第四十三話 クレハ
短めです。
私が彼女、燃える様に赤い炎髪に二本の漆黒の角を持つ鬼人の彼女のもとに行くと、ちょうど目を覚ますところであった。
鬼人の彼女は私の存在に気が付いたのだろう。
彼女はゆっくりと体を起こしながらこちらに目を向けた。
あの時、緋色に染まっていた瞳は、心臓を取り除いたおかげで彼女本来の色を取り戻していた。
彼女の瞳は夜空のように美しい漆黒に変わっていた。
「お前は……」
「目が覚めたみたいですね。よかった……。私はアリス、吸血鬼です。あなたは?」
「俺はクレハ、鬼人だ。そうか、お前が殺してくれたのか……」
クレハと名乗った彼女は、呟くように言った。
「私のこと覚えています?」
「あぁ。体はアイツに操られていたが、大体のことは覚えている」
「そうですか。一応、貴女の身体は治したのですが、違和感とかありますか?」
私が聞くと彼女は全身の感触を確かめるように触っていく。
今現在クレハは、ローブを上から羽織っているだけで、他には一切身に纏っていなかった。
そのためクレハが先ほどから、隙間から彼女の肌が見え隠れしているのだが、当のクレハは恥ずかしがる素振りすら見せない。
一通り確かめたあとクレハは問題ないと言った。
クレハは、地面の上で胡坐を組む様に座り直し、両手の拳を地面に付け頭を下げた。
「アリスだったか?改めて感謝する。アイツを人間達を殺してくれてありがとう」
「うん……でも感謝なんてしなくていいですよ。私は貴女たちを助けられなかったから……」
おそらくだが、私達があの日に行動を起こさなければ、まだ捕まっていた者たちは死なずにすんだかもしれない。
予知されなければ、違う結果になったかもしれなからだ。
全ては後の祭りなのだが、それでも私は素直に感謝を受け入れられなかった。
俯く私にクレハは頭を下げたまま続ける。
「お前のおかげ、これ以上あいつに苦しめられる奴はいなくなった。もうあんな目にあう奴はいなくなった」
あんな目というのは、おそらくあの場にあった拷問器具で行われていたことなのだろう。
「だから、俺はお前に礼を言う。ありがとう」
「……うん」
クレハは頭を上げ、立ち上がった。クレハの身長は高く頭一つほど私より高かった。
最後に再び礼を言うとクレハは、背を向けて歩きだそうとした。
「待って!どこに行くんですか?」
クレハは、呼び止められ足を止めたが、振り向かずに応えた。
「本当なら、アリス。お前のためにこの命を使ってやりたいんだが、生憎と俺にはやることがあるんだ」
「それって……」
「俺の中にはな、アイツの実験のせいで死んだ奴らの絶望やら悲しみなんて感情が馬鹿みたいにあるんだ、だけどなそれ以上に人間への憎悪、憎しみ、怒りが俺の中にあるんだよ。悪いな、せっかく助けてもらったのに……俺は奴らが生きているのが許せないんだ」
「殺すの?」
「あぁ、この世界に生きる人間一人残らず皆殺しにしてやる」
「クレハさん死んじゃうよ」
クレハは自嘲気味に笑った。
まるでこれから自分の歩んでいくであろう先を見据えているかのように悲しく哂った。
「せっかく助けてもらったのに悪いな」
「……」
「安心しろ、俺も一応戦闘部族だ。簡単には死なねぇよ。それじゃあ」
「待ちなさい!」
クレハはそれだけ言うとまた歩き出そうとしたが、それを後からきたルナが呼び止めた。
「誰だお前?」
「私は黒猫族のルナよ」
「私は銀狼族のノア。私達はアリスの仲間」
「俺にまだ何か用か?」
「人間を殺したいなら私達と一緒に来なさい」
「お前は勘違いをしている。私達はお前を助けに行ったんじゃない。街の人間を皆殺しにするついでに助けただけ」
明らかに年上であろうクレハにノアとルナは、生意気にもかみついた。
だが、二人の態度が気にさわったということもなくクレハは、キョトンとした顔をした。
「皆殺しだと……ははは。そうか、そういうことか。アリスなぜそれを先に言わなかったんだ」
「クレハさんが話を聞かずに勝手に歩いて行こうとしたんじゃないですか」
「あぁ……それはそうだったな。すまなかった。」
クレハはバツが悪そうに頭を掻きながらこちらに振り返った。
私は困ったようにクレハに微笑んだ。
「改めてクレハさん、貴女に人間を殺す覚悟がありますか?全てを犠牲にして屍を超えていく覚悟が」
「あぁ」
「私達と一緒に人間を殺しませんか?クレハさん」
自分で言っていてもひどい誘い文句であると思った。
けれど、私達の歩む修羅の道にはちょうど良いのかもしれない。
私がクレハに手を伸ばすとクレハは力強く私の手を握り返した。
「クレハでいいぞ、アリス。お前に俺の全てをくれてやる。この体、この命好きに使ってくれ」
「うん。これからよろしくね、クレハ」
私はニヤっと笑みをこぼしながら応えた。
それに意味するところは、クレハには分っていなかったが、獣人二人は理解していた。
「あ、言っちゃった」
「言質取られたわね。まぁ仕方ないわね。」
「絶対アリス、クレハ吸う気」
「そして私たちもか……。でもこれまでと同じじゃないわよ」
「毎回やられてばっかりじゃない。ここからは復讐の時間。今回は勝つ」
これから起こるであろうことを予期し、四人は笑みを浮かべていた。
もっともクレハは、復讐することができるという歓喜にも似た笑みであるが、三人は違った。
思春期な女の子であるから尚更なのだろうが、これから起こるであろう不純な行為を想像し笑みがこぼれてしまっているのだ。
どちらも決していい意味の笑みでないのだが、それでも彼女たちはこれから起こることを楽しみにしていた。
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