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勝ち取る未来!そのニ

「そうだが、他の誰かに見えているのかい?」


「幻覚だとありがたいとは思ってるよ」


「ははっ、それは残念」


黒須は、ローブの懐からハンドガンを取り出し、おれに向ける。


「部下でももっとマシな装備だったのに、お前のはこじんまりしてるな」


言いながら、おれは痛む足を庇いながら振り返った。


「そうかい? でもね、眼に見える情報だけでは魔法は語れないよ」


──瞬間。


黒須は、懐から取り出した奇妙な形の注射器を、腕に打ち込んだ!?


容器の青い液体が空になり、全て黒須の腕へと流れ込んでいく。


「これは、一日一回しか使えないんだよ。わたし達みたいな人間にはね」


血管が浮き出るほど隆起し脈打つ異形の腕が、小さなハンドガンの引き金に指を掛けた。


また、さっきの火の弾が飛んでくるなら、一発くらい受ける覚悟で、前に出るっ!


駆け出した視線の先で、黒須の指が引く。


そして、放たれる火の弾────。


ではなく、燃え盛る軌道を宙に描いた熱線が、おれの踏み込んだ左足を貫く。


「がっ!」


部下が持ってたアサルトライフルより遥かに小さなハンドガンのくせにっ!?


転がったおれを見下ろして、黒須は満足そうに言う。


「愚かだね。魔導兵器において見た目など飾りだよ。重要なのは、道具に記された魔法陣とそれを行使する魔力だ」


言われて、気がつく。


何十年と修行した賢者と、背中に魔法陣を刻まれただけのおれが、同等かそれ以上なのだから。


おれが誰よりも身を以て知っていたことだ。


「ふん、片足取っただけで勝った気かよ? お前一人くらいなら満身創痍こんなんでも、負ける気がしねえ!」


立た上がり残った足で飛びつけば、首の骨くらい簡単にへし折れる!


「一人? ああ、わたしが先走ってしまったから勘違いさせたね」


しかし、黒須は余裕のある笑みを浮かべ、膝を着き、立ち上がるおれに不安な前置きをした。


「足音がしなくて不思議だったろ? 飛行船そらなら生体レーダもあるし人手もまとめて運べるからね」


木々の上から風から音が近づき。ロープが垂れ下がる。


ああ、そういうことか。だから、近づく気配すら感じなかったのか。


そして、枝葉をバサバサと鳴らし、武装した構成員が四人。追加で地上に降り立った。


「黒須様、危ないですから一人で行かないでください!」


「ああ、すまないすまない。上から反応を見ていたら君達に任せるのは、不安な気がしてね」


おそらく、さっきの部下の失態のことを言っているのだろう。


「……すみません」


「いいよ。それより────」


目線を戻した黒須が、素早くおれの残りの四肢を貫抜く!


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


倒れるのは堪えたが、もはや一歩のダッシュでも足が限界を迎えそうだ。


「総員、ナイフを出せ」


「え、ですが、武甕雷に近づくのは危険なのでは……?」


「わたしに、二度も言わせる気か?」


黒須の眼光が、厳しく光る。


「い、いえ! 了解しました!」


一人の返事で、四人が腰に着けているホルダーから小さなサバイバルナイフを抜く。


息も絶え絶えになったとはいえ、おれは鼻で笑いそうになる。


いくら弱っているからって、そんな刃渡り十センチ程度のおもちゃで死ぬかっての。


刺さらなかった所を狙って、肘鉄を喰らわしてやる。


「前に構えて、突っ込むだけでいい。できるな?」


「「はい! もちろんです!!」」


揃った声と共に、ナイフを両手で腹の前に構えた男たちが、四方から真っ直ぐ突っ込んで来る。


一歩も動けそうもないおれは、その刃が届くギリギリの瞬間を待つ。


時が来たら、周囲の四人を肘鉄で黙らせ黒須へと最後の特攻をかける!


そのあと、司令塔を失って焦ってる構成員たちを尻目に、ゆっくり脱出しよう。



そして、その時は来た!


ナイフが触れる直前、四人の男が叫ぶ。


「「点化てんか!!」」


その時、よく見えない眼下でナイフが光を放った気がした。


ズブリ、ズブリと、肉を断ち入り込んでくる感覚に目を見開く!


「っ!?」


しかし、声は出ない。


「ゴボッ! え゛ほっえほっ!」


しかし、代わりに喉を詰まられる血の逆流を抑えきれず、おれはコップを満たす程の赤黒い唾液を吐き出すっ!


痛い痛い痛い! 


気の遠くなるような痛みで、身体中が燃えているとさえ感じて、息をするのも辛い。


思考もまとまらず、正しい行動が何かもわからなくなる。


なのに


霞んだ瞳に視界に映る黒須が、ゆっくりと近づき。愉悦に笑う。


その笑顔を見た時────


おれの口は、喉はすでに、一つの行動を決めていた。


「その一歩は大地を揺らす剛力、その雷鳴は千里を駆ける雷」


「なっ!? この期に及んで、成る気か!!」


この期に? 違うね。


この時だからこそ、成るんだ。この覆い尽くす絶望に勝つ為に!!


「その一振りは万を葬る剣戟! 剣帝顕現、武甕雷っ!!」


雷に呑まれ、青白い身体、澄み切った白い頭髪に姿を変える。


おれをナイフで抑えていた男たちはその衝撃で、木々の彼方へと姿を消していた。


「はっは! 成ったところで今の君では一歩動いたら元の姿に戻って終わり。無駄な足掻きだ!」


黒須の言う通り、今さらこの姿に成っても目の前の敵を倒すことは出来ない。


でも、いいんだ。コイツを倒せないのはムカつくけど、それはおれの目的じゃない。


おれがやりたいことはそんなことじゃなく、こんな場所にはないんだから……


「おれの勝ちだよ」


「は?」


「おれが死ぬのを恐れて、もう撃てなかった時点でおれの勝ちだ」


「撃つ必要などないよ! 君がわたしを倒す前に君の身体は限界を迎える! 勝ったのはこの俺だ!!」


足元に雷を集中させ、おれは身体にかかるであろう壮絶な痛みに覚悟を決めた。


「だから、違えよ────」


思い切りしゃがみ、両足に力を溜める。


「この勝負、逃げるが勝ちだっ!!」


全身が千切れるような痛みとともに地面を蹴った。


「待て! 武甕雷!」


天を貫く勢いを生んで、おれは吹き荒れる風に纏わりつかれながら、上空へ飛び出す。


それだけで、一瞬のうちに森を飛び越え黒須など見えなくなっていく。



よし、これでなんとか、逃げきれたかな?


まだ、先の不安は残るけど、今は安心できると信じたい。


「ここ、離島だったのか……」


眼下の見渡すと、自分が飛び出してきた森の外は一面の海だった。


それを見ると、結局、この逃げ方が一番良かったのかも知れない。


泳いで逃げるのは無理あるしな。


「へへ、やったよさや。おれ、あんたとの約束通り外に出たよ、ははは……アレ……なんか、目、開けてられ、ない?」


痛みも忘れて、空に投げ出した身体はもう限界だったらしく。


閉じていく、瞼を開く力さえ今のおれには残っていなかった。


「着地……どうしよ……?」

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