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妥当な報酬。その三

盾石のオッサンからの冷めた視線を受けてたまま、俺は気にせず立ったまま腕を組んで壁に背中を預ける。

そして、背の低い机の上にパンイチで横たわっている吸血鬼を横目に、話を切り出す。


「俺が間違って黒服達から助けた女の方の吸血鬼は、この吸血鬼を見つけた時には、恋人であるはずのコイツに血を吸い尽くされた後だった」


「ほう」


真面目な顔で話を聞きながら、盾石のオッサンは相槌をうつ。


「そんで、同じ吸血鬼から血を吸って凶暴化してるコイツを商店街の肉屋で見つけて、いつも通りぶっ飛ばしたっていう感じだな」


俺がざっくりとした説明を終える。

すると、盾石のオッサンは難しい顔をしながら一つ大きな息を吐いて、ポケットから取り出した煙草に火をつけた。


「なるほどな。まあ、今回もよくやってくれた。報酬だ、受け取れ」


机の引き出しから封筒を取り出すと、無造作に机の上に置く。


「おっ、まいどありがとうございます!」


俺は一応感謝の言葉を述べてから、薄茶色の安っぽい封筒を手に取り。

受け取った封筒をひっくり返して、中の紙幣を取り出す。


だが取り出した紙幣を見て驚愕ことになる。もちろん悪い意味で、だ。


「これは……?」


封筒の中身を隅々まで確認した俺は、側面を綺麗に破いて一枚の紙にしてみるが、出てきたのはたった一枚の紙幣だけ。

吸血鬼退治の報酬が、一般的な肉体労働一日分と同じくらいの給料とか、ヴァンパイア・ハンターも商売あがったりな金額だった。


いや待て、落ち着け俺。

まだ何かの間違いで親戚の甥っ子に渡すための落とし玉の封筒と、報酬の封筒を間違えたのかも知れないじゃないか。

……今年は四ヶ月ほど前に明けたばかりだけど。


それでも小さな望みにかけて、先ほどから机に置かれていた資料に目を通している盾石のオッサンに、俺はこめかみに血管が浮き出るギリギリの笑顔で尋ねる。


「おい、オッサン。これはチップかなんかなのか? 俺の目には一万円札が一枚しか見えないんだが?」


「うん? なんだ多かったか、それなら返してくれてもかまわんぞ」


どうやら俺が見たのは間違いではなく、目の前で偉そうに座っているオッサンの金銭感覚が間違っているらしい。


「おいクソじじい、いい加減にしろ。俺が相手してきたのは、そこら辺のチンピラじゃねえんだ人間を襲って血を吸う恐ろしい鬼。吸血鬼だ」


「そんな事は言われんでも、依頼者のオレが一番わかっている」


「だったら、どう考えても金額のゼロがあと二つは足りねえだろ!」


執務机に封筒を叩きつけ、澄ました顔でこちらを見ている強面のオッサンを睨みつける。


「そうだな。二つどころか軽く三つ以上は足りんよ。だからお前が欲しいっていうなら全部くれてやる」


盾石のオッサンはため息まじりの怒りを滲ませ、震えた声で言うと自分が目を通していた資料を俺の視界に勢いよく突き出す。


「ただし、足りんのはテメェが手当たり次第にぶっ壊した建物や物の修繕費の請求金額だがな! オラ! 欲しけりゃくれてやるまとめて持ってけ!!」


オッサンは手に持っていた十数枚の報告書をクシャクシャに丸め、怒鳴りながら俺に投げつける。


なんて大人気ないんだ……このオッサン。

俺は化け物退治のためにほんのちょっとばかり壊しただけなのに、まるでガキの八つ当たりだな。

けど思い出したぜ。人生ってのは引き際が大切なことに。


「あ、じゃお疲れっしたー」


ご機嫌斜めでこれ以上は話が通じなそうな盾石のオッサンから本気で請求される前に、別れの挨拶を告げて颯爽と社長室の出口へと向かう。


「ったく。今度の仕事で破壊すんのはバケモンの体だけにしろクソったれ!」


それからオッサンは言いたい事は言ったとばかりに、部屋を出て行く俺の姿を見もせずに自分で投げたクシャクシャになった紙を広い、広げながら書類作業に戻っていた。



エレベーターに乗って一階に戻ると、さっきの拍手喝采の出来事が嘘のように静まり返り。受付のアシュリーちゃん以外の人間はロビーから姿を消していた。


確かに赤の他人だが、あの盛り上がりの後の割にはこんな興味なくなるの早いんだな。

なんだあいつらは、新手のフラッシュモブかよ。ドッキリ大成功ってか。


「おう、ア……ガトレットさん。またな」


アシュリーちゃんに別れの挨拶をしようと声をかける。

その際、懲りずに名前を呼ぼうとすると殺気を込めた瞳で睨まれたので、とっさに言い直した。


アシュリーちゃん、確かにさっきのは俺が悪かった。

でも、まだ“ア”しか言ってないのに親の仇を見るような目で見なくてもいいんじゃないかな? おじさん、泣いちゃうよ……


それでも一応、無言でお辞儀する真面目なアシュリーちゃんの姿を視界に収めてから、俺は盾石のオッサンの会社を後にした。

登場人物紹介その二。


盾石徹(たていしとおる)

モンスターバスター社の社長。剣の雇い主。

年齢五十歳。誕生日10月14日。

容姿、逆立った茶髪。筋肉でスーツが常にパツパツになっている。身長は約185㎝。


アシュリー・ガトレット

モンスターバスター社の受付嬢。ハーフ。

年齢二十歳。誕生日5月4日。

容姿、長い金髪に青い瞳。上半身の膨らみ以外は平均的な体型。身長は約165㎝。

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