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希望の朝。

自室のベットで仰向けになったまま、さやの言葉を思い出す。


涙を流しながら、かけられたあの言葉を。


「外の世界かぁ」


おれが結社で聞いたことのある外の世界は、十年前賢者が統一した大陸。


それと科学技術の発展で、それが脅かされないようおれが、敵意が起きないほど見せしめに反乱分子を叩き潰すというもの。


だけど、最近はわからない。


結社の人間のために強くなる度に、結社の奴らとは距離が開く日々。


何も知らず、能天気に関わってきたパトリシアでさえ、おれの力の前では恐れをなして逃げ出した。


だから、この世にはおれのことを必要とする奴なんていないと思っていた。


なのに、さやは……あの人はおれの為に必死になって、おれの為に泣いていた。


分からない。おれはさやに何もしていないし力の恩恵を与えたわけでもない。


なのに、どうして優しくなんて出来る?


さやに何の得があるというんだ。分からない。


外の世界に行けば、この答えは見つかるのかな。おれの力を必要としてくれる人なんて、いるのかな。


そんな人が居るとしたら、おれはその人の為にさやが話してくれたおとぎ話の中の勇者のような、誰かを守れる“人間”になれるのかな。


分からない。全部分からない。けど……全部、分かりたい。


止めどなく考えていた思考に、出口が見えた気がした。


そうだよな。欲しいなら手に入れるしかない!。


そうだ、もう長い間結社に居たおれには分かる。


ここに、おれの欲しいものなんてない……!


長い間、引きずってきた不快感に別れを告げ、おれは晴れやかな気分で覚悟を決め、目を閉じる。


黒須を出し抜くなら、考えさせたら駄目だ。動くなら黒須に気取られる前に動かないと。


おれは外の世界に想いを馳せ、明日の大立ち回りに覚悟を決め夢の世界へと旅に出る。



翌日、朝食の配給時間より早く起き。


以前、掻っ攫っておいた結社のローブを見に纏って部屋を出る。


向かうのは、もちろん座学の部屋ではなく。さやが横たわる医療エリアの最奥。


「さや、おれ決めたよ!」


「え、こんな時間にどうしたの?」


扉を開け放ち、飛び起きて寝ぼけたさやに告げる。


「おれ、外に行くよ。自分が欲しいものもまだよく分かってないけど、それを知るためにも行くよ」


「そう、ちょっと急だけど……私は嬉しいわ。必ず見つけてきてね? あなたが本当に欲しい何かを」


突然過ぎて驚いていたさやは、それでも聞き終わると、おれの門出を見送るように微笑んだ。


あれ? なんか話が食い違ってないか。


「いや、何言ってんの? さやも一緒に行こうよ。きっとこんな所に居るより楽しいよ!」


ここには娯楽の一つもないし、さやだって十五年も一人なら外に行った方が楽しいに決まってる。


「いえ、それはできないわ。私は、ここにいた方がいいの」


しかし、さやは意外にも初めておれの言葉を否定した。


「身体が弱いから歩けないって言うなら、俺が運んであげるぞ?」


「そうじゃない、そんなことじゃないの」


「え、じゃあなんでだよ……さやが外には良いことが沢山あるって言ったのに、どうして一緒に行けないんだよ!!」


「それはね、私──」


躊躇いの中、さやはゆっくりと辛そうに言葉絞り出す。


「あと三日で、この場所から解放されるの」


「は?」


「だから、お互い出方は違ってしまうけれど。もしまた、外で会えたらお話しましょう?」


申し訳なさそうに言う顔に、思わず笑ってしまう。


「いや、はは。なんだよ、そっか……そうなんだ」


よかった。この人はちゃんと幸せになれるんだ。


「わかった。そういうことなら、さやはそっちの方法で出た方が安全だし、俺と来る必要はないな」


だったら、今度会う時は思い出話を沢山用意しておかなくちゃ。


「ごめんなさいね。一緒に行けなくて」


「何言ってんだよ? 行かなくて正解だろ」


「そう、ね」


「じゃあ、俺は先に外に行くから! またいつか会おうな!」


さやに別れの言葉を告げ、おれは踵を返して扉に向かう。


よかった。これで本当にこの場所に未練なんてなくなった。


「待って!」


しかし、清々しい気分で歩き出したおれの背に、もう一度さやの声が聞こえた。


「え、どうした? 言い忘れたことあったか」


てっきり話は終わったと思ってたけど。


「あ、そうなの。私の故郷に伝わる別れのお呪いをしてあげようと思って」


「? ありがと、じゃあ頼むよ」


おれはその場で立ち止まって、軽く腕を広げる。


「そうね、もう少しこっちに来てくれる? そこだと手が届かないから」


「あ、そうなんだ」


手が届かないと出来ないお呪いだったのか。


おれは言われた通り、さやの手が届くベットの目の前に立つ。


その瞬間、おれはベットの上に膝を立てたさやに抱きしめられる。


さやの全体重がこちらに預けられ、全温もりが伝わって来る気がした。


「え、ちょっ?」


「外の世界に希望を持ってくれて、ありがとう。私はあなたがどこへ行こうと、あなたの味方。だから、誰かの為に自分の為に強く、強く生きて……!」


「さや、いたいよ」


痛い。


強く抱きしめられ、言葉をかけられただけなのに、どうしようもなく、胸が痛い。


だから、答える。


さやの胸が痛くならないよう、おれはおれの全身全霊の言葉で。


「任せてくれ、おれは絶対幸せになるからさやも絶対幸せになってくれ!」


「ええ、約束ね。行ってらっしゃい、私の王子様」


「行ってきます!」


希望も勇気も貰い、今度こそ部屋を出て走り出す。


今のおれは自分史上最高に、無敵な気分だ!

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