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妥当な報酬。その四

報酬を受け取り、会社を出たのは良い子は寝る時間帯。

速やかに自宅で落ち着きたい俺は、帰り道でコンビニに寄って棚の商品を色々物色した結果。煙草と缶ビール二本、それと大袋のさきいかだけ買って家に向かう。


夕飯にしては心もとないが、今は空腹よりも早く寝たい気分だ。


あと少しで家に到着する道すがら、俺は明日デートをする予定がある以前依頼の帰り道で助けた女の子からメールが来ていたことに気がつく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

件名

明日の予定


明日の待ち合わせは駅前で大丈夫でしょうか?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この町で待ち合わせの目印になる場所にそこまで詳しくない俺は、そのメールに『大丈夫だよ』と、打って即座に返信する。


「うーん」


ケータイ画面から顔を上げると、住宅街の通りに車が並んでいるのが目についた。


帰り道をしばらく歩いて思ったが、今夜はやけに車が多いな。

この辺で渋滞が起きるなんて、俺の知るかぎりは初めてじゃないか?


自宅に向かう道から車の姿は一向に消えず、自分の住むマンションが見える距離についた時には、目の前の街路に人だかりができて道を塞いでいるのが見えた。


嘘だろ……一日に二回も家の前で事件が起きるとか、俺呪われてるのか……


ガックリと肩を落としつつも、面倒事を避けるべく早歩きになって人混みへと足を進める。

人混みの目前まで近づき、聞こえてきた近隣の奥さま方の声に俺は足を止めてしまう。


「こんな事、誰がやったのかしら?」


「本当よねぇ、これじゃあ車が通れないじゃないねぇ」


「でも、道路を掘り返すなんて悪戯でできる事じゃないわよね?」


んん? なんだ? なんか俺が思ってたものとは違うみたいだな。

強盗やら怪物ならともかく、地盤整理なら俺の出番はなさそうだった。


そう思って、知らん顔で人垣を押しのけて自分の家の前に出る。

そこには、ひび割れた地面が広がり。夜の街路に砕けたアスファルトが盛大に撒き散らされていた。


「──あ」


目の飛び込んだ光景で、俺は昼間の出来事を思い出す。

ベランダで煙草を吸っていた俺のもとに聞こえた女性の、まあ、後にわかる女吸血鬼の悲鳴。

それを自分達の車に無理やり押し込む黒スーツの怪しい集団を目撃して、見捨てるのも忍びない俺は、その子を助ける為にベランダの手すりを飛び越えて、地上に降りて戦った。

けれど、あと一歩のところで車に逃げられ、追いかける為に走った。

そう走った。

距離のできてしまった車を見失わないように、クラウチングスタートまでして思い切りに。

結果、踏み出した足は地面を砕き、アスファルトを蹴って瓦礫を巻き上げていたのだった。寝起きの俺が。


あーこれはまずいぞ。


思い出すと同時。

さっきまで他人事で特に気にもしていなかった事態が、もの凄く取り返しがつかない事になってきていると自覚してしまう。


はあ、こんな時間にあと一仕事片付ける事になるとは……

だが、気が進まなくても自分でやった事の後始末はしなければならないしなぁ。


周りに集まっていた人達に、あとは自分がなんとかすると言ってこの場から去ってもらう。

言うまでもなく、説得には多大な時間がかかってしまった。というか思いきり怪訝な顔をされた。

時刻はPMからAMに変わってしまっている。

人が居なくなり、渋滞していた車がすべて消えた街路。人々が寝静まった静かな路上で俺は一人作業を開始した。


まあ誰にも見られていないし、一瞬で終わらせよう。


俺は辺りに散らばったアスファルトの破片を溝に無造作に投げて、ある程度隙間を埋め真上から掌を思いきり叩きつけて地面を平らにしていく。

掌底を、数十発打ったところで道は不格好だが、大きな溝はない平らなものとなった。


これで自動車などはなんとか通れるだろう。

自転車の場合はすっ転ぶ覚悟がある奴だけ通ってくれってとこだな。


「わりと早く終わってよかった。これで一件落着だ」


別に力のことは隠して生きてるつもりはないけど、ご近所さんにはあまり知られたくないのも事実だ。

自分の隣人がこんな危険な奴なんて出来れば知らない方がお互いのため、なんだと思う。


「はー終わった終わった。……寝よ」


汚れた手を払いながらマンションの自分の部屋の階へと上がる。

玄関を開けて部屋に入り、ベランダに干した布団を敷いて、すぐさま汚れた衣服を脱ぎ捨てて下着姿のままうつ伏せに倒れ込む。


さすがに明日のデートに寝不足で行くわけにはいくまい。今日はすぐに寝よう。

あ、そういえば所持金が一万と五千円くらいしかねえな。どうしよ……

まあ……どうにかなるかな?


些細な不安を抱えつつも、酒臭い部屋で目を閉じた瞬間。

俺は酒と煙草の誘惑など振り切って、冷蔵庫の駆動音を子守唄にそのまま夢の中へと飛び込んだ。

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