おっさんと賑やかなお茶会。その二
喫茶店の店内は落ち着いた雰囲気でカウンター席が五席と、四人掛けのテーブル席が四席設置されていた。
席と席の距離も少し間隔が空いていて、客同士の距離が近すぎないのも個人的には落ち着くところの一つだな。
壁際の席に座った俺の向かいの席に優子ちゃんも座り、メニューを見ながら「うーん、何にしよう……」と呟いている。
「今日は俺がご馳走するから好きな物頼んじゃっていいよ」
「あ、ごめんなさい。えっと、それであたしはどんな話をしたらいいんでしょうか?」
「いやいや、そんなかしこまらなくて大丈夫だよ。それに、お話はとりあえず何か頼んでからにしようか」
カウンターで食器を拭いているマスターに見えるように大きく手を挙げた俺の真後から、それに気づいたウェイトレスが声をかけてきた。
「ご注文お決まりでしたらお伺いさせていただきます」
「えっと、アイスコーヒーを一つと……」
俺は優子ちゃんに、視線で自分の注文の終了を知らせる。
「あたしはアイスココア一つで、大丈夫です」
「え、それだけでいいのか? デザートとか頼まなくて大丈夫なの」
「あ、大丈夫ですよ。あたし今ダイエット中なので」
「そっか、じゃあ店員さんチョコレートケーキとチーズケーキも一つずつ追加でお願いします」
俺は、目の前の女の子の言葉に気分が変わったので追加で注文をする。
「かしこまりました」
ウエイトレスが注文を繰り返して去っていくと、優子ちゃんが怪訝な表情を俺に向けてくる。
「あれ、斉藤さん。お一人でそんなに食べるんですか?」
こちらの意図に感づいている優子ちゃんに、俺はにっこりと笑顔を返す。
「いや、ケーキのページを見てたから優子ちゃん好きなのかと思ってね」
「うぅ、好きですけど……また体重が増えちゃいますよぉ」
「大丈夫大丈夫! 若いんだから食べないと身体も頭も動かないぞ」
「太ったら責任取ってくださいよ?」
「うん。ダイエットでもなんでも、応援するよ」
「協力はしてくれないんですね……」
「はっはっは! まあね」
「なんで笑顔なんですか、あたしの話ちゃんと聞いてます?」
「聞いてる聞いてる。でも、優子ちゃんは可愛いから大丈夫だって」
「うぅぅ、もういいです! こうなったら斉藤さんの分も食べちゃいますからね!」
「いいぞーいいぞー」
斉藤さんの分というか、最初からどれが食べたいのか分からないから二つ頼んだだけだ。
よって、二つ食べても俺に対してはなんの復讐にもならないんだけど。
これは言わぬが花、というやつだろう。
その時、カランコロンカランという音が、喫茶店にお客の入店を告げる。
「え……」
入ってきた人物に視線を向けて……俺は思わず固まってしまう。
「どうしたんですか斉藤さん? もしかして、斉藤さんのケーキを食べると言った気にしてますか!?」
その声で我に帰った俺は、焦る優子ちゃんの言葉を否定する。
「いやいや、違うよ。ケーキは食べていいから、ただ、今入って来た人が知り合いに似てたから驚いちゃってさ」
いやぁ、こんな事ってあるんだなぁ。
「え、あの金色の髪のおっぱいの大きな女性ですか? それはすごいお知り合いですね。今初めて斉藤さんにさすが大人だなって思いました!」
凄くキラキラした目で、酷いこと言われてるな俺。
静かな店内で周囲に比べて少しだけ高い声で喋っている優子ちゃんを、金髪の女性が背後からチラリと見る。
それによって、素晴らしい双丘をお持ちの膝丈ほどのスカートの下に、無意識に視線が吸い寄せられる光沢のある黒いタイツを履いている金髪碧眼の女性。
アシュリー・ガトレットさんと、俺の目がしっかりと合う。
「おじさん、何してるんですか?」
石の裏にへばりついた虫を見るような目で俺を見ながら、アシュリーちゃんが元々クールで落ち着いた声音をさらに下げて問う。
てゆうか、しれっとおじさんと呼ばれている。
「えーっと、お茶かな?」
「おじさん、女子高生と何してるんですか?」
「二回言ったうえに、余計な一言を付け足すんじゃねえ!」
「あなた、最低ですね。こんな女の子も誘うなんて死んだ方いいのでは?」
「誤解だから! 彼女は俺がこの前助けた子で、お礼がしたいという事だったから、こういう場を設けただけだから!」
「そんなの嘘を、私が信じると思ってるんですか?」
その見るに耐えない俺達二人の会話を、優子ちゃんは俺とアシュリーちゃんを交互に見ながら、しばらくあたふたとしていた。