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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第五十話 聖の日常side勇者

囲郭都市ユーノの一件から数日が経った。

都市が一つ滅びたという出来事が起きたというのに、私達はあっさりと普段の生活に戻った。


この世界に来る前なら、私はきっとふさぎ込んで部屋から出ることすらできなかっただろう。

だが、残念なことに今の私には、あの光景を見ても何も感じなかった。

漆黒の炎に包まれる街、無に返っていく光景は見ていて心地の良いものではないのであろう。

あそこに住んでいた人達の遺体は未だに発見されていないらしいが、おそらく全滅だろう。

大勢の人間が命を落とした出来事であるはずなのにその報告を聞いても何とも思わなかった。

クラスの一部は、悔しそうな表情をしていたのもいたが、誰一人涙を流す者はいなかった。


この世界の命の価値は低い。

弱者は強者に奪われ、弱者はそれを受け入れるしかないのだ。

地球にいたころでもハエや蚊なんかの命は平気で奪うことができた。

虫を殺すことに躊躇いがない人は、地球でも大勢いた。

魚や蛇も殺せと言われれば、私はきっと地球にいたときでも殺せただろう。

しかし、それが動物になると話が変わってくる。

同じ命で生きている生き物であるのにも関わらず、猫や犬を殺すのには激しい抵抗があることだろう。


この世界に来て、私はレベルを上げるために初めて生き物を殺す感覚を知った。

魔物との命のやり取りはヒリヒリとした緊張感を生み、振るった剣が魔物の肉を切り裂く感覚はおぞましく、生暖かい返り血は醜悪な匂いをまき散らした。

最初の戦闘は聖騎士の人が魔物を弱らせて、私がトドメをさすというものであった。

本当の意味では戦ってはいないが、トドメをさした後の魔物の虚ろな目は私に悪夢を見せるのには十分であった。

人形を使えない溢れた私以外のクラスメイトも同様に初めての殺しで顔が青ざめていた。

しかし、そこから数日経ったあたりだろうか、男子の数人が魔物を殺すことに躊躇いが薄れていった。

魔物を殺すこと、他者の命を奪うことで人間は自身の能力、レベルを上げる種族である。

レベルの上昇は、高揚感が伴い自身のレベルが上がったことを感覚的に認知することができる。


おそらくそれが、引き金になったのだろう。

レベルが上がったという高揚感が、命を奪う罪悪感を薄れさせていったのだ。

私も最初の方は嫌悪感や罪悪感が高揚感より勝っていたためにそれをはっきりと知覚することはなかった。

しかし、慣れとは恐ろしいものでゆっくりとだが、命を奪う度に罪悪感は薄れていった。

魔法をまともに扱えるようになってからは、それが顕著になり今ではもう魔物の討伐は作業の様になっていった。


話がそれてしまったが、私が言いたいのは『慣れてしまった』ということだ。

命を奪うのに慣れてしまった。

生き物が死ぬのに慣れてしまったのだ。


私だけではない、クラスメイトの誰もがそれがこの世界の当たり前だと理解し受け入れたのだ。

最初は、死にたくないから、殺さないといけなかったから色々な理由があったのだろう。

私自身も逃げた結果、魔物を殺すことでしかレベルを上げることができなかったから。

そうやって色々な理由をつけて命を奪ってきた。


しかし、気が付けば今の私は、無造作に魔物に魔法を放ち理由も無しに命を奪っているのだ。

何の感慨も無くただ、作業の様に……。


こんな風に変わってしまった私たちだから今もこうして都市が消えたというのに悠長に朝食を食べているのだろう。

結局はいつもと同じ時間に起き、朝食を食べて各自がやるべきことをやるのだろうな。

そんな日常が続くのだろうと私は朝食を食べながら考えていた。


私達がここに来てから既に二月経った今召喚当時とは若干環境に変化があった、以前は二人一部屋の相部屋であったのだが、各自に個室が与えられ私たちの要望は叶えられた。

もちろん限度はあるのだが、それでも大抵のことは叶えてもらえた。

例えば魔導書や魔道具の利用権から始まり、城内の庭の利用、嗜好品なども望めば提供してもらえた。

噂だが、一部の男子が性的な要望を出したらそれすらも叶えられたとか……。

流石にそれを聞いたとき私は、噂の男子に対して嫌悪感を抱いたが……。


私自身もいくつか要求を出したのだが、その全てが通った。

私が頼んだのは、部屋での食事、武器庫の利用、武具の優先的な使用権などであった。

いくつかはダメであろうと思っていたのだが、まさか全て叶えられるとは思わなかった。


今も私は自分の部屋で一人朝食を取っていた。

もともと人付き合いは得意な方ではないため、毎日クラスメイトに気を使っていたら肩が凝ってしまう。

まぁそうは言っても黙って食べているわけではなく、天使達と楽しく会話をしているのだが。

彼女達は私にとって、とても良く接してくれる。

私に対して媚を売らず着飾らず、優しく厳しくしてくれる。

時に批判し、慰めてくれる。

友人とは彼女達のような存在を言うのだろう。


『ヒジリ、野菜を残してはダメですよ』

日輪ノ希望(ラジエル)の言う通りっすよ。野菜も食べないと大きくなれないっすよ』

「う……わかってるよ」


優しく、だが有無を言わさない雰囲気で日輪ノ希望(ラジエル)が私に注意をしてきた。

私は渋々皿の上に残ったニンジンの様な野菜にフォークを突き刺し鼻をつまみながら口に放りこんだ。

そして素早く野菜を噛むと果実水とともに飲み込んだ。


『まったく、ヒジリには困ったものです雪銀ノ知恵(ラグエル)もそうは思いませんか』

『そうですね。ご主人様にはもう少し大人になってもらいたいものです』

「もう~耳、いや、頭が痛いこと言わないでよ」


私は朝食を食べ終わると食器をそのままに部屋を出た。

部屋を出るとメイド服を着た職業メイドさんの二人が待機していた。

彼女達は優雅な動きでスカートを摘み、洗練された動きで朝の挨拶をしてきた。


「おはようございます、ヒジリ様」

「おはようございます、今日も朝ご飯美味しかったです」

「ありがとうございます、今日もお勤めですか?」

「はい。今日も森に行こうと思っていますが、何か依頼はありましたか?」

「今日ではありませんが、近々大きな依頼があるらしいですよ。こちら、本日の昼食でございます」

「ありがとうございます。それでは行ってきます」

「いってらっしゃいませ」


私はメイドさんから昼食を受け取るとすぐに収納魔法に収めた。

私はそのままメイドさんに見送られながら部屋を後にした。

これも個室になってから特典というのだろか、最初は申し訳なかったが彼女達のおかげで非情に助かっている。

朝食の後片付けは、メイドさんがしてくれるため部屋を開けておけば勝手にしてくれる。

部屋の掃除やベッドメイクも忘れずにしてくれるので帰ってくる頃には綺麗な部屋になっている。

おまけにご飯も美味しい、まったく異世界のメイドは流石の一言であった。



部屋を後にした私はすぐに外には向かわず、武器庫に向かっていた。

私は行きたい依頼がない限りは、ほとんど城の外の森で魔物を狩っている。

依頼があるときは基本的に彼女達経由で聞き内容次第では受けるようにしている。

私の専門は魔物というような印象をメイドさん達も理解してくれているようで、最近では魔物関係以外の依頼はそもそも私の耳には入らなくなってきた。

優秀なメイドさんで助かっているのだが、そんな彼女達が言う大きな依頼とは何なのだろう。

そんなことを考えながら歩いていると気が付いたら武器庫の前に来ていた。


私の通っていた高校の体育館の倍以上の大きさがある建物の中に入ると私はいつものように武器の管理をしている職員に話掛けた。


「おはようございます」

「これはヒジリ様、おはようございます。今日は何を借りに来たのですか?剣ですか、それとも杖ですか?」

「いえ、今日も新しいのがあればそれをください、なければ今まで使っていないのでお願いします」

「二つほど新しい武器が入っておりますよ。すぐにお持ちするので少し待っていてください」

「わかりました」


そして待つこと数分、大きめのギターケースのようなものを二つ持った職員が帰ってきた。


「こちらが、勇者様の新作でございます」

「ありがとうございます」


私はギターケースのような長方形の入れ物を開け中身を確認した。


「使用法の説明をいたしますか?」

「いえ、結構です」

「了解しました。それではこちら二点の貸し出しでよろしいですか?」

「はい」

「それではサインをお願い致します」


私はいつものように紙にサインすると武器を収納魔法に収めた。


「それでは借りて行きますね」

「はい、それではまた返却の時に声をかけてくださいませ」


私はそのまま武器庫を出ると城門に向かった。


ストックが切れてしまったので、これ以降の投稿は不定期になります。


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