出す目の前の筋肉ゴリラに申し訳程度の言葉を返す。


この様子、盾石のオッサンは過去に火護りの騎士団との間に何かあったのだろうか?


少し興味はあったが、苛立ちを周囲に振りまく今のオッサンを前に図々しく聞き出そうなんて野暮なことはやめておいた。

人には聞かれたくない過去の、一つや二つくらいあって当然。俺だって聞かれても答える気の無い過去と目的があるのだから。


まあ、その辺はお互い様ってヤツだろう。


「……話が逸れたな。その火護りの騎士団が向かった先はヴィント、スヴェートの二都市だ」


告げられた目的地は、二人の賢者がそれぞれ拠点を置いていた二ヵ国の都市だ。

しかし、そうなると余計に何故そんな場所に戦力を送るのか謎は深まる。


「今更そんなとこ向かって、どうすんだよ? 三条の目的の賢者ならもうとっくに倒してんだぞ」


そう、そこは既にもぬけの殻。

それとも、まだ俺達の知らない目的が隠されているのか?


俺の疑問に、盾石のオッサンは机の上にあった煙草を咥え、火をつけてから、


「……ああ、そうだ。だからこそ、このタイミングで送ったんだろうさ」


たっぷり数秒かけて、思わせぶりな言葉と白い煙を吐く。


「?」


「三条氏が、火護りの騎士団を派遣した名目上の目的は、賢者を失った町及び周辺都市の住民を化け物から守るための守護と賢者を既に失っているという真実を"来たる時まで"隠蔽し混乱を抑制することだそうだ」


「名目上って事は、別の目的でもあんのか?」


「……あくまでオレの憶測だがな」


前置きをすると、盾石のオッサンは三条の裏の目的をわずかに声をひそめて語り出す。


「彼の真の目的は、賢者を失った国の確保。つまりは他の賢者国を出し抜く最速の支配化の準備といったところだろう」


「支配って、穏やかじゃないな」


「賢者が、殺し合いを始めた時点で穏やかなんざ微塵もありゃしねえだろ……だが、もちろん。支配つっても到着してすぐの話じゃねえ」


まぁ、それは道理だな。

他の賢者が健在の内にそんなことを始めれば、敵に回すのは賢者達だけじゃなく、全人類だ。


だから、実行するなら……


「恐らく、星権戦の勝利と後の話だろうな」


「だから、今の内に媚び売っておこうって感じか」


「それもゼロではないだろうな」


「でも、そんなこと他の賢者が黙ってさせてくれないんじゃないのか?」


よく分からないが、他の国に戦力を置かせることは戦略の幅を広げさせ、さらに戦いが不利になりかねない。

そんなことを許すほど、賢者達は馬鹿でも甘くもないだろう。


「三条氏曰く、彼らは黙っていなくても黙っているしかないそうだ」


「どうしてだよ?」


「この国には賢者と賢者級の戦力、お前らモンスターバスター遊撃隊がいる。それに比べ、残り二方の賢者には外に戦力を出す余裕がない」


なんか今さらっと俺とアシュリーとウォロフの事をとんでもなくダサい部隊名で呼んでいた気がしたのは、俺の聞き間違いだろうか。


聞き間違いでないのなら後で、切実にやめさせよう。それで今後も呼ばれるとか嫌すぎる。


「つまり俺達が居る限り、他は自国を守る事で精一杯ってことか?」


「そうだ。だからこそ三条氏は堂々と魔導列車なんかで火護りの騎士団を送り込んだんだろうさ」


「は? 魔導列車って一応武器の持ち込み禁止だろ!? 化け物退治のライセンス一つであんな武装集団での乗車も許されんのか」


俺だって、この前提示した駅員には渋々許可されて乗車するまでの間、むちゃくちゃ睨まれてたんだぞ!?


「バカか、お前は。この世界に賢者が"よし"と言って許されない事なんてあるわけが無いだろうが。それに魔導列車だって、賢者の魔力からその月の燃料を頂戴してんだぞ? 今さらノーなど言えんさ」


「やれやれ。いよいよ戦争でも始まりそうな騒ぎになって来たなぁ」


「元々、星権戦なんてのは賢者が国を使った戦争だ。だから、そんなふざけたモンが始まる前に、この国が勝たなくてはならないんだ」


吐き捨てた盾石のオッサンの瞳には、人々を巻き込む災厄を必ず食い止めるという決意の火が燃えていた。


「この国、いや、この世界が戦火に呑まれる前に他の賢者を全て打倒し、戦う力なき人々が怯えずに済む国を作るんだ。あの人もそれほどの勝利を手に入れれば、闘争本能も鎮火するだろうよ……」


「ああ、そうだな」


オッサンの熱い言葉に相槌を打ちながら、俺は別のことに意識を飛ばしていた。


前から疑っていたが、この会話で確信した。


以前の俺とアシュリー達と三条による取引の時、そして今。

三条と奴の言葉を伝える連絡役を任されている盾石のオッサンには、賢者と民間の化け物退治業者以上の何らかの関係性がある。


それにあの時、三条はオッサンことを"盾石"ではなく下の名前で"徹"と呼んでいた。

賢者がそこまで馴れ馴れしく接する人間を、俺は他に見たことがない。


盾石のオッサンは良い奴だと思うし、それなりに気が合うつもりだ。

だから、今すぐどうこうしようなんて考えちゃいない。

俺と紗世の障害にならない限りは。


ただ、オッサンが言うあの人ってのが三条の事なら、申し訳ないがこの戦いが終わる頃。

賢者は一人残らずこの世という舞台からは降りてもらう。


俺と紗世の平和の為に。

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