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不時着したら、拾われた。

空中遊泳の最中に意識が途絶え、気がつくと、おれは知らない道に寝そべっていた。


澄ました耳に、鳥のさえずりと、風に木の揺れる音がする。


ここはどこだろう?


目を開き、視界に飛び込んできたのは一面の青空。と、自分が仰向けになっている街道を挟んで生い茂る木々の群れだけ。


そんな光景に、思わず瞳が湿っぽくなる。


こんな青い空も、風の匂いも、鳥の声も、世界って────



「世界って、こんなにも綺麗だったのか……」



それがおれの、起きて初めて視認するのが味気ない白い天井ではなかった時の感想だった。


結社で聞かされてきた人間の悪意と兵器が蠢く外の世界とは似ても似つかない。


息を呑むような色鮮やか景色。


自分の五感が感じる全ての新しい感覚に、昨日まで知らなかった感情の濁流が湧き上がる。


「生きてて、よかったぁぁぁぁっ! あ、いてて」


いきなりの大声を出したので、傷口たちからの抗議を受けちまった。


でも、さやの言う通りだった。外に出て良かった。


これを知らずに死ぬなんて、とんでもない!




深呼吸し、落ち着く。


結局、ここがどこかはわからない。


けど、街道があるってことは、ここにいればそのうち誰か通るだろ。


うん。なら、もう少しここで寝とこ。


まだ、薄皮一枚繋がっていない傷の痛みを忘れるため、おれは目を閉じた。


と、再び夢の世界に旅立とうとしたおれの耳に、パタパタと軽い足音が聴こえてくる。


おっ! 思いのほか早く人が来たな。

それじゃとりあえず、この辺の街への道でも聞くとするか。


「え、え!?」


そんなおれの考えも知らず、声を上げた少女は持っていたバスケットを放って駆け寄ってくる。


「ひどい怪我……大丈夫ですか!? わたしの声聞こえますか!?」


少女が切羽詰まった顔で、おれを膝に抱えて取り乱す。


その際少し揺すられ、傷が痛い。


「ああ、聞こえるから大声出さないでくれると助かる。傷に響く」


「あ、ごめんなさい。わたし、混乱しちゃって……」


「うん、わかった。それより、頼みたいことがあって」


混乱しているのは、こちらも同じだった。


この子はなんで当たり前のようにおれを抱え、自分の手を血で汚してるんだ?


こんな有様のおれを見て、恐怖は感じないのだろうか。


「わかってます。わたしの家すぐそこなので、そこまで我慢してくださいね!」


流れるように立ち上がる少女に肩を貸され、おれも思わず立ちがってしまう。


「は? え、いや、おれは町の行き方を……」


腕を肩に乗せ、身体を支えてくれながら、少女はゆっくり歩き出す。


「大丈夫、大丈夫です。家に着けば応急処置できますから」


「いや、だから、そういうことじゃなく……」


この子、助けることに必死で話し全然聞いてない……


その後、おれは少女に運ばれ、この子の家までゆっくりと痛みに耐えながら向かうことになった。




おれが運ばれたその民家は、二階建ての大きめ建築で庭には、不思議な形の葉っぱや野菜が実っていた。


少女は、おれを大部屋にあげると、息を切らして椅子の前で膝をつく。


「このソファに横になっててください。わたし、救急箱取ってきますので」


そう言って、おれを家の長くて柔らかい椅子に置き去りにし、少女は奥の部屋に姿を消した。


すごいな。この部屋、おれが暮らしてた自室の五倍以上の広さはある。


しかも、この椅子おれのベットより柔らかいぞ!? 外の人間って、こんな所で生活してるのか。


おれは、そんな寝転んだ長椅子の柔らかさに感動しつつ、これからの計画を練る。


少し動揺はしたけど、傷の手当てをしてくれるのならありがたい。


ここは、あの少女の言葉に甘えて応急処置を済ませて町に行こう。


「一人で寝転べたんですね。よかった」


白い小箱を持った少女が、部屋の奥から戻って来る。


「まあ、少し痛むけど、このくらい大した怪我じゃないよ」


「何言ってるんですか、道にあんなに残るほどの出血なんですよ。やせ我慢はダメです!」


「あはは、痛みはともかく、血の方はちょっとやばいかな」


おれもどんなに強かろうが、構造は人間だ。

痛みはいくらか我慢できても、身体の生命活動がが止まれば、当然死んでしまう。


血を作るために、食べないとな。


「えっと、手当てするので……この服切っちゃいますね」


少女は少し顔を赤くして、おれの着ている一枚で全身を覆うピタピタのスーツの腹部にハサミを通す。


「ああ、ありがとう」


手際よく、傷口の見える大きさに切る。


「うんしょっと! あの、ちょっと沁みますけど我慢してください」


湿った白い布をピンセットに挟んで、一応という具合で言ってくる。


「大丈夫大丈夫。痛いのとか平気だから」


なにせ、手当てを必要とする時は気を失っていたからなぁ。

今更、傷口を撫でられるくらいのこと、鼻で笑ってしまう。


「じゃあ、始めますね?」


「どうぞどうぞ、遠慮なくやってくれ」


おれのGOサインを確認して、ピンセットが躊躇を無くして近づく。


ピタッ。


瞬間。


湿った布から、液体が傷口へと浸透した。


「イッテぇぇぇぇぇぇ!?」


いや、待て待て! コイツ、布に酸でも塗ってんじゃないのか? めちゃくちゃ痛いぞ!!


しかし、少女気にした風もなくガーゼをトントントントン、一定のリズムで傷口当て続ける。


その度、おれは絶叫を上げる羽目になる。


しかし、少女が手を止めることはなかった。

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