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地獄を共にする相棒。

「それで、灯京とうきょうに行く前に話っていうのはなんですか?」


お義父さんに呼ばれ、訳も聞かずについてきた家から少し離れた作業場。


この作業場の主人は、着くなり俺を入り口に放置。

その後は、机のモニターにかじりつきキーボードを叩き続けている。


返答は……なしか。


置き去りにされ、手持ち無沙汰になり周囲を見渡す。


結社の白い施設に居た経験から、魔導技師というのは最先端の機械で魔道具を作っているのかと思っていた。


しかし、ここに広がっているのは申し訳程度に置かれたパソコンと製図台。それに取っ手付きの鉄仮面とコードで繋がれた鉄の棒。


そして、黒い布を被った”何か”が鎮座した作業台。


室内は油と焼けた鉄の臭いで満たされており、そこは研究室というより工房だった。


「その話をする前に先ずは、以前頼まれてた解析の結果が出たよ」


視線に気づいたのか。

お義父さんはモニターから顔を上げ、やっとこちらを向く。

その手持つのは以前、人狼が放ってきた黒い球体だ。


「それで、どうでした?」


「うん。率直に述べて、これは正真正銘、賢者の魔力から成る魔法が起動した痕跡が見られた」


お義父さんは、ガラクタに成り果てた球体を掌で転がすと、


「間違いない。これは賢者が作り出した魔導具だよ」


俺の待望の言葉を口にした。


「っし! これで、あとはこいつの出どころが正確に分かれば!」


疑念の確定。

俺は我慢できずに、思わず拳を突き上げてしまう。


これは千切られた奴らの痕跡だ。

一つひとつ辿れって行けば、必ず賢者に到達する。


これでまた一つ、近づけた!


「けれど、やはり驚愕してしまうよ。魔法使いというものには」


お義父さんは球体に目を落とし、そんなことを言う。


「え?」


分かりやすく浮かれていた俺は、間抜けな声しか出ない。


「木の枝のさらにその切れ端だけで、この規模の魔導兵器を完成させてしまうのだから」


「魔導具だったら、お義父さんだって作れるじゃないですか」


役に立つという意味では、望位磁石ぼういじしゃくも立派な発明と言えるだろう。


「僕が作れるのは魔導兵器なんて大それた物じゃない。使用者の手助けをする杖を作ってあげられるだけだよ」


そんなどこまでも自虐的な態度に、俺は周囲を見渡して否定の言葉を探す。


「この設備で一から作れるなら、それで十分じゃないですか」


「そうかもね……でも、僕はそのせいで剣君に謝らなければならない事があるんだよ」


「謝る?」


線の細いお義父さんの温和な笑顔に陰が差す。


「……君が賢者と戦うため、この家を出たあの日のことは覚えているかい?」


もちろん覚えている。あれは忘れる訳もない記憶の一つだ。


「ええ。でも、記憶が正しければお義父さんに謝られる事なんて無かったと思うんですが……」


あの時、お義母さんの説得を助けてもらい。そのお礼もまだ出来ていない。


謝るなら、むしろ俺の方だ。


「あの日、僕が言った言葉は偽りの無い本心で、それと同時に僕の願いでもあったんだよ」


それも聞いた気がする。

確か、娘の幸せを願っているから俺の旅立ちを許可してくれたのだった。


「娘の平和を願うのは親として当然じゃないですか」


「そうだね。でも、その願いには大きなツケがあったんだ」


「ツケ?」


思わず聞き返していた。

斉藤家に拾われて十五年、そんな話を聞いた覚えはない。


「僕は君に出会う前、大きな仕事で家を空けていただろう」


「紗世に聞いてましたよ。たまに大きな仕事が入るとしばらく帰って来ないって」


「そうだ。絶対に断ることも失敗することも許されない大きな仕事だった」


ん? なんかおかしくないか。


この世界で、魔道具なんて必要とするのは極めて魔力の扱いに長けている者だけのはず。


しかも、その上で途轍もなく大きな仕事だと……


「……まさか」


嫌な予感。真実でないことを願いながらも、最悪の答えに身構えた。


「気がついた様だね。すでに賢者と戦った君なら知っているだろう? あの魔法の杖は僕が作ったものだ」


驚愕し思わず、詰め寄る。


「なっ!? なんで奴らにあんな物──!」


「家族を守る為だ。僕にとってこの腕よりも大切なもの為だ……!」


お義父さんは、見たこともない剣幕で悔しそうに煤汚れた手を睨む。


「賢者は僕に言ったよ。魔法の運用コストを軽くする為の魔道具を用意しろ、さもなくば妻と娘の命はないと」


まさか、賢者達がお義父さんにも根回しをしていたなんて初耳。

しかし、俺はそんな理屈とは関係ないところで感情に火がついてしまう。


「だからって、なぜ賢者を助けるようなことをしたんですか!? 奴らに紗世の能力が知られたらどんな目に遭わされるか、あんた達が一番分かってるだろっ!」


俺は叫んだ。飛ばした怒号が空気を揺らす。


正しさなんて、考えていなかった。


ただ賢者に紗世の能力が知られれば、紗世は一生。

魔力を満たし続ける道具として生きていくことになる未来を否定する感情が爆発してしまっていた。


「結界で守られていると言っても、この場所は魔力を感じれないだけで見えない訳じゃない。断っていたらその結果は明日訪れてもおかしくなかった」


言葉は、正しい。

その危険性を恐れたからこそ、俺も自分から賢者を探し始めたんだ。


「でも、だからって……」


「そうだ、君の言う通り僕は許されない判断をした。その結果、こともあろうに娘の愛する人の茨の道を針地獄に変えたのだから」


立ち上がったお義父さんが、膝をつく。


「だから、まず謝らせてくれ……」


「やめてください」


頭を下げようとする肩を抑え、見てられない動作を力づくで止めた。


謝るなんて、あんまりだ。

俺達にとって、悪も倒すべき敵も賢者なのに。


「いや、でも……」


「そんで、歯を食いしばってください!!」


「え──?」


警告の後。

見上げるお義父さんの顔に、無慈悲な鉄拳を振り下ろす。


「がっ!?」


鈍い音が鳴る。

衝撃で、体勢を崩したお義父さんは下を見つめ、痛みか驚きのせいか、はたまた両方なのか、自分の顔を抑えて動かない。


「すいません。これは怒りとか恨みで殴ったわけじゃありません。ただ、これでお互いチャラにしてください」


手の甲の感覚が嫌に鮮明で、こびりつく様な不快感が残留する。


「流石に、驚いたな。けれどこの程度で許されるなら感謝しなくてはいけないね……首があることにも」


衝撃を受けた首を回し。お義父さんは頭部と上半身の繋がりを確認を行った。


「いやいや!? そこまで本気では殴ってませんので安心してください」


話し合いで解決できれば良かった。

だけど、俺には幸作さんを納得させる言葉も否定する言葉も見つからなかった。


ただ感情だけが、それを肯定しきれなかった。


だからと言って、殴るのが正解だったのかと聞かれたら、それもたぶん違う、とは思う。


だから、これは勢いと思いつき。

これから共に生きていくため、お互いのケジメだ。


「それじゃあ、話が終わったなら俺はそろそろ行きますね?」


正直、ここに長居するのは気まずい。

それにそろそろ行かなければ、向こうに着いた時に深夜を過ぎてしまう。


今は全速力で移動して、人々に注目される訳には行かない。

そんなことで、明日の朝の速報を飾るのは御免だ。


「あ、いや。違うんだ剣君」


気まずさと時間に追われる様して、背を向けた俺を、お義父さんは再び呼び止める。


「?」


「本題は、ここからなんだ」

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