第四十五話 お洋服
その後、ノアの機嫌を取るのに本当に苦労をした。
そのときのことを思い出しただけでも恥ずかしくてたまらない。
ノアは始終そのことで私を馬鹿にして、結果機嫌を直してくれたのだが、色々と思うところがあった
ノアの機嫌が直りやっと全員が服を新調した服にそでを通した。
「みんな新しい服はどうかな?」
「悪くない」
「まぁまぁのできね。特にこの尻尾のことを考えたデザインは好きよ」
ノアもルナも満足した様子で新しい服についての感想をくれた。
二人の服には、尻尾を出すために隙間をつくるなどの工夫をした。
服のサイズもデザインも二人にピッタリ合うものだと自信はあったのだが、二人の高評価に作った私自身も満足していた。
私の創った服は、二人の髪の色に合うようにノアは青と白のベストにホットパンツ、ルナは黒の丈の短いドレスのような服であった。
ちなみに私の服は黒いゴシック気味な服で私的には、可愛さとカッコよさが合わさった服だと自負している。
「アリス少しいいか」
「なにクレハ?もしかして服サイズ合わなかった?」
「いや、そんなことはない。むしろピッタリで怖いくらいだが……。まぁそんなことよりサラシってあるか?」
「サラシ?何それ?」
淡い朱色の着物を纏ったクレハが、気まずそうに私に話かけてきた。
クレハが言うには、サラシとは着物を着るときに下着の代わりに身に着ける帯のことであるらしい。
しかし、私に刀の使い方を教えてくれたおじさんは、着物を着る女性は下着をつけないといっていたので、私は気になってクレハに聞いた。
「クレハでも、着物って下着をつけないものだと聞いたんだけど」
「それはそうなんだが……」
クレハは、頬を掻きながら少し顔をそらしながら言った。
「……胸が邪魔なんだよ」
「ん?」
「だから胸が大きくて動きにくいんだよ」
クレハが胸の話題をだした途端、私達の目線は吸い寄せられるように彼女の胸に集まった。
三人の視線が自分の胸に集められていることに気が付きクレハは、胸元を隠した。
ちょっと前までは裸でも気にも止めていなかったのに、心境の変化があったのか恥ずかしがっている。
「み、見るなよ」
クレハは羞恥から、胸を両手で隠すのだが大きすぎるその存在を隠すことはできずにいた。
これが男性陣なら喜ばしいイベントなのであろう。
だが、この場には女性しかおらず、クレハの大きな胸を見た私達の視線は必然的に自分の胸に向かった。
「大丈夫、私はまだ大きくなるもん」
「まだ成長中、私もタユンタユンになる」
「……大丈夫よね?まだ大きくなるはずよね?」
私達は各々が自分の胸の大きさをクレハの胸と比べていた。
「む、胸なんてあっても邪魔なだけだぞ。動きにくいし、肩だって凝るんだぞ」
「理屈じゃないんだよ!」
「持たざる者の気持ちも考えて(ちら)」
私がクレハの発言に噛みつく中、ノアは何故かルナを見た。
いや正しくはルナの胸を見た。
ルナの胸を見たあとノアはニヤっと笑い、ルナもそれに気が付いた。
「おいエロ犬、今なんで私を見て笑った?」
「見てない。ルナが持たざる者なんて思ってない。まな板くらいにしか思ってない」
ドスの聞いたルナの質問にノアは飄々と暴言を吐いていく。
「だ、誰がまな板だ!私だって、私だってちゃんとあるわよ。小さいけどちゃんとあるのよ」
「ノアもクレハに比べたら大差ないんだからやめなよ。ルナが可哀そうだよ」
「か、可哀そうって、なにちゃっかり巨乳サイドに入っているのよ」
「アリスだってまだお子様」
「私がお子様?なにを言っているのかな?私はもう大人よ」
「ふふふ。お子様だよ。だって『キスしたら子供出来ちゃう』んでしょ」
「は?」
「え?」
「な、な、なにを言っているのか!」
最初はノアとルナの言い争いを止めようとしたはずなのにノアが爆弾を落としたせいで標的が私に変わった。
「ノアさっきの一体どういうことなのよ」
「そのまんま。アリスはキスしたら子供ができると思ってる。さっきアリスにキスしてくれた許すっていったら『子供が出来ちゃうからダメ』って断られたの」
「アリス貴女……」
「俺は……今のままでいいと思うぞ」
「う、うるさいーー!」
三人から向けられる優しい目に私は耐え切れず叫んだ。
小さいころお父さんとお母さんに聞いたときに教えられたことをずっと真実だと思っていた。
しかし、ノアにそれは嘘だと教えられ散々いじられたのだ。
だが、まだいじられた方が良かった。
今なら恥ずかしさだけで死ねる気がする。
「アリス誰しも通る道だからそんなに気にするな」
「そうよ。ふふふ、全くアリスは可愛いんだから」
「うん。アリスは可愛い」
「う、うるさいよ」
ひとしきり笑ったあと、私はクレハに言われた通り石を変成してサラシを作った。
作ったサラシはすぐにクレハに渡した。
「さて、それじゃご飯にしようか」
「うん」
「やっとご飯ね」
「ご飯か……」
私がご飯というと獣人二人はいつもの如く尻尾を振り、料理を待ち構えている。
一方クレハというと何か感慨深い雰囲気であった。
「クレハ何か食べたいものある?」
「食べたいものか……暖かいものが食べたい」
「そう。二人は?」
「「肉」」
「あははは、それ以外にないの?」
「「ない」わ」
私は収納魔法から以前に作ったお肉たっぷりのシチューやふわふわのパンなどを取り出し振舞った。
ご飯を食べる中、クレハは涙を流しながらご飯を食べていた。
「クレハ美味しい?」
「あぁ。旨い。とても旨い」
「そう。好きなだけ食べていいからね」
「アリス」
「うん?」
「ありがとう。心から感謝する」
「そう。ならちゃんと食べてね」
私はクレハにそれだけ言うと目の前の食事に手を付けた。
ノアの時も暖かい食事で彼女は涙を流した。
食事というのが彼女にとって特別なものであったのだと思っていたのだがどうやら違ったらしい。
彼女達は食事を通じて満足感や幸福といった『小さな幸せ』を感じて生を実感しているのだろう。
『小さな幸せ』を通して今自分が確かにここで生きていると感じている。
止められてしまった時間が動き出していることを感じている。
生きているという、そんな当たり前の幸せを尊いものだと思い出しているのだ。
幸せを感じているクレハに水を差すような無粋なことをしない。
これまでのこと、これからのこと話さなくていけないことは色々あるのだが今はいいだろう。
私は幸せそうにご飯を食べるクレハの邪魔をしないように静かにパンをちぎった。
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