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夢物語。その二

さやの声が、寂しい病室を満たしていく。


『少年が頼まれたのは、城のお姫様と旅をしてほしいというものでした。「そんなことなら全然平気だよ!」少年が言います』


まあ、確かに王様からの直々のお願いにしては拍子抜けするレベルのお遣いだな。


『騎士隊長でも責任が重いからと断った頼みをあっさりと受けた少年は外の世界を見たいと言うお姫様と旅に出ます。しかし、城を出るさい王様に注意を受けました「その子は五匹の怪物が狙っているから絶対に守ってくれ」と』


いや、無理だろ。ただの村育ちの少年に負わせる荷じゃねえよ。


『少年はその言葉にも二つ返事で答えます「いいよ!」』


いいのかよ!


『王様が娘を思う気持ちと、お姫様の健気な願いの為なら当たり前のことです。そして、少年とお姫様は手を握り大勢の人々に見送られて旅に出ました』



その後、さやが話す物語は誰も傷つかず平和そのもの。などではなく、淡々と語られる凄惨な冒険の話だった。


最初の怪物は、山に棲む賢しい怪物で色々な罠で少年を傷だらけにしていく。しかし、少年には何にも屈しない勇気があった。


少年は肉を抉られようと弓を向けられようと、姫を守るため痛みも恐怖もねじ伏せて怪物を一刀両断する。


その後も、山を越え海を渡った二人は道中で、怪物に襲われながらも王国の帰路についていた。




『「もうすぐお城に着くよ」少年は、失った片足と片腕など気にもせずお姫様が家に帰れることを自分のことのように喜びます。それにお姫様も「あなたのおかげで世界の美しさを知りました。本当にありがとう」と感謝の言葉を告げます』


いや、足りねえだろ感謝!? もっと身体の心配とか保証の話とかしろよ。


『しかし、二人が王国の近くまで来るとなんだか騒がしい音が聞こえてきます。少年が精一杯急いで広場に向かうと、そこには怪物が室内に避難した人々を襲おうと暴れていました。少年は咄嗟に怪物に近づき剣を振り上げますが鋭く硬い尻尾に弾かれてしまします』


そりゃあ、片足と片腕じゃあ踏み込みを甘くなるし力も入らない。ここまでくると勇気があるっていうか恐怖感が死んでいるって感じだ。


『転んだ少年に怪物が気づき、人間などたやすく切り裂ける爪を振り上げます! 少年が目を閉じ覚悟を決めた時「危ない!?」と、どこからか声が聞こえ、周囲から怪物に向かって町の人々が家具や食器を飛ばし始めました』


『そうです。傷だらけで戦う少年の姿が、町の人々の心にも勇気を生んだのです。そして、町中のガラクタに埋まって動けなくなった怪物に、傍らのお姫様に支えられ少年が剣を振り下ろしました。その後、全ての怪物を倒した功績を讃えられ、少年はお姫様と結婚して幸せに暮らしましたとさ、おしまい』


「どうだった? 楽しんでもらえていたらいいんだけれど」


お話しが終わると、さやが恐る恐る聞いてきた。


「うーん。なんか凄い身勝手な奴ばっかり出てきてツッコミどころ満載だったけど、話としては面白かったよ」


「そう、それはよかった。ところで……君は外に出てみたいとは、思わないの?」


「それは思わないかな。だって、外に出たっておれみたいな奴には居場所なんてないでしょ」


おれは、さやの即答する。


「そんなことない。外の世界はあなたが思っている以上に多種多様な人々が居るわ。力が強いなんて変わり者にも入らない。きっと個性で片付けられちゃうわよ」


もしそうなら、外っておれが思ってるより化け物が闊歩している世界なのかも。


「ふーん。まあ、そんな言ったって黒須が許さないし無理だね」


おれが脱走など、企ててれば間違いなくアイツは結社の総力を懸けて止めるだろう。


いくら、おれでもここの全ての人間相手では骨が折れる。


「それは、言い訳ね」


しかし、さやはそれでもおれの言葉を頑なに否定してくる。


「言い訳ってどういうことだよ? おれは嘘なんて言ってないぞ」


「でも、出来ないとは思っていないでしょう?」


「それは……」


確かに、本気で臨めば出来るだろうけど。そんなんしちゃいけないんじゃないのか?


おれが居なくなって、この結社は大丈夫なのか。


「あなたはこの世界しか知らない。だから、外に出るのはすごく怖いでしょう?」


怖い? おれが……?


でも、確かに今この躊躇する感情の名前をおれは知らない気がする。これが恐怖なのか?


「だけど、外の世界にはあなたが本当に力を使うべき人々や事がきっとある。私はこんな狭い世界で、あなたの可能性を終わらせて、ほしく、ない……!」


仰向けで、話すさやの声が震えて嗚咽が混じる。


「さや、泣いてるのか……?」


なんでだよ……


「お願い、外に出ればわかる。だから考えてみて?」


「う、うん。そこまで言うなら、考えとくよ」


濡れた瞳で頼まれて、おれは押し切られるように返事をした。


なんで、そこまで見知らぬ奴の為に感情をむき出しにして考えられるんだよ。


おれなんかに、一生懸命になれるんだよ。こんな化け物の為なんかに。

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