厄介な婚約者 1
やや進みます
あのプロポーズの一件以来、特にシルフィリア様と会うこともなく、のほほんと、伯爵家の図書室で秋休暇を過ごしておりましたよ。だけど、今日はもう学園に行かねばならない日だ。どんな嫌がらせが始まるのかは分からない。まぁ、流石によくある
「あら、ごめんなさい?手元が狂って飲み物をこぼしてしまいましたわ。クスクス」
っていうのは無いと思う。でもなんか不安だな。エプロンドレスにしよう、これからの社交界のドレスは。そう決意しつつも、行きたくないというのもまた、心情で。だけど、考えてるうちにも、馬車は学園に向かって進んでいく。だんだんと痛くなるおしりとをお供に私の波乱が巻き起こるであろう、学園生活は幕を開けた。
無駄に豪奢な校門をくぐり抜け、優雅な足取りで馬車を降りると、辺りをこれまた優雅に見渡し、誰もいないことを確認する。そしたら、やることは1つ。
「サフィナ、この荷物を教室へ!ミュリエラは私とともにこちらへ!」
素早く指示を出し、お淑やかに学園内を颯爽と駆け抜け、図書室へ。この技を習得するのに、かかった時間と見合うくらいに素晴らしい技へと仕上がったわね。お陰で誰にも見られずに図書室へゴールインよ!あとは授業開始ギリギリまで、司書の先生にお手伝いと称して匿ってもらうだけ!好きな作家の本に触れたり、先生の面白いお話を聞くのは面白いし、なによりも日当たりがいいからほっこりほのぼのするのに丁度いい。建築をした人、グッジョブです。あなたのおかげで、私は今、暖かな光の中で、先生と楽しくきゃっきゃウフフできてますわ!はぁ、鐘が鳴らなければいいのに。
人間、そう思った瞬間に上手くいかなくなるものである。
カーン、カーン、カーン、カンカンカンカンカーン
人を急かすようになる鐘は10分前の合図だ。今日も先生にお礼をいって、教室へと向かう。サフィナに授業の用意は渡したし、座るだけ、なんですけどね。お声をかけられないようにするのが難しいと思う。だけど、これを成し遂げたら、私、一人前のレディなのでは!?
…あ、レディになる必要性を感じないのが私でしたわ。
どうしましょう、早速心は挫けそうですし、現実逃避をしている間にもう、教室の前ですし。ええい、女は度胸!と、ガラッとドアを開けて
「御機嫌よう、皆様。」
と挨拶をする。勿論、昨今のラノベブームにより、一気に広まったカーテシーをつけての挨拶ですわよ?まぁ、兎にも角にも、この時点では何も言われてないですし、さっと座ってしまいましょう。楚々とした動きを心がけて、さぁ、着席!というその時。
ガラッと教室のドアが開いた。けど、頓着なんてしないしない。ストンと座って、さっき先生から勧められた新しい作家さんの本を読み始める。貴族令嬢的には30点だが、学園内では勉学のため、と言えばどうにかはなる。むしろ、有利に立てる。まぁ、そんなことはどうでもいい。私は目の前の美しく装飾された文字を追い始めた。
しかし、それは10秒も続かなかった。パタンと、何者かにより本が閉じられてしまった。なかなかのことをしてくれるじゃないかと内心憤りつつも、おくびにも出さず、笑顔でターゲットを認識する。
……私が甘かった、甘かったのは認めよう。仮にも婚約したんだから、挨拶に行かねばいけないのを忘れかけていたのは私が悪かった。けどね、シルフィリア様。貴方様の教室はここから1番遠い、騎士塔でしょうが、このバカ!あと5分でたどり着けるわけがないじゃない!
初日の朝。女の敵は女と言うが、婚約者の方がある意味タチが悪いということを始めて知ったのであった。
お付き合いくださり、ありがとうございます