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おっさんと賑やかなお茶会。

翌日、昨日珍しく呑まずに寝たおかげか吐き気も頭痛もしない晴れやかな気分で目覚めた。


時刻は、午後五時。


寝る前に脱ぎ捨てていた吸血鬼の服をゴミ袋に入れる。俺はジーパンを履きベランダに出て、下の道路を眺める。


そこには夜中に直しておいた甲斐もあって渋滞の気配すらなく、いつも通りのときどき抜け道に使う車が通るくらいの地味な交通量に戻っている。


「ふぁぁ」


俺は一つ大きなあくびをしてベランダから部屋に戻って、浴室に向かう。


さっと頭と身体を洗って、濡れた身体をバスタオルでくまなく拭いてから素早く着替える。


しかし、今日はジーパンとTシャツだけでなく、上からジャケットを羽織り、鏡の前でいつもより少しだけ身だしなみを整えておく。


一応、お礼と言えどもデートなのでこれくらいはしなければな。


全ての支度を済ませて時間を確認すると、待ち合わせの時間まであと十分程だったので、俺はさっさと家を出る。




文字通り跳んできたので、五分前には駅前に到着することができた。


待ち合わせの相手である三間坂優子(みまさかゆうこ)ちゃんは、つい一週間ほど前。思考能力を失ってしまっているような男に襲われそうになっている所を助けた子だった。



俺は、すでに駅の入り口で待っていた優子ちゃんの姿を視界に捉えて、自分の勘違いに気づいた。


俺が助けた時の彼女は私服姿で、大人にしては幼い顔立ちの可愛らしい印象の女の子だなと思っていた。


だが、その優子ちゃんは今俺の視界の中で、制服姿で駅前に立っている。


つまり俺が助けたのは、年齢の割に大人っぽく見える女子高生だったというわけだ。


優子ちゃんはすでに駅の入り口の前でキョロキョロと辺りを見回しながら、俺の到着を待っている。


今更、約束はなしと言うのは流石に気が引けるがこれは……


そんな風に、俺が声をかけるのに躊躇していると、優子ちゃんがこちらに気付いて手を振りながら近寄ってくる。


「あ、斉藤さん! 先日は助けていただきありがとうございました」


「う、うん、大丈夫だよ」


三十歳のおっさんと女子高生の待ち合わせは、側から見たら完全に怪しい関係性を疑われてもおかしくなかった。


本当は今日は、お礼のデートはBARか居酒屋にでも行こうかと考えていた俺の計画は振り出しに戻ってしまう。


この時点で、このデート自体をお開きにしてもいいとも思ったのだが、優子ちゃんは嬉しそうにニコニコして俺の顔を見上げている。


その笑顔に「もう帰っていいよ」と言うことが俺には出来なかった。


「ごめんね優子ちゃん、待った?」


「大丈夫ですよ? 時間ぴったりですし、あたしも今来たばっかりなので」


「それはよかった。デートの相手を待たせるわけにはいかないからな」


少し前から見ていたので、それが嘘だと分かっているが、俺はあえてツッコまずに話を合わせる。


「すみません、あたしのお礼の為に時間作ってもらっちゃって」


「そんなのは気になくていいよ。俺は今日、優子ちゃんの笑顔を見に来ただけだから」


そう言って、微笑む俺の顔を優子ちゃんは苦笑いで見つめていた。


「それで、これからどうしましょうか?」


そして何もなかったかのようにスルーして、違う話題に切り替える。


「そうだね、とりあえず近くに喫茶店があるからそこでお喋りでもしようか」


「え? それでお礼になるんですか」


「そりゃあ、もちろんだよ」


「でも、命を助けてもらったのにお喋りするだけでお礼なんて……」


「いやいや、俺こう見えて友達いないから会話に飢えてるんだよね? はー楽しみだなー優子ちゃんはどんな話を聞かせてくれるかなー」


「そんな棒読みで言われても、あたしの日常にそこまでドラマチックな事なんてないですからね?」


「優子ちゃんが楽しんでたら、今日はそれだけでドラマチックになるよ」


「ああ、はい」


盛大にすべった俺と苦笑いをしていた優子ちゃんは近くの喫茶店に向かって歩き出す。

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