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いざ、人狼達の巣窟へ

翌日の天気は生憎の雨。

運がいいのか悪いのか出発の朝は梅雨入りから始まった。


俺達は揃いのローブを身を纏い。雨を遮って魔導列車の止まる駅へ向かう。

そこで乗車券を購入し持ち物確認と身体検査を無事終えて北国行きの車両に乗り込んだ。


「相変わらず、車内は賢者達の信者が多いな」


「この列車が賢者の街を巡るために創られた物ですからね。むしろ彼らの方が正しく使っていますよ」


座席に付き。赤を基調とした装飾を施された車内を見渡す俺に、四人席の向かいに座ったアシュリーが答える。


「それもそうか」


間違っても全ての賢者を打倒する為の便利な足として使用している奴など、俺達以外にいないだろう。


俺はアシュリーの隣、深刻そうな面持ちで俯くウォロフに視線を流す。

その顔には今から因縁の相手との決戦備えて、英気を養っている様子が窺えた。


「ウォロフ、ビビってるならまだ帰っていいんだぜ?」


「ううん。コワイのは、なにもせずに失うことだから」


「そうか……」


俺はウォロフ想いを尊重して、それ以上の会話終了。

そしてこれ以上、少年の精神統一を邪魔せぬよう様。数時間後に迎える到着の時まで、二度寝に専念することにして瞼を下ろした。




「寒いな」


「でしょうね」


「ツルギもオイラみたいに毛が生えたら、よかったね」


数時間後。

すっかり日も沈み夕焼けに染まる、とある都市。

俺は肌寒い気温に少し後悔しながら駅出入り口から続く階段を下りていく。


隣を歩く半吸血鬼(ヴァンパイア・ハーフ)はローブの下の着たニットセーターのお陰なのか、気にした風もない。

ウォロフに至っては人狼化で毛むくじゃらになるので、むしろこのくらいの方がちょうど良いと吹き抜ける冷たい風に目を細めていた。


そんな階段の下、広場のような開けた場所で一人の男が、俺達を見つけると胡散臭い笑顔を張り付けて歩いてくる。


何だこいつ? もしかして賢者の送り込んできた刺客か。


警戒する俺に男は申し訳そうな顔で口を開く。


「君たち、おそらくこの国の人間じゃないだろう?」


一目瞭然の問い。

俺達が頷くと、男は声の調子を抑えて話し出した。


「悪いことは言わない。宿を探すならこの街はやめておけ」


「あんた、この街が嫌いなのか?」


「いや、そうじゃない。この国の賢者は男が嫌いでね。あまりいい扱い受けれないと思う。しかも、連れの彼女……綺麗だろ」


振り返るとアシュリーは、涼しい顔でウォロフの肩に手を回す。

どうやら言われ慣れ手いるのか全く気にしていないらしい。


俺は急にナンパを始めた男に半眼を向ける。すると、男は手を大袈裟に振って否定する。


「違う違う! この街では女性が消える事件がよくあるんだ。だから彼女も狙われかねないとぼくは言いたかったんだ」


「それは物騒だな。でもよ、さっきからあんたの後ろを歩いてる嬢さん達は大丈夫なのか?」


見ると、この街の通行人の三分の二が女性だ。しかし、彼女達に特段怯えた素振りはない。

普通、そんな事件が起こっていたら少しくらい警戒心を強めそうだが……


「ああ、彼女たちはこの街の景観を保つため、これ以上狙られる事はないよ」


これ以上?


「まるで、犯人の事を知ってそうな台詞だな」


「街中の人間が知っているよ……だけど、この世界の誰にも抗うすべはないんだ」


諦めた男の瞳は言外に、犯人が賢者だと言っているようなものだった。


そういえば、言ってたな。


『この世の女は俺様の所有物』

俺はそんな身の毛もよだつ金髪老人の言葉を思い出す。


賢者は皆クソ野郎だが、基本的には魔法によって国の人間に得を与え、反逆の気持ちを損得の天秤にかけ薄れさせている奴らだと思っていた。


しかし、ここまであからさまに権力でやり合い放題の賢者がいることを、俺は初めて知った。


「まあ、じゃあ居なくなるといいな」


男の肩に手を置き。俺は極刑級の言葉を軽い冗談のように言う。


「ああ、それが叶うならどんなにいいだろうね」


男は力なく笑う。

そしてこの世界で許されていない願いを吐き出した。


その後。俺達は忠告に従って街を離れようと歩き出す。


ふと気になったことを誰にともなく呟く。


「そういえばあいつ。なんだ日本語をあんな流暢に話せたんだ?」


ここはこの国でも西の外れの方に位置する街。

とてもじゃないが日本の文化が盛んなようには見えない。

なのに、先ほどの男は当然のように日本人の俺に日本語で喋りかけて来た。さも当然のように。


「そんなの当たり前じゃないですか」


すると、俺の唐突な疑問にアシュリーが背後の駅に掲げられた看板を示しながら溜息を吐く。


「賢者が世界を救って四十年。魔導列車で繋がる五つの賢者国家の言語は今や世界的にも一般的です。観光客を相手にするような職種の人間なら喋れても何も不思議はありません」


見上げた看板には俺には読むことのできない大きな文字。

そして、その下には三つの外国後の他に日本語で『スヴェート』と書かれている。


恐らく賢者の居るこの街の名だろう。


「ああ、そういうことか」


魔導列車は他国の人間が賢者の街を訪問する使用目的で造られた物。この階段を降りてくるのは高確率で他国人。


そんな場所で待ち構えているのだ。言語に精通している者が多いのも当然の結果。

かくいうアシュリーも以前、モンスターバスター社の受付嬢を任されていた女だ。五ヶ国語を当然の如く習得しているのだろう。


「じゃあ、この国でも会話はアシュリーに任せればいいな」


「いえ、私は母国語と日本語以外話せませんから」


「なっ!?」


「だいじょぶ!? ツルギ?」


いきなり何もないところでずっこけそうになった俺に、ウォロフが驚いて声をかける。


しかし、こけそうにもなるというもの。

さっきまで偉そうに言っていた彼女の言葉は、自分に優しく人に厳しかった。


駄目じゃん。


「まあいいわ。そんで、その山ってどこに行けばいいんだ?」


当たり前のように聞かれたアシュリーが俺を睨む。

まるで、自分で調べて来いとでも言いたげだ。


待つこと数秒。

視線を前に戻し、溜息を吐いてここからの道のりを説明し始めた。


「ここからの約六十キロほど、南下したところに目的地のエルブルズ山があります」


「うわ、そんなに歩くのか。少しばかり時間食いそうだなぁ」


思っていたより、長い距離に文句を言う俺。

そんな俺の事を同じ生物か疑うような瞳で、二人がこっちを向いて固まる。


え、俺なんか変なこと言ったか?


「歩くわけないでしょう……そんな距離」


「いくらオイラでも、そんなに歩いたあとじゃ戦えないよ」


そして頼りないことを言う。化け物くせに。


「じゃあ他に手段あんのかよ」


まさか異国の地で乗り物を調達するなど、それこそ骨が折れるし時間の無駄になりかねない。


などと思う俺の真横。アシュリーがいきなり挙手をした。


意見があるなら、そんなことをしなくても勝手に喋りだしてくれていいのだが……


次の瞬間。アシュリー眼前に、一台の黄色い自動車が見計らったように停車した。


「普通にタクシーで行きますが?」


「これが……あの!?」


「え、これってそんなスゴイものなの!?」


徒歩移動が基本の俺が、料金を払えばどこでも連れていくという車に驚く横で、ウォロフはそんな驚愕している俺に驚いていた。


「私まで恥ずかしくなるので、二人とも早く乗ってください」


運転手の怪訝な表情を見たアシュリーがウォロフの腕を引いて後部座席に乗り込み。続いて俺も助手席に乗る。


先ほどと同様に言葉の通じた年配の運転手に行き先を伝え、黄色い自動車はあっさりと排気音を噴き上げて賢者の根城へと発車した。

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