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怒り溢れて、修羅と化す。

黒須くろすの待つ訓練場までの道を一歩一歩進むたび、怒りと憎しみが研ぎ澄まされていくのを感じる。


まるで戦いの前、刃を手入れをするように静かに念入りに。そして、確実に。


思えば、この道を歩くときは身体や心がボロボロで、いつも投げ出したいような気分だった。


けど、今は違う。


紗世さよを救うため、さやの仇を討つため。沸き立つ感情がこの脚を突き動かす。


さあ、ここからは奇跡の時間だ……!


「その腕は大地を揺らす剛力」


握り締めた拳に明確な殺意が宿る。


「その脚は、千里を駆ける雷鳴」


踏みしめた足が俺の怒りを加速させ、走り出すのを待ち望んでいる。


「その一振りは、万を葬る剣戟」


魔法陣の中に納めた刀が、今の感情に応え血を吸えるのを今か今かと渇きに打ち震えている。


「剣帝顕現。武御雷タケミカズチ


全身を包む魔法陣から解放され身体が青白く輝き、頭髪から色が消える。


万能感に支配され、この身体に不可能など無いと思えた。


覚悟が済み、訓練場の入り口が見える。


あそこを過ぎればもう後戻りはできない。


殺し合いのダンスは断末魔の絶叫が鳴り止むまで、終わりはしないだろう。


しかし、この闘いには容赦も躊躇もない。


全力で、迅速にカタをつける……!


意気込んで走り出した俺は、分厚い鉄扉を肩で吹き飛ばし訓練場に突撃して入室する。


瞬きの間に確認した室内には、以前ここで殺り合った白い化け物がまばらに立っていた。


数は二十。あの頃の俺なら一瞬でなぶり殺しにされていた。


なるほど。これが黒須の俺を迎える為の準備というわけだ。


そして化け物たちの中心。怒りの目的地はそこに居た。


黒須は片手の袖の内が間抜けの空になった黒のローブに身を包み。


残った片手で紗世に銃を突きつけている。


つるぎ、来ちゃダメっ!」


『来たな、武御雷たけみかずち! 懐古ツアーのフィナーレはここだよ! あの日の様に再び────っ』


破壊した扉が地に倒れ込む前に、俺はいかずちを纏った脚で加速するッ!


テメェの話なんて聞き飽きた。最後くらい黙って消えろ!


引き金の指が動くよりも速く、黒須の元に辿り着き。


一迅の雷が如く。視線が合うよりも速く、通過した。


途端に黒須の声は止み。雷に打たれた様に、身体はその場に立ち尽くす。


一瞬だが黒須に触れた瞬間、耳ではなく心で声がした。


“君もやっと、こちら側だ”と。


俺は黒須の背後で、もぎ取った“ソレ”を捨てる。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


刹那の後。


横に立つ首から上の消えた人間を目の当たりにした紗世の絶叫が訓練場に響き渡った。


「安心しろ、紗世。俺が守る」


周囲に立ち並ぶ、飼い主を失い理性を奪われた化け物どもを睨みつける。


化け物たちの強制的に強化された肉体。


あれはおそらく俺が十五年かけて馴染まされた物を、数時間でぶち込まれた結果。


要するに猛毒だ。そんな身体で長生きなど出来る筈がない。


「かかって来いよ。どうせ、お前ら長くは無いんだろ」


「ウヲォォォォォォォォォォッ!」


言葉を理解できたとは思えないが、俺の挑発を聞き。


化け物たちは明確な殺意を以て、訓練場を揺らす程の高らかな雄たけびを上げる。


こちらとしても逃げられるよりも向かってくる方が掃除が楽だ。


「〈抜刀術〉一刀召喚!」


単騎突進。我慢が出来なかった一人の化け物が両手を伸ばして迫ってくる。


応戦する為、俺は魔法陣から刀を抜き。暇でも潰すように掌で一回転させた。


それだけで、伸ばされた手は鮮血を噴き出し、肉の塊となって骨ごと宙に飛んでいく。


「ウヲォォォォ───ッ!?」


そして唸り上げたやかましい声ごと、横一線の太刀筋で脳と人体を斬り離す。


「次は何奴どいつだ?」


周囲に視線を流して、次の挑戦者を待つ。


しかし、いとも容易い仲間の死を目の当たりにして化け物たちは一歩下がってしまう。


コイツらにも、恐怖の感情は残っていたのか。


いや、むしろ本能だけしか残っていないのかもしれない。


「どうした? どんどん来い。それとも無抵抗で殺されてくれんのか」


問いかけへの返答なのか、不意に背後から弾丸が飛来する。


「……」


それを刃で二つに分け、射線上に立つ者へと目を向ける。


視線の先には、魔導銃をこちらに構えた化け物の姿がある。


「オモチャの使い方も習ってたか」


その一発で、化け物たちの空気が変わった。


窮鼠猫を噛む。


追い詰められた奴らは気付いたのだろう。

目の前の敵を倒さなければ自分たちは終わりだと……


「ウアァァァァァァァァァァァァァ!」


再戦の咆哮と共に、図歌ばかりデカい奴らがまとめて三体走ってくる。


数で勝れば勝機はあるとでも?


「何体来たって、同じなんだよッ!」


俺の意志に応え、赤く染まった刀身が必殺の輝きに煌めき。


一振り目と変わらぬ切れ味が先頭の化け物の首を斬り、踊るように回転を続けて連続して三つの首を飛ばす!


そして────。


「テメェもなッ!」


勢いを止める為に踏み込んだ足で床が割れ、大地が揺れ、弾丸のお返しに逆手に持ちかえた刀を振りかぶって投げつけた!


覗いていたスコープを破壊した刀が突き刺さり、化け物を連れて後方の壁まで飛んでいく。

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