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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第七話 銀狼

アリスの魔物が彼らを見つけた時、五人の男女は森の中を走っていた。

五人の服装は統一されておらず、金属の鎧や剣、ローブに杖などまちまちであったが――。


「おいグズ速く走れ!」


魔物の鱗でつくられたであろう鎧を身に着け、腰に剣を差した大柄な男が一人の少女に罵声を飛ばす。

一方、少女は鎧ではなくボロキレのような服を身に纏い、背に大きな荷物袋を背負っていた。

少女の装備は明らかに浮いていた。

それもそのはず、少女は彼らの仲間ではなければ、同じ種族ですらない。

彼女の頭には狼の様な耳があり、腰には長い尾があった。

獣人。

本来であれば獣のような強靭な肉体を持つ種族であるが、彼女の身体は痩せこけ、青みがかかった銀色の髪や尾は全く手入れがされておらずボサボサであった。

極めつけは首に巻かれた金属の首輪。

首輪には黒い魔石がはめ込まれ、彼女が人以下の存在であることを示している。

そう、彼女は彼らの道具(奴隷)なのだ。


『奴隷』は生き物ではない。それらは道具である。

少なくとも、人間達の大多数は『奴隷』を道具と認識している。

『奴隷』は、道具であり消耗品である。

しかし、『奴隷』は消して安い道具ではない。消耗品であることに加え、圧倒的に数が少ないのである。

当然、手荒な扱いをすれば壊れてしまうし、道具として維持するための費用(食費)も掛かる。

その結果、『奴隷』を購入するものは、限られてくる。

貴族や一部の高所得の商人など、資金に余裕がある者も『奴隷』を購入するが、それより圧倒的に奴隷購入する職の者たちがいる。

それは、冒険者だ。彼らは主に、魔物を狩り、魔物からとれる素材を売却することで生きている。

魔物の素材の価値は、それぞれだが命を賭ける職故に、基本的に高取得者が多い。

彼らは『奴隷』を購入し、様々なことに利用する。

彼らにとって『奴隷』とは、文字通り使えなくなった捨てる消耗品なのだ——。


「クソ!てめぇそれでも畜生か」


少女は浴びせられる罵声を無表情に受け流した。

彼らの機嫌を損なえば自分がひどい目にあうのを何度も経験したからだ。


「クソが。シータ転移はできるか?」


絶えず悪態をつきながら男は走りながら後ろを走る女性に話しかけた。

ローブを身に着け、杖を持った如何にも魔法使いという見た目をした、シータと呼ばれた女性は息を切らしながら応えた。  


「走りながらこの人数の転移魔法なんて無理よ!せ、せめて時間があれば集落までなら飛べるわ」

「そうか時間があればいいんだな」


彼女の返答に満足したのか。大柄のニヤリと下卑た笑みを浮かべた。


『グアァァァァァァァ』


突然の咆哮と共に姿を見せたのは、全身が炎のような赤い体をした熊であった。

それは彼らが先ほどまで逃げていた魔物であった。


「もう追いつかれたか」


「仕方ない、やるしかないか」


青い顔をしながら軽装の男と大きな盾を持った男たちが各々の武器を構えようとすると。

大柄の男がそれを手で制した。


「ジョージ、ヤード。奴には勝てねぇ。だから逃げるぞ」

「おいおいジェフ。さっきまで逃げてきて、もう追いつかれただろ」

「あぁ。だから今度は確実に逃げるぞ」

「転移は無理よ。詠唱している間に死んじゃうわ」

「安心しろ。おい畜生命令だ。『俺らが逃げ切るまで全力であいつと戦え』」


命令を受けた少女はこれまでしていた無表情が崩れた。


「いや、死にたくない。死にたくない。死にたくない」


「うるせぇ!なに、お前があいつを倒せばいいだけの話さ。お前ら行くぞ」


「いや、行かないで!死にたくない!」


少女は叫ぶも足は、その場から前に進まない。

首に着けられた隷属の首輪が、命令を破るのを許さない。

命令を下すと男は、仲間達を引きつれ、そのまま走り去っていった。



アリスは、男たちが一人の少女を囮に逃げていくのを魔物を通してみていた。


「逃がさない」

影から魔物を次々と出し命令を下した。


「『人間を追いなさい』」


命令を受けた魔物たちは、一斉に駆け出した。


やっと見つけた獲物だ。絶対に逃がさない。

私はシャドウウルフに飛び乗り、獲物を仕留めに向かった。

しかし——。


「え?消えた?」


突如として補足していた人間が消えたのだ。

隷属化した魔物に気が付いたのか?

いや彼らにはそんな様子はなかった。

ならば熊の魔物から逃れるために魔法で姿を消した?

しかし姿を消したとしても森には、無数の草木があるため、何かしらの跡が残るはずであるが、それらしいものは見当たらない。

ならばいったい——。


「空間転移か!」


空間転移とはその名の通り人や物を任意の位置に転移させることができる魔法である。

私はやっと見つけた獲物を、あと一歩のところで逃したのである。



『グアァァァァァァァ』


咆哮をあげた熊の魔物は少女を獲物として定めたのか、ゆっくりと近づく。


「いや、来ないで『水晶の壁(クリスタルウォール)』」


少女と熊の魔物の間に水晶の壁が突如現れた。

熊の魔物は爪で壁を攻撃すると、壁はいとも容易く粉々に砕け散った。


「『水晶の壁』『水晶の壁』『水晶の壁』『水晶の壁』」


何度も何度も壁を作るも熊の魔物はそれを容易く砕き、徐々に距離を詰めてくる。

少女はあまりの恐怖に尻餅をついてしまった。


「『水晶の礫(クリスタルショット)』」


水晶でできた礫が熊の魔物に飛んでいくが、厚い皮膚に阻まれまるで意味をなさない。


「いや、いや、死にたくない、死にたくない」


少女はついに壊れた人形のように叫んだ。

熊の魔物はそんな様子の少女に鋭い爪を振りかざした。

少女は死を覚悟した。目をつむり、来るであろう痛みに怯えた。


「殺させない」


そんなつぶやくような声が聞こえた気がした。

目を開いた瞬間、辺りにおびただしい量の鮮血が舞い散り、熊の魔物の首が落ちた。

一瞬何が起こったのかわからなかった。

私が魔物に殺されそうになり、目をつぶったら次の瞬間、熊の魔物の首が飛んでいたのだ。


「もう逃がさない『縛鎖バインドチェーン』」

「キャア」


私は転移した人間に囮とされた獣人の少女を魔法で作った鎖で縛り拘束した。


人間を追うことも考えたが、転移場所がわからず断念せざるをえなかった。

それならばと囮にされた獣人のもとに急いで来てみれば、魔物に殺される直前であった。

あと一瞬遅ければ殺されるところであった。

貴重な情報源を殺されてしまわないように私は、身体強化の魔法を使い無理矢理筋力を強化し、熊の魔物を瞬殺した。

私は苦労して守った情報源である少女を鎖で拘束し逃げられないようにつるし上げた。


「【虎目ノ計測(アザゼル)】質問に答えて獣人。貴方の名前は?」


私は念のために、眼を虎の眼の様に変え、収納魔法から剣を取りだし獣人の少女に向けた。


「ノア。殺さないで……」


ノアと名乗った少女は表情が乏しかったが声が恐怖からか震えていた。


「余計なことは言わないで、聞かれたことだけ答えて。貴方の種族は?」

「銀狼種……」

「貴方の首輪をつけた奴らはどこに行ったの?」

「森のふもとの集落に転移した……と思います」

「思います?」

「わ、私は囮……確信がもてない、です」


少女は剣に視線を向けるとビクっと震えた。


「集落はどこ?」

「ここから歩いて一日くらいの距離のところ、です」

「集落はどのくらい人間がいる?」

「三十人くらい、です」

「そう。もう十分だわ」


私は剣を振りかざした。


「嫌、死にたくない!。やめて!」

「うるさいよ」


ボトっとノアの首に着けていた首輪が落ちた。


「これであなたは自由、故郷に帰るなりすればいい」


私は拘束していた鎖を消し、瞳を銀色に戻した。

ノアは困惑した様子で問いかけてきた。


「なんで?奴隷の開放は重罪。人間のあなたがなぜ?」

「人間?私をあんな屑どもと一緒にしないで!殺すよ」


私は剣をノアに向けた。


「ご、ごめんなさい。でも……」

「はぁ。なんで私が屑どもの法を守らないといけないの?貴方の悪趣味な首輪が気に食わなかっただけ」

「ならなんで集落に行くの?」

「害虫駆除。貴方のお陰で奴らを皆殺しにできるわ」

「皆殺し?」


ノアは私の言うことがまるで理解できていないようであった。


「それじゃあね、ノア」

「ま、待って。うわぁ」


私はノアに別れを言うと再び影から狼を出した。

ついでにノアと話していた間に隷属化し、蘇った熊は一先ず森の中に移動させ後で陰に回収することにした。

影から現れた狼に驚くノアを無視し、私は背に跨り人間の集落に向かった。


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