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化け物包囲網

通路を歩く黒須くろすは、ターゲットである武甕雷(たけみかずち)の現在の状態を考え、作戦を練る。


武甕雷は何処に向かった? 死白ししらさやが去った今、奴の行く宛などないはず……


と、すれば外の森林を抜ける為、闇雲に進んでいる。


おそらく、速度を落とし隠密性を高めて。


『黒須様、正門から南東三百メートル付近に武甕雷を発見。草むらに屈んで静止しています、ご指示を』


元々、隠れ家の周囲を巡回警備していた一人から、通信が入る。


『足を撃て。奴は朝食を魔力補給食を摂っていないが、二十メートル間隔距離を保ち続けろ』


脚さえ、止めれば逃亡は不可能。


反撃しようにも奴に飛び道具などなく、魔力不足で魔法も使用不可。成れて一瞬程度の強化のみ。


『しかし、魔法弾を撃って武甕雷の方は無事で済みますか』


部下の不安な声に、黒須は応える。


『いらん心配をするな、安心して撃て。奴の身体は魔法耐性のある霊薬にも適合している。お前たちが使う一陣魔法以下の擬似魔法弾で死んだりはしない』


黒須が賢者たちに、武甕雷を囲い三日三晩詠唱をさせたあの日。


黒須はもう一つの兵器を生み出していた。


使用者の魔力をトリガーを引く同時に、無理矢理引き出す魔導具。


インスタント・マジック・ウェポン。


記された魔法しか使えず、とても一対一では賢者や武甕雷と戦える代物ではない。


しかし、黒須はこれを結社の内の全ての者に支給した。


それによって、威力や規模では太刀打ち出来ない彼らに対し、非力ながらも対抗手段ができた。


実戦投入にはまだ改良の余地があるが、いい機会だ。


今回は絶好の的まで、用意されている。アレを試さない手はないな。


『了解しました。これより戦闘を開始します』


一人嗤う黒須の事など知る由もない部下の返事を聞き、黒須は個人通信を複数通信に切り替える。


『総員、南東三百メートル付近で武甕雷が発見された。直ちに向かい二十メートル範囲で包囲網敷いて行動不能になるまでの迎撃行動を許可する』


武甕雷、お前は気づいていないだろうな。


自分が生かされていた事実と、俺の「簡単に殺せる」と言った言葉が真実だという事実を。


「俺が行くまで、倒れるなよ武甕雷」


通信を終え、武器庫に到着した黒須が部屋の最奥へと向かう。


その横顔には、新しい玩具を使いたくてうずうずしている少年の様な無邪気な笑顔貼りついていた。


★ ★ ★


出入り口の見張り一瞬で黙らせ、果てしなく長い階段を上がり警報と共に外に出た。


すると、そこには一面の森林が広がっていた。


当然、視界は最悪。


しかし、さっきの警報で追手が来るのは時間の問題だ。止まってはいられない。


とりあえず、近場の草陰に隠れながら進もうかな。


おれは屈んで草むら隠れる。そして、そのまま木々の陰に覆われた道を辿って、前へと進んで行く。


この調子なら、一、二時間すれば外に出れるかもしれない。


と、思った束の間。左前方でパキッと枝の折れる音がする。


どうやら、黒須は外に見張りまで置いていたらしい。


まあ、そんな甘くはないよな。


おれは息を殺し、小さなレンズのゴーグルを付けた巡回員が遠ざかるのを待つ。


よし! 今だ!


「ぐッ!?」


意気込んで一歩踏み出した瞬間、おれの右足に高温の弾丸が直撃した!


イッテぇ! どこからだ!?


不意を突かれ転びそうになるが、受け身をとって素早く起き上がる。


そして、射線を辿った視線の先。そこに銃を構えてこちらを見る者がいた。


マズい、見つかった! 


おれは追撃を警戒して構え、辺りを見回して突破口を探す。


「ん?」


しかし、撃った張本人は標準を合わせまま、その場で追撃の手を止める。


なんだ? 二発目を、撃ってこないのか。


避けられるのを警戒してか、弾の温存だろうか?


目の前の男が構えた銃は、どう見ても連射可能なアサルトライフルに見えるが……


「武甕雷、逃げるのをやめて投降してください! であれば、私ももう撃ちません」


男がスコープ越しにおれを捉えたまま、嘘くさい言葉を叫ぶ。


「ここで戻るのと撃たれるの。どっちが辛いのかなんて、アンタでもわかるんじゃないの?」


男の声に耳を傾けつつ、右足の傷を確認する。


足には水ぶくれが出来ており、出血はない。


つまりさっきのは、銃弾じゃなく火の玉が直に足へ飛んできたのか。


え、火が丸まって……?


だとすると、アレは普通の銃ではない。十中八九、魔術が関わっている。


問題は、そんな物をなんでただの人間が扱えるのかという事と、おれでも死にかねない武器だということだな。


指で耳を押さえた後、男が引き金に指をかける。


「そうですか。では、拘束します!」


その宣言と共に、遠くから三つの足音が接近してくる。


コイツ、一人では分が悪いと踏んで仲間を待ってたのか!?


「最初からそのつもりだろっ!」


相手が、魔導武器を使うなら多対一では敗色は濃厚。


やむなく、おれは足音とは逆方向に駆ける。


ここは逃げるが勝ちだ!!


その際、踏み込んだ足にもう一発銃弾を喰らう。


「イッ!? たくねぇぇぇぇぇぇぇ!!」


それでも、おれは歯を食いしばり鬼の形相で、足を無理矢理動かす!


ここで、捕まったらさやとの約束が終わってしまう! きっと、さやに二度と会えなくなる!


そんなのは……


楽しくもない嬉しくもない日常なんてのは!

もう御免だッ!!

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