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相対す、光の賢者。その六

「……って感じなんだが、イケるか?」


作戦を手短に説明した剣は、各々に最終確認を行う。


「うんうん、早くやろう!」


聞かされた合体技に興奮し、元気よく応答するウォロフ。


「……分かりました。やりますよ、やればいいんでしょう!」


そして、どこか釈然としない様子でやけくそに返事をするアシュリー。


「おう、よくわからんけど助かるぜ」


二人の返事を確認し行動に移ろうと、アシュリーに歩み寄る。


「勘違いしないでくださいね! 私はウォロフ君の為を思ってやるのであって、剣さんには微塵も気を許してはいませんからねっ!」


「分かってるから、強調するな。そっちの方が語弊を生みそうだぞ」


やっと団結した意思。

アシュリーが剣の腕とウォロフの上半身を血の極太ロープで繋ぎ止め、準備は完了。


「ア! キタよ!」


そして、最高のタイミングで敵のお出ましした。


「よっしゃ! 頼むぜ、ウォロフ!」


「オウ! オイラに気にせず思い切りやってくれ!」


左腕に膝を曲げて乗ったウォロフを前方に出現した光粒の群れに向かって放り出す。

振り出した腕、それを蹴って加速するウォロフが発射され、完全に肉体を現したクラウンに迫る。


「分からないボーイズだなぁ」


高速で放たれた狼少年を見て、クラウンは溜息を吐く。


「お前じゃ俺様に傷一つ付けられないんだよ、バァーカ!」


掴みかかったウォロフに突き刺す膝蹴り。膝頭が腹を貫通し腹筋から嫌な音が鳴る。


「イイんだよ! もうコウゲキが当たらなくたって!」


それでも尚、放さなかったウォロフが歯を食いしばりながら獰猛に口端を上げた。


瞬間。


伸びきった血のロープが限界を迎え、反対に縮む力がクラウンを道連れにウォロフを剣の手中に引き戻す。


「なっ!? 放せクソガキがッ!」


「言われなくてもっ」


飛び込んでいく途中で離れた白狼と金狼。

そこへウォロフと剣から離れたクラウンの体に血のロープが絡みつく。


「〈ブラッド・拘束リストレイント〉!!」


「な、なんだこれは!? 放せぇ!」


身動きを封じらたクラウンが待ち構えた剣の元に一直線で飛び込む。


「待っていたぜ。てめえのアホ面にこいつを叩き込む時をよぉ!」


「ゴバァっ!!」


──激突。

これまでの鬱憤や怒りを晴らすような会心の一撃が敵の頬に炸裂する。


倒れ込むように体重を乗せた拳がクラウンの頬に沈み、端正な顔を醜く歪め、頬骨が軋んだ悲鳴を上げた。


渾身を喰らった光の賢者は、金色の軌道を描いて超速で背後にブッ飛び、浮いた身を二、三度床の上を弾みながら転がる。その後、静かにうずくまって沈黙。


血のロープは役割を終え、保っていた形が崩れて床に大きな血だまりを作り上げた。


肩で息をする剣は、とどめを刺そうと一歩踏み出す。


「うぅ……」


決着に抗うようにクラウンが、呻きながら緩慢な動きで全身に鞭打ち辛うじて立つ。


「まだ生きてると思ってたぜ」


当たる瞬間、踏み込んだ膝の痛みの報せで、いつもの威力が出ていないことは分かっていた剣は背の大刀に伸ばす。


「俺様のグレイトなフェイスが台無しだな」


だらっと腕を下ろしたの前傾姿勢。

そんな気だるげな恰好から放たれる脅威は過去最大。


終焉の気配を纏う気迫に剣は目を見張った。


この戦いは、ここからが本番で本気の最終戦ラストバトルだ……!


武者震いでふるえる腕が、柄を強く握り締め。


地を蹴った。


「――――ブラッド・呪文スペルブラッド・の鏡の監獄ミラージュプリズン>」


「「なっ!?」」


最強達が不意を突かれ、目を見開く最中。

アシュリーが詠唱が完了し、クラウンの体を液体に変化を遂げていた足元に広がる血だまりが全身を綺麗に全身包囲。身動きの取れない硬度に凝固する。


「それはさっき無駄だと言っただろ?」


何をされるかと驚いていたクラウンの落胆の声が、血結晶の内部から届く。


当然のように光の転移を開始。数秒でその準備は整ってしまう。


しかし、意図を探るように振り返った剣にアシュリーは首を振る。


(まだです。あと少しだけ)


「ワッツ!? 外が見えないだと?」


鏡の破片を集めて作られた牢獄は外界の光を遮断し、光の道を閉ざした。

よって、今のクラウンはガラス玉に囚われた灯り同然で無容易に転移を使い、数秒間の間隔の真っ只中。


「今です!」


「でかしたぞ、アシュリー。やっぱお前は良い女だッ!」


「ファッキン、シットッ! もう女諸共皆殺しだぁガイズ!!!!」


人狼の持てる筋力と魔力による肉体活性化によって強引に脱獄を遂げたクラウンへ、袈裟の斬撃。


しかし、振るった大刀は急発進で飛び退いた身体に躱される。


(これを避けれるのかッ!?)


剣は追撃のため、悲鳴を上げる足で踏み込んだ。


「アタれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


響くウォロフのやけっぱちの本能を解放した咆哮。

耳にした剣もアシュリーも賢者のしぶとさに苦い顔で奥歯を噛む。


そんな三人の絶望を他所にクラウンだけが混乱に陥った。

すでに回避行動に入り、飛び退こうとした足が脳の命令信号も無視して不自然に停止したのだ。


それは彼の血に刻まれた古の記憶、群れの主に従う忠誠心という呪縛。


主の血を受け継いだ者からの絶対命令。


「ホーリーシットッ!?」


「思ったより、さっきの拳が効いてたようだな!」


完全に間に合う事前行動からのしくじりを見て、勘違いの声と共に剣は刃を上に向けた大刀を振り上げた。


咄嗟に腕を出し庇ったクラウンの手首から上を飛ばし、上半身を走る脇腹から肩にかけての浅く食い込んだ刃が走り裂く。


体に受けた致命な大傷。

しかし、クラウンの関心はそんなことには向かず、


「お、俺様の腕がァァ! オーマイガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」


女を抱擁するための我が腕を失った金狼の乱心の咆哮。


「うぉっ!?」


膨大な魔力をのせた怒声は、目の前の剣を吹き飛ばすほどの勢力で広大な室内に響き渡った。


「ガイズは、身のカスも残らぬほどすり潰して殺すッ!!!!」


激昂し吐き捨てたクラウンが、残された腕を天井へ向けて伸ばし、人差し指で大照明を差す。


「堕ちる終焉の殻、全てを消し飛ばし吹き飛ばし薙ぎ倒せ、産声を上げろ終わりの始まり」


一筋の細い光が指先から打ち上がり、大照明を囲む硝子に三重円の魔法陣が展開し砕き割った。


キラキラと輝きながら降る硝子片が、手負いの賢者の周囲に落下していく。


「〈ライトマジック・サンシャイン"メタモルフォーゼ"〉」


「……は?」


そして次に落下してきたのは、視界を覆い尽くす程の凶悪な眩い光。


思考が絶望に塗りつぶされた。

真っ先に踵を返した剣は、出口に向かい走りながら途中のウォロフを拾う。


「え、ツルギ?」


「説明してる暇はねえ……とりあえず受け取れぇぇ!」


同じく軌道線上に立つアシュリーに投げ飛ばし、巻き込まれて二人ともが出入り口の先に飛び込んでいく。


「直撃は……死んじまうだろうな」


出入り口の前。

振り返った眼前では距離を置いた室内中央に光の大玉が地に落ちるまで数秒のところ。


剣は両手で逆さに構えた大刀を盛大に振り上げた。


……三、二、一。


「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


大玉の爆発と同時に突き刺した大刀。

衝撃の波がぶつかり室内の壁や床を剥がれ落ち、亀裂が走り、その姿を加速的に伸ばして破壊の傷痕を広げる。

悲鳴を上げるように瓦解の音が空間を揺らし続け、爆発ともに広がる大規模の発光が視界を埋め尽くした。




朦朧になる意識の中。

壮絶な威力の魔法を耐え抜いた身体は限界寸前で、突き刺した大刀を支えにしなければ立っているのも辛いほど。


そんな立ち尽くした剣の最初の行動は背にした二人の安否確認だった。


首だけで向いた背後では、暗がりで重なり合って倒れている影が今にも立ち上がろうと、もぞもぞと動き出している。


あいつらまで衝撃は届いてなかったみてえだな。

これで一安心だ。


安堵で胸を撫で下ろした剣が少しずつ冷静さを取り戻していく。


すると、あることに気づいた。

大光玉が落ち、目の前で弾けたのにもかかわらず室内はさっきまでと変わらぬ明度を保っている。


「ッ!?」


――感づき、振り向く直前。

剣は左方向から急接近する眩い巨大な何かに薙ぎ飛ばされ、壁面に体を叩きつけられ破壊して埋まることでその動きを止めた。

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