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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第八話 強襲

ノアから聞いた通り森の麓に人間の集落があった。

ノアを疑っていたわけではないが【虎目ノ計測(アザゼル)】を使い真偽を見極めていた。

嘘はないとわかっていたが実際に見るまでは、ノアを信じていなかった。


「やっと見つけた」


やっと見つけた人間の集落を前に邪悪な笑みがこぼれる。

しかし集落は見つかったが明らかに人の数が少なかった。

私は集落の全体を見下ろせる丘から集落の様子を窺っていた。

集落は中心の広場のような場所を中心に円状に家屋、畑の順に広がっていた。

私は確実に彼らを始末するために日が暮れるのを待つことにした。

もちろんその間は無駄にはしない。

先程隷属化した熊の魔物を呼び寄せ、同じ轍を踏まぬように逃げられないように準備をする。


日が暮れるにつれ人間たちは仕事を終え、自分達の家に帰ってきたころ。

丘の上で一人、吸血鬼が嗤っていた。


「さぁさぁさぁ。始めましょう。罪には罰を罪人に裁きの鉄槌を」

「舞台は整った。さぁ奏でましょう。死と悲鳴の鎮魂歌を」


私はフードを脱ぎ去り、姿を銀色の霧に変えた——。

『霧化』

一部の高位吸血鬼のみ使える能力の一つである。『霧化』は自分または、物体を霧に変えることができる力で『霧化』している間は、あらゆるモノから干渉されないが、同時に干渉もできない。

私は確実に奴ら始末するために『霧化』し集落に近づくことにした——。


アリスが霧になる少し前、集落に突然、土で汚れた男たちが転移してきた。

集落にいた一人の男が彼らに声をかけた。


「お前さんたち、一体どうしたんじゃ」


ジェフは、額に浮かんだ汗をぬぐいながら言った。


「ちょっとしくじっただけだ。この集落に宿はあるか?」

「いや、生憎この集落に宿はないんだ。すまないな」


男は、少し申し訳なさそうにしながら言った。

ジェフは、気にした素振りを見せず、男にさらに聞いた。


「ならこの集落で酒を飲めるとこはあるか」

「それならあるぞ、ここを真っ直ぐ進んだとこにある店で酒が飲めるぞ」

「そうか。ありがとな」

ジェフは、男の返答に満足した様子で真っ直ぐ男に言われた道を進んで行った。

その後ろを、同じく転移してきた仲間らしい者たちが、やれやれと言った様子でついていった。


店に着くと彼らは酒と食べ物を頼み席に着いた。


「ねぇジェフ、『あれ』もったいなくなかった。あれでも結構高かったし……」

「いあぁ。あれはしょうがないでしょ。実際、戦ってたら俺ら死んでるし……」

「そうそう。冒険者がわざわざあんなの買うのは、こういう時に使うためなんだしよ」


シータが、囮としてノアを使ったことに不満を漏らすがそれをジョージとヤードが諫める。

ジェフは酒を一気に呷った。


「シータ、お前の気持ちはわかるけどよ。また、おもちゃは買えばいいだろ。それまで我慢しろ」


ジェフは馬鹿にしたようにシータに言った。


『おもちゃ』この冒険者の中で、ノアはシータの文字通り『おもちゃ』であった。

彼女の持つ加虐趣味によって、ノアが傷つけられることは、彼らの日常であった。

死に至るほどの傷を与えるのではなく、苦痛を与え苦悶の表情を見て楽しんでいた。

仲間たちもそれを止めるわけはなく、ともに酒の肴として楽しんでいた。


「私を子供みたいに言わないでくれるかしら、まったく。早く新しいの買ってよね」

「まぁ、今回はしくったが、命あっての冒険者だからな」


四人は笑いながら再び酒を呷った。

そして、日が暮れていった——。


突然、霧に包まれた集落は騒然としたようすであった。


「おい、これはどういうことだ?」

「霧か?なんでこんな急に」

「どっかの馬鹿が魔法でも使ったのか」


集落に住んでいるであろう人間たちは皆外に出てきた。


『わざわざ外に出てきてくれるなんて、なんて愚かなんだろう』


私は集落の中心部に霧を集めた。

そして集落の中心で霧化を解いた。

普段はローブで姿を隠していたが今は違う。

白を基調とした丈の短いワンピースに黒いベストを羽織り、白いニーソを身に着けている。

霧が晴れ、突然現れた私の姿に、人間たちは驚いていた。


「おい!お前がさっきの変な霧を出したのか」


怒気を含んだ様子で男は、にらめつけてきた。


「今度は逃がさない」

「あん?何か言ったか」

「別に気にしなくていいわ」


にらめつけてきた男は先ほどまで森にいた男ジェフであった。

私は収納魔法から二本の剣を取り出した。

諸刃の剣ではない。刃は片側しかついておらず、直剣ではなく、わずかに反った刀という種類の剣を腰に差した。


「お嬢ちゃん一体何の真似だい?」

「見てわからないの」

「やろうってのか?いいぜ、丁度サンドバックがなくなってストレスたまってたんだよ。安心しな、ケガしてもしっかり介抱してやるからよ」


男は何を想像したのか下卑た笑みを浮かべている。


「ほどほどにしろよ」

「なんだ、ただの喧嘩か。おぉなかなかかわいい顔してんじゃん」

「こいつは俺の獲物だ。手だすなよ」


人間達はただの喧嘩だと思っているのか見世物を見るような雰囲気の者やあきれて帰り始めるものがいた。


「なんだ来ないのか?ならこっちから行くぜ」


動かない私に殴りかかってきた。


「【玻璃ノ未来(ラプラス)】【虎目ノ計測(アザゼル)】」


私は右の瞳を水晶、左の瞳を虎の眼の様に変えた。

未来視で男の拳を体をわずかにずらし避ける。


「クソ、なんで当たんねぇだよ」

「おい、ちゃんとやれよ。遊ばれてんぞ」

「うるせー」


辺りからは野次が飛び始める。私は男の攻撃を避けながら人間を一人ずつ視た。

虎目ノ計測(アザゼル)】は真理を見通す、持ち物から【贈り物】にいたるまで全てを視る。


弱い、弱すぎる。こんな奴らに私達は滅ぼされたの?道具にさせられたの?

視た結果、人間達からは強力な魔道具や【贈り物】は一切見当たらなかった。

疑問は尽きないが確かなことは、ここに居る奴らは私の敵になりえないということだ。


「もう手加減なんかしねぇぞ。くらいやがれ」


男は腰の剣を抜き、大きく振りかぶり渾身の一撃を与えようとした。


「もう茶番はいいや」


私は男の腹を蹴り飛ばし距離を取った。


「グハッ。イテェじゃねえか」


男の言葉を無視し私は腰の二本の刀を抜いた。

氷のように冷たい目を男らに向け言い放った。


「刀の錆にいや——。錆にすらさせない。ただ無意味に死んで」

「調子に乗るな!」


蹴られたことに激昂した男が切りかかって来た。


「まず一人」


シュっと刀を一閃した。刀は男の身体を綺麗に両断した。

ゴトっと音をたて男は倒れた。音を聞いて初めて周りの人間が男に死んだことを認識した。

辺りからは悲鳴や怒声が響く。


「おい、てめぇ何やってんだよ!」

「何が?」

「てめぇ、よくも!」

「くたばりやがれ!」


男たちは次々に私に襲いかかってくる。


「はははははは。死ね死ね死ね死ね」


そのことごとくを私は斬る。腕を切り落とし、足を切り飛ばし、胴を両断した。


「この化け物め!」「くらいなさい『火の球(ファイヤーボール)』」「『風の刃(ウインドカッター)』」


途中斧や桑、炎の球や風の刃などの魔法も飛んできた。

しかし当然ながら当たらない。それどころか他の人間に被弾さえしている。


「はははははは。無駄無駄無駄無駄」


刀を振るごとに屍は増えていく。辺りには血の海ができ始めていた。


「いや、死にたくない。死にたくないよ」


そんな惨状を見て逃げ出す人間もいた。


「逃がさない。『縛鎖バインドチェーン』」


逃げ出す人間達に魔法の鎖が巻き付く。動きを封じられたもの達を次々と斬り殺した。


「我が力は野を駆け丘を越える『空間跳躍(ワールド・ジャンプ)』」


詠唱をした女性の足元には魔法陣が輝きだし、そして消え失せた。


「えっ!なんで転移できないの」

「逃がさないって言ったでしょ」


空間転移ができる人間がいるのはわかっていた。

なら当然それを防ぐ準備はする。私は魔物を使い集落のまわりに結界を張ったのだ。

結界は朝までしか効果が持続しないが、その効果は絶大であった。


「それじゃね、バイバイ」

「させねぇ」


私が女を斬り殺そうとしたとき大きな盾を持った男が割って入ってきた。

キイィンと金属のぶつかる音が響いた。


「シータ無事か。無事じゃなくても力貸せ、あのイカレ娘を殺す」

「だ、大丈夫よ。少し待って。『身体強化(パワーライズ)』」


男の身体が一瞬輝く。


「なんで無駄だって気づか……」


私が再び仕掛けようとしたとき、玻璃ノ未来ラプラスが未来を映した。

私は体をわずかに反らす。次の瞬間、目の前を矢が通り抜けた。


「くそ、あれを避けるのかよ」

「邪魔しないでよ」

「おいこいつ本気でヤバイ……ぞ」

「そんなことわかっているわ……よ……えっ」

「お前らどうし……グハッ」

「はぁ……なんだこんなのも避けられないの。つまんないなぁ」


男たちは皆、足元から生えた氷の杭に体を貫かれていた。


「く、そ、やろ……」


男は言葉を言い切る前に絶命した。


「残念でした。ふふふ。さて残りもちゃんと殺さないとね」

「いや、なんで出れないの」


集落の入り口には私の拘束されずにいた人間達が集まっていた。ほとんどが若い女や子供、老人あった。

彼らは皆が集落から逃げ出そうとしていたが見えない壁によって妨げられていた。

ドンドンと見えない壁を叩く人間達を私はあざ笑いながら近づいた。


「みぃつけた」

「来ないで!」

「なんでこんなことするのよ」

「死にたくないよぉ」

「わしらの命ならくれてやるから子供たちだけはどうか、どうか見逃してくれ」


子供や女たちが泣き叫ぶ。

老人たちは膝を付き、頭を地面にこすりつける。


「ふふふ、ダメ。みんな死んで」


男も女も老人も子供も例外なく斬り殺した。

同じ人間に容赦も慈悲もない。

気づけば悲鳴や怒声は消え、私の笑い声しか聞こえなくなっていた。

罪のない人間なんていない。

彼らの生きる限り私は彼らを殺す。

全てを絶滅させるまで私は殺すのをやめない。


私の影から出てきた魔物たちが次々と斬り殺した人間を隷属化していく。


「皮肉よね。私の義母を殺した奴らの様に喜々として殺し。人間の様に死体を道具にしているんだから」

「どう?これがあなた達がやっていることよ。ねぇ今どんな気分?」


私は死体たちに問いかけた。当然ながら返事などは返ってこない。


「悔しい?私が憎い?理不尽だと思った?」

「安心して、みんな同じ気持ちにしてあげるから。ハハハハハ――」

「ヒィ――」


突如聞こえた短い声に私は、生き残りがいたのかと思い刀を抜いた。

しかしそこにいたのは、人間ではなかった。


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