第四十七話 試験
私達は獲物が来るのをじっと木陰に隠れ待っていた。
索敵能力が低下しているからといってみすみす見逃すほど私の魔物達は甘くはないのだ。
私とルナは山道を挟む様に道の木に隠れ、ノアとクレハは木の上で獲物が来るのを待った。
獲物が姿を見せるのはそう遅くはなかった。
ゆっくりと進む馬車を囲むように四人の冒険者らしき男女が歩いてきた。
馬車は四人の歩く速さに合わせているか、ゆったりとした動きで御者は護衛の冒険者と親し気に話をしていた。
冒険者の装備は、お世辞にも良いものとは言えるものではなく。
如何にも駆け出しの冒険者といった様子であった。
しかし、手加減などしない。
奴らが人間である以上は確実に葬る。
馬車が徐々に私達に近づくも彼らから目立った動きは見えない。
攻撃を仕掛ける地点に馬車が近づいてくる。
「『不可視の新月』」
「『不可視化』」
私とルナは静かに魔法で姿を消しノアは、じっと木の上から魔法の狙いを定めている。
そして馬車が私達の前を通りかかった。
「『水晶槍』」
ノアの魔法と同時私とルナは動いた。
私は目の前の剣を持った男を背後から両足を斬り飛ばし、膝から下を失った男をそのままの勢いで喉に刀を差し地面に突き立てた。
そして、勢いのままに弓をもった男の胸を刀で貫き腸を引き裂いた。
ルナの標的の女剣士は分身したルナに四肢や目を切り裂かれ、ほぼ一瞬で無力化された。
ノアの放った極細の水晶でできた槍は、杖を持った人間の四肢を貫き地面に縫い留めた。
「ひぃぃぃぃぃ」
「きゃぁぁぁぁ」
「いだぃぃいだぃぃぃい」
御者や冒険者たちは何が起きたのか理解できなかったのか、一瞬呆けた様子であったが理解するや悲鳴をあげた。
「おっと逃がさないよ『縛鎖』」
無傷であった御者はすぐに馬車から離れようとしていたので、私が魔法で拘束する。
ついでにと馬車の中で震えている子供も鎖で縛りあげておく。
私が魔法で御者たちを縛り上げている間にノアはクレハを連れこちらに来た。
「アリスあれ私のだからね。」
「はいはい、それじゃクレハは私についてきて」
ノアはクレハを私のもとに連れてくるなり先ほど自分が魔法で地面に縫い付けた者のもとへ行ってしまった。
「ルナは?」
「アリス私も一人で遊んでるから気にしないでいいわよ」
「はぁ。わかった。それじゃクレハ少しここで待ってて」
「あぁわかった」
私はクレハをその場に残したまま捕まえた御者と子供を私が殺した二人の死体の近くに転がした。
死体を前に鎖で縛られた二人は悲鳴をあげた。
「嫌だ。嫌だ。殺さないでくれ!」
「お父さん、私死にたくないよ!助けて!」
うるさい人間どもを私は無視し、クレハを呼んだ。
クレハは、こちらに来るなり僅かに顔を顰めたが直ぐにもとの表情に戻った。
「クレハ、コレ殺して」
「こいつらを俺が殺せばいいのか?」
「そうだよ。クレハが殺すの。あ、武器まだ渡してなかったね」
私が収納魔法からナイフを取り出そうとしたのだが、クレハは首を横に振った。
「え?殺せないの?」
私が聞き返すとまたクレハは首を横に振った。
「いや殺せる、武器は持っているから必要がないだけだ」
クレハそう言うと目を閉じ両手を左の腰に当てた。
それはまるで私が刀を抜くときの様な構えであった。
「来い『徒桜』」
クレハの呼び声に応えるように先ほどまで何もなかったクレハの腰に一本の刀が現れた。
私が驚いているとクレハはクスリと笑うと刀について教えてくれた。
「これは俺の『贈り物』『刀』だ。刀限定だが、刀の生成と技能を所持者に与える『複合型』だ」
「クレハも刀を使うんだね」
「まぁな。これ俺を試してんだろ。ちゃんと人間を殺せるか」
「えぇっと……」
「ふふふ。別に隠さなくてもいい。殺せない奴を仲間にはできないってことだろ。それはいいんだが……」
「ん?どうしたの?」
クレハの顔は俯かせながら小さな声で呟いた。
「その……せっかくもらった可愛い服、返り血で汚したくないなぁって」
「あははははは、そんなこと気にしてたの?そんなの魔法で綺麗にしてあげるから大丈夫だよ」
クレハは表情をパァっと一瞬だけ明るくするとすぐに刀に手をかけた。
本当は、殺すのを躊躇して嘘を疑ったのだがそんなことはなかった。
まるで何かの枷が解き放たれたかのようにクレハの雰囲気が暗く鋭くなった。
クレハは一切の躊躇いも無く刀を抜き放ち一閃——。
ポトリと子供の腕が落ち、そこから鮮血が噴き出した。
腕を落とされた子供は絶叫した。
痛みに大きな声を上げる子供、それを見て幼い子供の様に泣き叫ぶ父親。
クレハは返り血で全身を自身の髪と同じ真っ赤に染まっていた。
「いやぁぁぁぁぁ」
「やめろぉぉぉぉ」
「はは、ははは、あはははははは。痛いか?憎いか?苦しいか?辛いか?悲しいか?怖いか?恐ろしいか?悔しいか?」
クレハは刀を二人に交互に振っていく。
そのたびに二人の身体の一部を斬り飛ばし、彼らの体積を奪っていく。
クレハの笑い声に徐々に怒気が混じり始め、自身の感情を徐々に露わにしていく。
溢れる憤怒、殺意、憎悪を刃に乗せて振う。
「俺もそうだった。痛かった。辛かった。苦しかった。お前たち人間が憎くて憎くて殺したかった」
腕を奪い、足を奪い、耳を奪い、目を奪い、鼻を奪い、腹を裂き、胸を裂き、喉を裂き、首を落とし、最後に命を奪った。
クレハは二人の首を落とすと刀に着いた血を振り払い刀を収め消した。
辺りは血の海が広がりとても鉄臭い。
「……すまない。少し興奮してしまった。これでいいだろうか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「なんで敬語なんだよ」
「ごめん。つい……」
思わず敬語で話してしまい、クレハは困ったように笑った。
前にも似たような光景を見た気もするが、あの時よりも殺意というか憎悪が濃いような気がした。
クレハが私達よりも大人だからというのもあるのだろうが、その鬼気迫る迫力に私はビビってしまっていたのだろう。
とういうか普通に怖かった。
綺麗な大人の女性が本気で怒るとここまで恐ろしいものとは思わなかった。
私やノアも大概だと思うが、クレハも残念ながらこちら側らしい。
「なぁアリス俺の返り血早く落としてくれないか?その気持ち悪いだが……」
「あ、うん。ごめんごめん。すぐ落とすよ『清潔化』」
「ありがとな」
「うん」
クレハの服を綺麗にして直ぐにノアもルナも同じように嬉しそうにノアとルナも帰ってきた。
「はぁ……二人も随分派手にやったね」
「うん、あと任せた」
「流石にここまでは酷くないけど、私も任せたわ」
「はぁ……はいはい、それじゃ二人も綺麗にしてあげるから動かないでね」
私は二人の服を綺麗に掃除したあと、いつもと同じ様に魔物達を使って死体を隷属化した。
隷属化した時、死体の様子を見たのだがどちらもなかなか酷い様子であった。
ノアが殺した者は全身を細い槍で串刺しされており、ルナが殺した者はどうやったのか内部から溶けていた。
クレハは死体を小間切れにするわ、ノアは穴だらけにするし、ルナは半分ほど液体になっているしで再生に時間がかかってしまい、結局私達は今日はここまでしか進めなかった。




